俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その2
■□■□異世界初日■□■□
■母帰宅
・異世界初日 14:10
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身の丈を越える真っ赤な槍を携え母親が帰宅した。
で、帰宅後の第一声がこれだ。
「あら、起きてたの?」
軽いよママン。
そもそもどこほっつき歩いてたんだよママン。
外出理由を尋ねると
「ちょっとお墓の様子見てきたのよ」という極めて予想外な答えが返ってきた。
墓て。
外、かなり物騒だぞ?
もしかして、ブログで騒がれてる程モンスターって沸いてねぇのか?
「外、モンスターいなかったか?」
「居たわよ」
「え、モンスターいんのに寺まで行ったのかよ」
「行ったわよ」
「え、なんで……?」
「お墓荒らされたら大変じゃない」
ダメだ。このママンはダメだ。
危機感というものがまるで足りてねぇ。このままでは早晩喰われてしまうに違いない。
「あんまり危ない事すんなよ……?」
照れくささを我慢して忠告してやったところ、すっげードヤ顔で槍を素振りされた。うむ、力強い素振りだ。何だこのBBA。
【武器召喚】ってアレか?
持ち主の性格を変える効果でもついてんのか?
ってか息子の俺がハープで、なんで母親が槍なんだよ。
マジで不条理極まりねぇな。
■武器召喚って強えぇぇぇぇぇぇぇ!!
・異世界初日 14:20
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うちの母親は槍なんて使った事がない。
にも関わらず既に10体ほどのモンスターを血祭りにあげたらしい。こわい。
「エイッ!」と突き出すと槍先から火の玉が発射されるらしい。こわい。
「おかげで槍をブッ刺さなくてもモンスター狩れるようになったわよ」
とは今や歴戦の戦士となったママンのセリフである。スゲェな【武具召喚】
ちなみに「火の玉飛ばし」は【武具召喚】のレベルが上がってから使えるようになったんだと。
最初は「刃先に炎を纏わせる」という技(?)しかなかったから大層苦労したらしい。
そりゃそうだよな。
いくらリーチが長いとはいえ、ある程度近づかないと攻撃当たんねぇしな。
それに心理的にもキッツイ。
「生き物を槍でブッ刺す」って相当ハードル高くね?
少なくとも俺には無理。絶対「ぐにっ」って手応えじゃん。そういうの無理。マジ無理ぃ……。
「何言ってんのよ。投げつけたに決まってるじゃない」
まさかの槍投げ戦士だった。
確かに投擲なら敵に近づく必要ねぇもんな。
けど唯一の武器を投げて大丈夫なのか?外れたら丸腰になるんじゃねーの?
「そしたらまた召喚するわよ」
そうだったわ。槍って召喚できるんだったわ。
炎を纏わせて投げつける事も出来る。
火の玉でお手軽遠距離攻撃も出来る。
しかも、任意のタイミングで手元に召喚可能。
【武具召喚】凄すぎだろーが。
■モンスターじゃないのもいるらしい
・異世界初日 14:45
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身長1mくらいの直立歩行する犬とかいるらしい。
飼い犬の一発芸とかじゃないぞ。
俗にいう「獣人」とか「亜人」とかいうタイプの生命体らしい。
今のところ正式名称はねぇみたいだから
便宜的に俺の日記では「獣人」って呼称で統一するぞ。
で、そいつらがモンスターから追われて逃げてたらしい。
つまり俺たちと同様「モンスターと敵対関係」にある生命体がいるってことだ。
俺もコメントで読んだ以上の事は知らねーんだけど
逃走中のそいつらを助けてやったら、ペコッとお辞儀された人間がいるらしい。
獣人、意外と礼儀正しいな。
モンスターとは敵対してるけど、俺たちには友好的って解釈でいいんかな?
いや、案外モンスターとの関係も「敵対している」んじゃなくて「一方的にエサとして狙われてる」ってのが正しいのかもしれねーけどな。めったくそ弱そうだし。
あとチョー可愛いらしい。チョー可愛いらしい。
大事な事なので2回書いた。
皆も見つけたら全力で助けてやってほしい。
カワイイは正義だからな。
■眼鏡覚醒!!
