俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その16
■□■□異世3日目■□■□
■絵本とエロゲ
・異世界3日目 16:40
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十分すぎる戦利品をGETし、意気揚々と帰宅したところ
キッチンが白銀の世界と化していた。
わーお。
壁も床も天井もチョー透明。
部屋中がカチンコチンに凍れる様子は、いっそ幻想的ですらあった。
圧倒的クリスタル感。
ラスボスとか棲んでそう。
だがしかし。ここは自宅だ。
即死攻撃を繰り出してくる強ザコとエンカウントしそうな雰囲気はマジ勘弁だわ。
何なんだよコレェェェェ!
この身を削るような寒さはよぉぉぉぉ!
俺は心の中で絶叫した。
魂の叫びだった。
多分これ、バナナで釘が打てるレベルの寒さだろ。
BBAホンキ出し過ぎである。
にも関わらず、その元凶たるBBAの姿がキッチンのどこを探したって見当たらないってのは、どういう了見なんだよ。
ちなみにBBAはいねぇけど、BBAの槍ならある。
あるっつーか、キッチンの真ん中で自立してる。
更に付け加えると、穂先から狂ったように吹雪を垂れ流してる。
どう見ても元凶だった。
オィィィッ!どういうことだよぉぉぉぉ!!
スキルって、槍掴んでないと発動できないんじゃなかったのかよぉぉぉ!!!
どうにも解せなかったので、BBAを探して問い詰めた。
ヤツはソファに横になったまま、マフィンをかじりつつこう答えた。
「レベル上がったら出来るようになったのよ」
なにそれこわい。
BBAの修羅化が止まらないんだが。
そろそろツノでも生えてくるんじゃねーのコイツ。
しかし、そんなドン引きしてる一人息子のことなんて気にもかけず
修羅BBAは「あっ」と呟くと、ソファに寝転んだままこんな事を言った。
「そういえば、農協さんがお肉引き取りにみえたわよ」
ん?
あぁ、そういやキッチンから肉が消えてた気がする。
いやー、マジで気付かんかったわー。
なんせクリスタル化してたからなー。
そっちのインパクトがデカすぎて、すっかり失念してたわー。
何にせよ朗報だ。
つーか、よく持ち帰れたな。
なんだかんだで1トン近くあっただろ。
人力で運ぶのは、相当しんどかったんじゃね?
「人力じゃないわよ」
「え、まさか車か?」
「違うわ。ソリよ」
まさかの回答だった。
え、ソリってあのソリ?
雪も降ってねぇ平地でソリ?
「旦那さんのスキルで、空飛ぶソリが召喚できるらしいのよ」
ホントなんでもありかよスキル。
何だよ空飛ぶソリって。メルヘンかよ。
思わず「サンタかよ」とツッコむと、BBAが喰らい付いた。
「あら、アンタにしては珍しく鋭いじゃない」
「まさか、旦那って白ヒゲのじじいとかか?」
「違うわよ。年の差を考えなさい」
いや、そう言われてもな。
正直なーんも思いつかねぇんだけど。
せめてヒントくれよ。
「フィンランド人よ」
答えくれたわ。
サンキューBBA (白目)
ってか、サンタと同じ出身地なんだな。
それでソリか。
なるほど。なるほど。チョー納得。
とか言うとでも思ったのかよバーカ!
思わずセルフノリツッコミしちまうくらいの衝撃だった。
うぉぉぉぉい!
何だよフィンランドってぇぇぇ!!
チョー気になるじゃねーか!
でもフィンランドについてよく知らねーから、想像すらできねー!
やっぱアレか。
エロゲのヒロインを娶ったんだから、エロゲの主人公みたいなヤツなのか?
前髪で目が隠れてるのか?
んで、ちょっと陰気なインドア派だったりするのか?
「絵本の王子みたいな人だったわよ」
なにそのギャップ。
2次元の世界じゃ永遠に出会えなかった2人だろ。
だって、絵本とエロゲだぞ?ジャンルが違い過ぎるわ。
あ、だからこそ3次元で出会ったってことか。
そう考えるとチョーロマンチックな話だったりするのか……?
