第1話 俺の未来が視てみたい
突然だが、この世界には幸福な者と不幸な者が存在する。
なら、幸せとは一体なんなんだろうか?
裕福な家庭に育てられる事が幸せなのだろうか?
戦争や紛争が絶えない国に産まれた者が不幸なのか?
当たり前の事だが幸福度とは人によって感じ方が違うものだ。自分自身がと感じているのなら、他の誰が何を言おうと幸せなはずだ。
しかし、この世界はそんなに甘くない。圧倒的な幸福度の差がこの世界にはある。いや、正確には幸福度の差が激しい国が存在している。幸福な者は幸せを満喫し、不幸な者は幸せを噛み締める事は許されない。
この狂いきった国・・・、世界に救いようはあるのだろうか?
不幸に見舞われながら己の手で世界を変え、幸せを掴み取る事が出来るのだろうか?
この世界を敵に回してまで、抗う覚悟があるのだろうか?
それを決めるのは自分自身。
そして、未来を変えるのも決めるのも自分自身。
なぜなら、不幸な者は未来を創造できる力を持っているのだから・・・。
今、俺がいるのは東京都の中心で、東京都の約1割の面積を占める巨大施設、「能力者管理施設」だ。
この施設は主にある事情を持った未成年が住んでいる。保育園から高等学校、学問塾やスポーツジムなど、人間が一般的に習得しなければならない能力を培う施設が整えられている。
が、この施設の本命はそこじゃない・・・。
「お、高校2年にして学園4位の天才君じゃないか!」
高校に登校中であった俺に1人の男が話しかけてきた。
「嫌味かそれ」
本当に嫌味に聞こえたので正直にそう答えておく。
「いや、実際に京介の能力はトップに値すると思うが・・・」
京介とは俺の名だ。高城 京介だ。そしてこの男は川崎 誠。
「まあ、ノーリスクでこの力が使えれば俺は強いだろうな」
「能力使わなくてもでも強いだろうが!この鬼畜野郎!」
そう言って、川崎は俺の肩をトンと拳を当ててきた。
「それよりも今年も俺達一緒のクラスになれるかな?」
ちなみに今日は2年になって初めての登校でクラス替えが行われる日だ。
「別に俺と一緒になれなくてもいいだろ?お前には友達いっぱいいるだろうに」
「酷い事言うなよ京介。クラスに1人でも友達が多い方が楽しいだろ!?」
俺は馴れ合うつもりはないし、そもそも川崎と友達になった覚えもない。
「そうだな、一緒になれるといいな」
そう言って適当に流しておくことにした。
川崎と出会って数分後、目的地の高等学校の校舎に到着した。
「俺達の名前どこにあるかなー」
そう言いながら川崎は、校舎の玄関前に張り出された張り紙を指差しながら俺達の名前を探す。
「お!」
川崎はクルッと俺の方に振り向き嬉しそうに寄ってくる。
あー、一緒のクラスだったのか。
「喜べ京介!俺と一緒の」
「分かる、言わなくていい。さっさと教室に行くぞ」
俺はチラッと張り紙を見てB組だという事を確認する。
「今年の担任は新任なのか・・・」
見たことがない名前だった。恐らく、今日から配属となったのだろうな。
B組の教室に到着した俺達は、指定席に座り担任の到着を大人しく待つ。俺達施設の生徒は、一般の生徒と違い軍事訓練なども取り入れている為、指導者がいなくても騒ぐことなく時間厳守もしっかり身についてる。故に今、興奮して騒いだりする奴は1人もいない。
ガラガラ・・・と教室の引き戸が開かれる。
「おはようございます。本日からこの学校に配属され、B組の担任の上木 真人と言います」
上木先生はにこっと笑顔をみせる。
「え、ちょー爽やかなんだけど・・・」
1人の女子生徒がぽろっと心の声が漏れたようだ。それが引き金となり、周りの女子生徒はキャーキャー騒ぎ出す。
先程の俺のセリフは撤回させてもらう。何が「しっかり身についている」だ。普通に女子をやってるじゃないか。
