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わたしを嫌いな角砂糖  作者: 赤の他人
7/8

告白

「先生は好きですが、男は嫌いです。だから、先生のことは嫌いなんです。」


案の定だった。

先生は「よく…わからないな」とひとこと言って、もう帰りなさいと言いきらずに去っていった。


「ですよね…」

わたしは先生の背中にちいさく呟いた。




それは突然起きた。

先生が学校を遅刻した。それまで無遅刻無欠席だった先生が、職員朝礼とクラスのHRの時間を優に超えて、2時間ほどの遅刻をしたのだ。たったの2時間といえばそうだが、周囲のひとはみんな口を揃えて「久川先生が、めずらしい。」と言っていた。


わたしのせいかな、と少し思った。昨日、あんなこと言ったから気にしてたりして、なんて。


結果的にそれは違った。単に、目覚まし時計をかけ忘れたのが理由だった。先生は慌てて教室に入るなり、「いやっ、本当に申し訳ない!目覚まし時計をかけ忘れたんだ…初めてだよー 本当に……イカれてるなぁ…」半ば呟きのようだった。

クラスの目立つ子は「もうちょっと遅れてもよかったんですよー!笑」とか「ちょっと休んでください」とか言っていて、先生は「うるせー、そういう訳にはいかないだろ」とか適当に返していた。ちょっと笑っていた。



「なーんだ。」

わたしはとってもとっても小さな声で呟いた。



時間はあっという間に過ぎて、先生は今日、ひとこともわたしに話しかけなかった。授業の時も、クラスの雑談の時も。

わたしも敢えて声をかけなかった。



帰り際、階段を降りきったとき呼び止められた。

先生だった。

階段のてっぺんに先生は立っていて、少し息が上がっていた。


「ひとつ、聞きたいんだけどさ。」先生はそう一息ついて、

「俺が女だったら、どうだったの」 と、聞いた。


どうもこうもない。

そんなの、絶対に、先生じゃない。

「そ、そんなこと、聞くまでもないと思います」


あぁ、わたしって馬鹿だなあ。素直になれない。なんで、こんな棘のある言い方しかできないんだろう。本当に……


「そうか、、よかった。」

先生はふぅぅと長い息を吐いて呼吸を整えた。

「笹井は俺が好きなんだな。」


「へっ。」


先生はどストレートに言い切った。恥ずかしがるでもなく、つんとしているわけでもなく、潔く。

「な、なんで…そんなこと、言うんですか………」


わたしは恥ずかしくて消えそうだった。先生に堂々と言われたらどうしようも無い。逃げたくて仕方なかった。でも足が動かなかった。


先生は軽く笑いながら、少しずつ階段を降りてきた。


わたしと目が合う高さまで来た時、

「笹井、卒業して、仕事をして、色んな人に会って、それでも俺を忘れられなかったら考えてやってもいいよ」


もうわたしの顔は真っ赤になっていたと思う。体が熱くて全身に熱を持った。ずるい。先生はずるい。



「そ、そんな風に言うなら、、何も言わないでほしかった……!」


また、わたしは先生を突き放した。 どうしても性格は変えられないらしい。

最低だ。


「いいよ笹井。素直になれないのが普通だろ。わかるよ、ごめん、昨日言えなくて。俺でも緊張してるんだよ、先生だって悩むんだからな」

先生は、今更のように耳を赤くし照れたように口元を手で覆った。


「ずるいです。」


「あはは、ごめん」



ちがうの。

この「ずるい」の本当の意味は、「本当に先生が好き」なの。


ずるくて、女に慣れてない先生が好き。でも、嫌い。好きだから、嫌いだから、先生のこと好きなの。



「あ、あと、今日の遅刻は目覚まし時計のせいじゃないぞ。笹井、おまえのせいだからな」


「っ!!?」



ほんとに、ほんとに、ずるい。

はぁ、ずるい。

あぁ、もう、忘れたくても忘れられない。こんなひと、生涯もう会わないよ…。


「ずっと忘れないから、お願いです。今から考えておいてください」


先に歩き出した先生の背中に向かって、先生に聞こえる声で言った。

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