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第11話 それぞれのチカラ

 レニエアルド軍がウルスラグナ軍と交戦を始めた時、ウォーレスはエリスの後方で待機していた。

それは、ある作戦を実行するためだ。

これは現在交戦している兵力に差があることから決めた策であり、それを伝令を通して各将軍へと伝えてある。


その為左翼にはゴットハルト、右翼にはエリスの副将軍であるルイとロイがついている。

後は仕上げであろうもう一人が間に合うかどうかだが、そこは心配していないウォーレス。


「さて、そろそろ敵が迫ります故、みかどは少々後ろで待機して頂きます。護衛として我の部下が周りを固めますので心配ありませぬ」

「……大丈夫なのか?」


未だ少女の亡骸を抱いたまま、秋貴はウォーレスへと問う。

数が少なかったとしてもアングリフたちグランディア帝国の兵でも太刀打ちできなかったのだ。

秋貴自身怒りによって戦うことを決めてしまったことがあるだけに、ここにきて不安がよぎっていた。

だがそれを見抜いているのかウォーレスは笑う。


みかど、不安になる事などありませぬ」


それから西洋武士である彼は腰に差してある刀を抜く。

彼の前には、徐々に押されてきているウルスラグナ軍とそれを食い破ろうとするレニエアルド軍。

良く守ってはいるが、このままいけば中央に穴が開くのも時間の問題だろう。


「どうした獣ども!? もっと抵抗してみろ!」

「ぐっ!!」


攻め立てるレニエアルド軍の兵士は、攻めながらこの先に待つ勝者による残虐な行為に酔いしれている。

そして何度も攻防を繰り返していた時、一人のウルスラグナ兵が武器を弾かれて無防備な身体を曝け出した。

その隙を逃さず、レニエアルド軍の兵が今までに血を吸っている銀の剣を身体に突き立てようとしたその時。

疾風のように視界に何かが飛び込んできたかと思うと、風を切る音が聞こえた。


「…………え?」


剣を突き立てようとした兵の視界が斜めにずれている。


(何が起きた……?)


そう疑問に思ったのもつかの間、その男は何も知らないまま絶命した。

周りも一体何が起きたのか分からず動揺しているが、一つだけ分かっていることがある。


「もう、ここから先へは行かせぬぞ。行きたくば我を倒してから行け」


そこにウォーレスが刀を持ち、レニエアルド軍に立ちはだかっていた。

全身鎧で顔が見えず、またその上に紋付き袴を着ている異様な姿にレニエアルド軍は狼狽える。


「変な恰好をしやがって! てめえもこの剣で串刺しにしてやるよ!」


だが、ここは戦場である。

すぐに我に返ったレニエアルド軍の兵士が殺気を込めてウォーレスへと剣を持ち突っ込んでくる。

その後ろからも続くようにウォーレスへと敵が殺到してくるのが見えた。

それを認識しつつも、ウォーレスは自分の服装などを貶されて嘆息する。


「我のこの恰好をお主にとやかく言われたくはない」


そして刀を下段に構えると、迫る兵士が剣を振り下ろすのに合わせて刀を下から上へと切り上げた。


鎌柄太刀かまえたち!」

「があっ!?」


その瞬間、ウォーレスへと突っ込んできた兵士は胴体と下半身が斜めに分かたれた。

そして、その付近があまりの衝撃で爆発でも起こったかのように辺りを吹き飛ばす。

土煙が舞い、暫く何も見えなかったが時間と共にそれも晴れると、そこには刀に直接切られてもいないのに、最初に切られた兵士と同じようになって死んでいる者が複数倒れていた。