「ははは・・・、皆さん落ち着いて下さい。HR始めますよ」
「はーい!」
やっぱり爽やかイケメンは違うな。容姿も俺達と変わらないぐらい若いし、人気出るだろうなー。
「では、まず初めに私の担当教科を言います。主に数学を受け持っていて、もちろんこのクラスにも教えさせて頂きます」
「それともう1つ。私は今回、このクラスの特別授業も受け持つ事になりました」
特別授業。それは俺達施設に住み込む学生達が必ず持つ、異能力の向上を計る為の授業だ。それと同時進行で軍事訓練も行われる。
皆、鬼教師じゃなくて良かったと安心したようだ。
「そして明日に入学式が行われ、新入生が入ってきます。それによって学園ランキングの変動が行われますので、それに関しましては再度連絡致します」
「同時に今年度から実施される事になった、全国ランキングも提示します。範囲は能力施設者の保育園から高等学校、軍人、私を含む教師もです。」
この国の能力者全員か。噂には聞いてたが、本当に全国ランキングが実施されるとはな。
「最後になりますが、これから1年間よろしくお願いします。良い1年間にしましょう」
そう言って今年度初のHRの幕は閉じた。
「聞いたかよ京介。全国ランキングだってさ!」
HR終了後、川崎はすぐさま俺の席へとやってきた。
「ああ、俺もお前も全国だとランキング下がるかもな」
「俺はともかく、京介はどうだろうな」
「全国には俺よりもすごい能力者がいるかもしれないだろ?」
「そりゃそうかもだけどな・・・」
恐らく川崎は今まで未知だった世界に飛び込むのが不安なんだろう。もちろん俺もだ。自分の名が、自分の能力が全国に広がると思うと少し不安になる。
「あの爽やか先生、どんな能力持ってんだろうな」
俺はこの不安に満ちた空気を変えてやろうと思い、話題を変える。
「そういや、上木先生に限らず教師の能力って教えてくれてないよな」
そう言われればそうかもな。
「軍からきた教師だと思うけどな。だから教えてくれないんだろ?軍事機密ってのがあるし」
「そうだよなー、俺達施設の人間は外の世界をあまり知らないからなー。・・・っと、そいうや春休み中に四国のどっかで軍の施設が何者かに襲われたらしいな」
一時期話題になったあのニュースか。俺も気になって調べたみたが詳細は公開されておらず、唯一載っていたのは1人の青年が能力を使わずに軍の一個帯を壊滅させたとか。俺は海外からの工作員の仕業か軍から反逆者が出たのではないかと思っている。
「俺達も無関係ではいられないな。いつ巻き込まれか分からない」
「だな!特訓あるのみだ!」
特訓か・・・。いいよな、川崎は能力を使って戦う事ができるから。他の人間だってそうだ。
俺がいくら特訓して強くなったところで、能力を使われれば俺は勝てない。
どれだけ体を鍛えても、武術や剣術を極めても俺は勝てない。勝てなかった。
俺の異能力は使う時にリスクが生じる。いや、生じる恐れがある為、使用を禁止されている。実際に使った事もない。
しかしその何らかのリスクを除けば最強。未来をも変えることができる。
俺の能力は「未来予測」あらゆる人、物、自然の未来を視る事ができる、らしい。
俺はいつか能力を使う時がくるだろう。その時に視た未来がもし負の方向に進んでいたなら、俺はその負の進行を止めようとするのだろうか。他人のことなど気にせず放っておくのだろうか。
そもそも人の為に、己を犠牲にして能力を使うのだろうか分からない。
もし能力を使うのならば。
今この瞬間、俺の未来が視てみたい。
お読みいただきありがとうございました。物語の方はどうだったでしょうか?
自分の方針として常に「読みやすさ」を重視しています。これからも読者にとって読みやすい物語、続きが気になるような物語を創っていきますので、どうかこれからもお読みいただければ幸いです。