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わたしを嫌いな角砂糖  作者: 赤の他人
6/8

彼女

派手なピンク色の髪をしたお姉さんが立っていた。

夜の駅のホーム。

チカチカと消えそうな蛍光灯に照らされたピンク色の髪は蛍光灯よりも明るくて、こっちのほうが頼りになる。お姉さんはすごく細くてちょっとぶつかっただけで骨が折れちゃいそう。余分な脂肪がほとんどついていないようだったから、ほんの少し触れてみたいと思った。

お姉さんはずっとケータイを見ているようだった。とても集中してケータイを見つめ、時々高速に文章を打つ。長いネイルが画面に当たってカツカツと音がする。


ごおおおおおおおお

「列車が到着します 離れてください」

轟音とともに放送が響き渡る。

次の瞬間だった。


「あ」だか「ん」だか聞き取れなかったが、短い声を発し、お姉さんがバッと振り返った。そうして、ほんのすこし口角をあげたのだ。

わたしを見つめ、笑った。

すばやく前に向き直って一瞬にして線路に消えていった。


同時にぴしゃという小さな音と赤い雨が降ってきた。

お姉さんは消え、目の前にはお姉さんのケータイだけが残された。

赤い雨にずぶぬれになりながら、わたしはケータイを拾った。

画面には先程まで誰かとメールのやりとりをしていたと思われる形跡があった。


『あたしもういくね』

「なにいってるの?」

『電車が来る』

「え、まさか どうして!どうして?」

『あたしはもうどこにも帰りたくないの』

「なんで、わたしはどうなるのよ」

『あなたはどう頑張ってもあたしに追いつけない』

『あたしはあなたとは違うの』

『いままでありがとう。あたしを愛してくれて』

『あなたはあなたの道をすすむのよ』

「いかないで」


ここでやりとりは終わっていた。



わたしの声は届かなかった。

彼女に響かなかった。




目の前にいたのはわたしの恋人だった。

ピンク色の髪はわたしがしてあげた。彼女が派手なピンクに染めたいというから、ふたりで毛染めをたくさん買ってきて、家で染めた。


『あんたに褒められるのすっごいうれしい!またやってね!あんたの髪はあたしが染める!』


彼女はとても美しいひとだ。


肉塊になっても。


いつまでも、彼女は存在していて、わたしには見えなくても、いつも、、


わたしは嗚咽をもらし 泣いた。

駅員さんが飛んできて、他のお客さんを避難させ、警察と救急車が来て、事情聴取やら彼女との関係なんかを聞かれ、現場調査や彼女の体の一部が見つからなくてあたりを捜索したり、消毒したり…


それらはあっというまに片付いた。


彼女の体の一部……華奢な腕、右腕が肩から指の先までが全く見つからない。

ここ数日、腕の捜索をしてみて見つからなかったらすべて終わりにしようということで、その日が終わった。





最終的に、

彼女の右腕は、自宅にあった。

わたしと、彼女の家…… 彼女が大好きだった庭に、庭に咲いている薔薇のちかくに、添えるようにあった。

ぼてっと落ちた様子はなく、ほんとうに、誰かがやさしく置いたように…。










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