「ふむ、まぁこれならいけそうであるな」


そう呟くウォーレスは、更に続けてくる敵に対して静かに待ち受けて構えなおす。

そこに相手が突っ込んでくるが、それでも個々の速さに差があるのかウォーレスへと辿り着くのはバラバラだ。

まず一人、剣を上から振り下ろしてくる前に鎧ごと胴を二つに切る。

次に二人目、剣を横薙ぎに振ってきたのを刀で上に逸らすように弾いてから袈裟懸けさがけに切る。

続いて来る三人目の敵は全体重を乗せた突きを繰り出すが、それを柄頭つかがしらで当てて逸らして首を切る。

そうして次々に迫る敵を時には受けて、逸らし、切り払う。


魔法を使ったのは最初の一度だけ。後はウォーレス自身の能力でそれを行っていた。

また、敵からしたら独特な歩法ほほうを持つウォーレスの動きを捉えることができていない。

局所的ながらも、まさに一方的な展開だった。


「さて……ゴットハルト、ルイとロイは上手くいっているだろうか」


敵を切り続けながら、ウォーレスはそんな事を呟く。

中央の突破は阻止した。

ならばあとは左右翼さうよくの者たちが順次ことを運んでくれるだろう。

そうウォーレスは信頼しつつ、敵の迎撃に刀を振り続けた。






そんなウォーレスが信頼をよせているであろう左右翼の一つであるロイとルイは、


「いい加減お前俺の援護してくれよ!」

「はん、残念でした。ワタシが言う事を聞くのは陛下とエリス様だけだから」

「このアマァ……っ!」


喧嘩しながら戦っていた。

騎士鎧を着ている赤い髪をしたロイは片手剣と手盾を装備しており、敵の繰り出される攻撃を盾で受け止めてから剣で反撃している。

だが、如何せんロイに攻撃が集中しているのか色々と捌くのに苦労していた。

それを鹿人族かじんぞくであるルイは、巨大なハンマーを振り回して眼前の敵を文字通り薙ぎ払いながら挑発した笑みをロイに向ける。


「マジでヤバいからな! これ演技じゃないぞ本当だぞ!?」

「はいはい、右側危ないわよ?」

「うおっ?!」


そうしたやり取りをしながらも、二人は敵の攻撃を掻い潜りやり過ごしている。

押されることも、押し返すこともなく、右翼の戦線は膠着状態を維持していた。


「くそ、舐めやがってっ!」


それに業を煮やして敵が猛然と攻め立てるが、ロイは防衛を主に、ルイは攻撃を主に行う事で対抗している。

一進一退というよりも、まるでそうしないといけないとでも言うようにルイとロイは戦線を動かす気配がなかった。

そうしたことから、敵の兵士は何かに気づいたのか嫌らしい笑みを浮かべる。

もしかしたら、こいつらは彼らの隊長であるべラクールと戦っている金髪の女の勝利を待っているのではないかと。

だからなのか、それを思いついた男はルイとロイに対峙しつつも二人に向かって告げた。


「そういえば、あの金髪の女は運が悪かったな」


その言葉を聞いた二人の肩が一瞬動いたが、それに気付かずにレニエアルドの兵は言葉をつづける。

相手の指揮官はべラクールに成す術もなくやられると言われれば士気が落ちる、そう考えての行動だった。

それが地雷だと分からずに。


「あのべラクール様と無謀にも戦おうってんだからな。今頃返り討ちにあって殺されてるだろうよ!」

「は?」「あ?」


それを聞いた瞬間、ルイとロイの二人の周りの空気が一変した。

先ほどまで二人でお互い言い合っていた筈なのに、いつの間にかその視線は言葉を放った敵へと向いていた。


「よく言ったな雑魚野郎、うちの大将軍様があんな槍野郎に負けるって?」

「ワタシのエリス様が、たかだか槍を持って粋がる小物に負けるとかふざけてるの?」

「ひっ!?」


突然殺気を漲らせた二人に気圧されて言葉を放っていた男は後退あとずさる。

後悔しても遅い。

彼は二人の虎の尾を踏んでしまったのだから。


「その言葉」

「死んでもなお後悔し続けろ」


男はその言葉を聞くなり、二人によって切り刻まれ、重い打撃によって粉砕された。

あんなこと言わなければよかったと、後悔しながら。

そうして右翼の戦線は維持されたまま、時が来るのを待つ事になる。






左翼では、堅実な攻防が続いていた。


「敵よりも少ないことを念頭に置いて、今は戦線を維持することに集中しろ」


ゴットハルトは部下に指示を出しながら周りを見渡している。

軍馬に乗ったその姿は威風堂々としており、誰が見ても指揮官だと分かるだろう。

だからなのか、敵はゴットハルトを目指すように殺到している。


「敵は単純だな。誰か指示する者がいないのか? それともただ指揮官が分かっていないだけか……?」


だが、ゴットハルトは動じずに戦況を見極めている。

右手に突撃槍とも言われるランスを持ち、いつでも戦闘ができるようにもしていた。

そうしつつもゴットハルトの部下である兵たちはまるで壁のように敵に立ちはだかり、崩される事は無い。

それは彼の部下がすべからくゴットハルトに鍛えられてきたことの証明でもあった。


「この程度ならば私が出るまでもなさそうだな」


兵の質にそれだけの差があるとも言える発言をする将軍。

それを少し離れたところから弓で狙っている男がいた。


「へっ、無防備に佇んでるとか狙ってくださいと言っているようなもんだな」

「相手の指揮官を殺せば戦線は崩壊するだろうからな。外すなよ?」

「分かってるよ」


弓で構える男を隠すように立っている兵士が、期待するような目を向けてくるのを感じながら、男は弓を極限まで引き絞る。

その男は、今まででこうして戦場の最中に敵の指揮官を弓で狙撃していた。

そして、そのどれもが成功している。

また、魔法を使う暇など与えず殺すことにも、彼の中の誇りやプライドを積み重ねていった。

だから今回も成功すると確信のようなものまでもって、極限まで引き絞った矢を解き放った。


(食らえっ!)


男の放った矢は寸分違すんぶんたがわずゴットハルトの頭へと吸い込まれるように飛んでいく。

ゴットハルトはその時、違う方向を向いているために飛んでくる矢を視界には収めていなかった。


「よしっ! 獲った!」


だからこそ男はそう叫んだ。

男のイメージ通りに飛んだ矢はゴットハルトを射抜く、そう思っていた。

ゴットハルトの頭を射抜く寸前、それを片手で掴んで止めていたのを見るまでは。


「…………は?」


これには男も呆気に取られる。

飛来する矢を正面から手で止めるのでさえ困難なものを、ゴットハルトは見もせずに受け止めたのだ。


「そこか」


それを、矢を受け止めた本人であるゴットハルトは無感動に矢が来たであろう方角を見て、男を視認した。

それを認識した男は悪寒を覚えて周りに叫ぶ。


「逃げろっ!」


だが、それを叫んだところで遅かった。

ゴットハルトはその男の方向へとランスを向け、、魔法を唱える。


「『穿うがち貫け光の槍』」


するとゴットハルトの周りに光るランスが複数出現し、ゴットハルトの動作によって放たれる。

その速度は最早男が逃げるよりも早く、また正確に急所を捉えていた。そう、男の頭を。


「う、うわあぁぁぁぁっ!?!」


そして、男は迫りくる魔法の槍の一つに恐怖を抱きながら貫かれた。

そればかりか、その男の周りにいた兵士たちも巻き添えを食らって魔法の槍に穴をあけられる。

そのせいか、食い破られたかのように敵が穴だらけで倒れている場所が出来上がっていた。


「他には私を狙っている者はいなそうだな」


ゴットハルトは、そんな敵が魔法でやられていくのをそこそこに、戦況を再び確認していく。

彼の任務はただこの戦いを勝利に導くだけ。

その為に、ただ行動していく。



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