わーい。ロマンチック。わーい。
………………。
農協メンバー、ちょっとキャラ濃過ぎるわ。
■火力しか上げないからこその修羅
・異世界3日目 17:30
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そういや昼飯食ってなかったわ。
思い出した途端、チョー腹が減ってきた。
【旅歩き】に夢中になりすぎたわ。
そろそろ何か食っとかねぇと、流石にヤバい。
俺が。というか
ペットたちが。って意味だけどな。
特にウィリアムがヤバい。
さっきから、シバ助のカバンに頭突っ込んだままピクリとも動かない。ヤバい。
でも、腹ペコ狼かわいい。
ぐでーっとしててかわいい。
でも、かわいそう。正直見てらんない。
今すぐ、大量の肉をお届けしてやりたい。
幸いにして肉は山ほどあるしな。
ホント比喩でも何でもなく、山ほどな。
つー訳で。
『さっきマフィン食べたからお腹減ってない』
等とふざけた事を抜かすBBAを急かし、肉焼きの実施を求めた結果。
「無理よ」
バッサーッと一刀両断されたわ。クソが。
腹ペコの息子に対してこの反応ってどうよ?
割とヒドいんじゃね?
当然、抗議したぞ。
「何でだよ。肉焼けよ」と改めて要求を突き付けてやったところ、ノータイムで言い返された。
「レベルアップしたって言ったでしょ」
「それがどーしたんだよ」
「槍の火力が上がったのよ」
BBAの修羅化がマジで止まらない件について。
何なん?そのストイックさ。
何で火力に一点極振りしてしまうん?
そのうち口から火の玉とか吐きそうでマジで怖いんだけど。
だがしかし。
それとこれとは話が別だ。
修羅化したから肉が焼けない。って意味わからん。
むしろ火力が上がった分、時短できそうじゃん。
だから早よ。肉焼き早よ。
ウィリアムが泣き出すその前にな。
しかし現実はどこまでも非情だった。
「お肉を無駄にするのも、忍びないじゃない」
ん……?
無駄になる?どういうことだ?
BBAのセリフに頭を捻っていると、衝撃の事実が告げられた。
「だから一瞬で消し炭になるのよ」
時短どころの話じゃなかった。
消し炭ってオイ……。
お前の火力成長率エグすぎるぞBBA。
しかしまだあきらめるようなじかんじゃない。
「マキに火をつけて、そっちの方で炙るとか?」
「マキが消し炭になるだけよ」
うひゃ。
「あー……じゃあ、遠火で炙るとか?」
「無理よ。炎にホーミング機能付いてるもの」
うひゃ。
「気合いで何とかなんねぇのか……?」
「気合いなんて入れたら、家ごと焼け落ちるわよ」
うひゃ。
前言撤回。
すでにあきらめるじかんでした。
と、ここでBBAがハァとため息を吐いた。
「むしろアンタの方で何とか出来ないの?」
「出来るなら、とっくに――」
と反論しかけたところで
ぺぽっというマヌケな効果音が脳内に響いた。
続いて
”要求を感知しました。”
”要求が受理されました。”
”【旅魔法】に【料理】系統の魔法を追加します。”
いつものアナウンスが流れた。
どうやら、スキルが強化されたらしい。
なるほどな。
ここでそれが発動する訳な。
この勝負、もろたでBBAァァァッ!!
たまにはいい仕事すんじゃねーかスキルの声ェェェッ!!
そうだよ、こういう感じのヤツを待ってたんだよォォォッ!!
大きく息を吸う。
大きく息を吐く。
普通に息を吸う。
そうして、修羅BBAに向かって俺はこう宣言した。
「まぁ、俺に任せとけよ」
「ドヤ顔してんじゃないわよ」
いや、ちょっとは褒めろよ。
いい加減グレるぞマジで。
■そんなのありかよ
・異世界3日目 18:50
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・【旅魔法】
快適な旅路をサポートするための魔法。
必要に応じて旅に便利な魔法が生えてきます。
※暖衣飽食に満ちた日本人でもストレス無く旅が出来るよう、
ハイパーカスタマイズされてます。
【たびびと】のLvが2に上がった時に生えてきたスキルだぞ。
ちなみに『日本人でもストレス無く』ってところがミソでな。
かなーり強烈に便利なスキルだったりする。
まさにハイパー。
いたせりつくせりとはこの事か。
これだけじゃアレなんで
これまでに生えて来たスペルも紹介しとくぞ。
寒空の下を歩くのが辛い!
⇒俺の周囲をぽっかぽかにする【暖房】の魔法が生える
生肉を掴んだ手が気持ち悪い!
⇒脱臭+消毒+殺菌とかが出来る【洗浄】の魔法が生える
な?チョー便利だろ?
確かにこんだけ手厚いサポートがありゃ
ひ弱な現代人でもストレスフリーに旅立てるわマジで。やんねぇけど。
ん?そんな素敵なスキルの存在を、何で今まで黙ってたかって?