・異世界初日 15:20
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【眼鏡召喚】がとうとう本気をだしたらしい。
という旨のコメントを見かけた。大変結構な話である。
同じくネタスキルを持つ身としては、同胞の晴れ姿を是非とも拡散してやりたい。
と言う訳で、以下【拡散希望】だぜ!
・【眼鏡召喚】
レベルアップの条件は「眼鏡の召喚回数」
レベルを5に上げると【地図召喚】を覚える。
・【地図召喚】
地図を召喚する。周辺の地図が表示される。
人間やモンスターなんかも表示されるので結構便利。マッピングした面積に応じてレベルが上がるっぽい。
「意外としょぼいじゃねーか」ってのは禁句な。
元々は眼鏡を召喚するだけのスキルだったことを思えば、これでも頑張った方だろ。
あとスキルの謎がちょっとだけ解明されたのもデカい。
まさに眼鏡の功績だ。偉いぞ眼鏡。凄いぞ眼鏡。
・モンスターをしばかなくてもスキルのレベルは上がる
・一定レベルまでスキルレベルを上げれば、新たなスキルを覚えることがある
つまり【楽器召喚】も信じて使い続ければ、いつかは報われるかもしれないってことだ。
俺も負けてらんねーぜ!。
頑張ってポロンポロンするんだぜー!
■新俺、爆誕(するかもしれないという話)
・異世界初日 15:25
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「ポロンポロン五月蠅いから外でやって」
ママン。そりゃないぜ。
リビングでハープの練習をしてたら、大迷惑そうな顔つきのBBAから追放令を受けてしまった。解せぬ。
我が家の戦士様は五月蠅いのが大層お嫌いらしい。
ってか小脇に枕を抱えてるところから察するに、どうやら昼寝がしたいらしい。
昼寝て。
緊張感が無いにもほどがあるだろコイツ。
しかしながら戦士様。
是非ともこれだけは分かって欲しい。
俺だって好きでポロンポロンしてるわけじゃーねんだよ。
でもポロンポロンするしかないんだよ。
そう。俺はポロンポロンする事を強いられているんだよ。
出来る事なら、俺だって剣や槍を振り回してみたかったわ。
「じゃあそっちにしてよ」
できないのである。
なぜなら俺に生えたスキルは【楽器召喚】だったからである。
「なんでそんなスキル生やしたのよ」
知るか。勝手に生えてきたんだ。俺に聞くな。
ってか「望んでもないスキルが生えてきた」という意味ではむしろ被害者だ。
ママンに置かれましては、そんな不遇の一人息子にもう少し愛を持って接するべきではなかろうか?
より具体的に言うと、リビングでのポロンポロンくらい快く許可すべきではなかろうか?
「……」
なんで?ママンなんで無言で槍構えたん?
そんでもって、なんで穂先をこっちに向けるん?ねぇ、なんで?
「……」
ちょ……ッ。
穂先がメラメラ燃えてきたんだけど、それどういう意味なん?
「……」
血も涙もねーッ!
うちのママン血も涙もねーよッ!
かくなる上は一時的撤退だ。
そう判断した俺は「後で覚えてろよBBAめ。老後の世話とかメッチャ手抜きするからな俺は」などと心の中で罵倒しながら部屋を出た。
せめてもの腹いせに、渾身のポロンポロンを披露しながら。
と――
ここまでが今回の日記の前置きだ。
長い?安心しろ。書いてる本人ですら「長げぇ!」って思ってるからな。
でも大事な事だった。
ってかうちのBBAの傍若無人ぶりを誰かに愚痴りたかった。息子を槍で脅すとかあり得んよなぁ?
そんじゃ今回の日記の本編を開始するぞ。
渾身のポロンポロンを披露しながら、リビングを出ようとしたその時だった。
突如。頭の中にファンファーレが鳴り響いた。
てれれれてってってー。
メッチャ聞いた事がある音だった。
続けて饅頭がしゃべるようなシステマチックな声が続く。
”楽器召喚のレベルが2になった。”
”あいさつ(歌) を覚えた。”
”てなづける(歌) を覚えた。”
さぁ。面白くなってきたんじゃねーの?