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わたしを嫌いな角砂糖  作者: 赤の他人
4/8

さがしもの

「先に行ってて、外で待っててよ」

友達のサキが学校の帰り支度のときに言った。わたしはなんで?と問うた。

「んー、内緒。あ、小さな男の子を見かけても、声かけないでね」

サキは早口で言うと教室を飛び出して暗い廊下に消えていった。


サキの足音が聞こえなくなったことを確認して、わたしは玄関へ向かった。

これは日常茶飯事だった。必ずサキは放課後にひとりでどこかへ行くのだ。

まるで、わたしの知らない世界にひとりで行ってしまうように。


玄関で靴を履き替えて、わたしは学校を出た。校庭を歩いていると目の端になにかが左右にちらついているのを捉えた。

わたしの脳内に「ブランコ」が浮かんだ。


それは本当だった。

ブランコに小さな男の子が座って、一生懸命にこいでいた。

わたしはしばらくその男の子を見つめていた。目を離すことができなかった。どうしてだかはわからない。

一瞬、その男の子がこちらを向いたような気がした。ほんとうに一瞬だった。わたしの気のせいかもしれない。


ふと、サキの言葉が脳内を掠った。

『小さな男の子をみかけても、声をかけないでね』



「カァ」とカラスが一声鳴いた。

そのときわたしは我に返った。いままで現実世界ではないところにいたような感覚だった。


__ブランコには誰も乗っていなかった。

わたしはそこに、誰かが、なにかが乗っていたような記憶があった。でももう思い出すこともできなくなった。そんな現実はなかったというように、さっぱり記憶から消えてしまっていた。



「アヤ」

後ろから急に呼ばれた。サキが戻ってきた。

「…サキ、あのね……」

わたしは今さっき起こったことを話そうとした。でも言葉が、声が、喉にひっかかって出てこなかった。そもそも何が起きたかなんてわたしはすっかり忘れているのだから説明もなにもできないのだけど。

サキに言いたかった。さっきのことを。サキにはぜったいに。


「なに?どした?」

「………。」

何も答えられなく俯くわたしをサキは覗き込んだ。

「あれっ」

サキは驚いた声を上げた。

その声にわたしも顔を上げた。


「アヤ、それ、どこで……?」

サキの声は震えていた。最後の方は聞き取れなかった。



わたしは強く手に握りしめているなにかの感触をいま初めて感じた。

手を目の前に持ってき、その手をゆっくりと開いた。


「アヤ、もしかして、見たの?」

サキは泣いていた。それはそれは大粒の涙をぼたぼたと落としていた。


わたしの手には小さな手作りのくまのぬいぐるみがあった。


「っ、声をかけないでねって言ったの、守ってくれたんだ?」

サキは泣きじゃくりながらもしっかりと口にした。つられてわたしも泣きそうになった。



サキは一言言った。

「弟なの。この間、火事で死んだ、わたしの弟なの。」


サキはありがとうと言って、くまのぬいぐるみを優しく、ぎゅっと抱きしめて、ずっとずっと、ずっと、泣いていた。



また、カラスが「カァ」と一言鳴いたのを、わたしは聞き逃さなかった。

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