んなもん一気に情報を出すと、まーたコメント欄が炎上するからに決まってんだろ。
恨むんだったら、これまでの己の所業を恨むんだな。
人の精神を何度も不安定にさせといて、被害者面は許さんぞ。
まぁ、そんな裏話はどうだっていいんだよ。
こうやってちゃんとブログ書いてるんだから、大らかな気持ちで許容するべきだと俺は思うね。
あー……ちなみにホントに念の為、注記しとくんだが
間違っても、これをネタにコメント欄を炎上させるのもNGだからな?
コメント制限付けてるからって、いつぞやみたく5,000文字越えの小論文みたいなコメントなんて書いちゃダメなんだからな?
ホント頼むからな。
ホント頼むからな (2回目)
ホント頼むからな (3回目)
おし、こんだけ念押ししとけばきっと大丈夫だろ。
……大丈夫だよな?信じてるからな?
つー訳で、今回は【料理】関係のスペルについて解説したいと思う。
まず【料理】のスペルを大別すると
「下ごしらえ」系と、「調理」系の2つに分けれるぞ。
それぞれ見ていこうと思う。
・下ごしらえ系
切ったり、すったり、潰したり、割いたり、剥がしたり、凍らせたり。
みたいな食材の下準備が念じるだけで終わる。チョー便利。
・調理系
煮たり、焼いたり、蒸したり、揚げたり、炒めたり。
みたいな調理の工程が念じるだけで終わる。チョー便利。
こんな感じだな。
ちなみに鍋とか皿とかは自動で用意してくんねぇから、自前で用意しとかねぇと悲惨な目に遭うぞ。
具体的に言うとだな。
切った肉が床にダバァと落ちたり、焼いた肉が床にダバァって落ちたりするからマジで注意が必要だぞ (真顔)
で、折角なんで【料理】をつかって肉を焼いてみた。
すると、ものの2分で焼き上がったぞ。スゲェ。
ステキ過ぎるだろ【料理】
これで食いっぱぐれる心配がなくなったんじゃね?
とか思ってたんだが、
実際に焼き上げた肉を試食した際、致命的な問題が発覚した。
何つーかな。
ウマくねぇんだよこの肉。
いや、この書き方だと語弊があるな。
ウマいのはウマいんだ。
なんせ素材はあの極上イノシシ肉だ。マズくなるはずがない。
ただ、BBAが焼いた肉に比べて
明らかに味が劣ってるんだよ。
どこがどういう風に劣ってるか、うまく説明が出来ないんだが
少なくとも、BBAが焼いた肉を食ったことがあるヤツに出せるクオリティじゃない。
だからウィリアム。
俺に身体をこすりつけるのを今すぐ止めなさい。
どんなにオネダリしてもこれはあげないぞ。
クゥーン……じゃない。
そんな声出しても無駄だぞ。
だから止めなさい。
もうちょっとだけ待ってなさい。頼むから。
じゃないと俺まで泣いちゃうわ……。
だってウィリアムかわいそうすぎるじゃん。見てらんねぇじゃん……。
不甲斐ない主人でホントゴメンなぁウィリアムゥ……。
でもダメなんだ。こんな失敗作をオマエに喰わせる訳にはいかねぇんだ。
そんなこんなで、しばらく「食べたい!」「あげない!」「食べたい!」「あげない!」の攻防を繰り広げていると、そんな俺達を見かねたのか、修羅BBAがのっそりと近寄って来た。
で、肉に槍を突き立てる修羅様。マジ勘弁。
で、そのまま器用に槍を操作して一口分の肉を切り分けると、徐に頬張った。
ちなみにその様子を見たウィリアムが「ヴゥゥゥ……」って威嚇してた。
相変わらずのBBAの嫌われっぷりに涙が禁じ得ない。
しかし、ウィリアムの威嚇に1ミリも動じることなく
肉を飲み込んだ修羅BBAは、真っすぐに俺を見つめながらこんなことを告げて来た。
「ちょっとパサパサしてるわね」
それな。
なるほど言われてみれば、確かにちょっとパサついてた気がするわ。
「あと脂が酸化してるわね」
それな。
確かに言われてみれば、ちょっと脂がクドくなってた気がするわ。
「なんでこんな事になるんだ?」
「アンタの焼き方がヘタクソだからよ」
まさかの結果だった。
マジか。
【料理】さんマジなのか。
あんだけ簡単にポンポン料理できるくせに
完成度は、俺の料理の腕次第なのか、もしかして。
目玉焼きは作れるけど、卵焼きは作れない。
ってレベルの俺にはちょっとハードルが高すぎるんですが。
衝撃の事実を前にワナワナ身体を震わせていると、修羅BBAがタメ息を吐いた。
「今日のところは監督してあげるから、お肉くらいちゃんと焼けるようになりなさい」
「監督……?」
「私の言う通りにやりなさい」
アッハイ。
僕知ってる。
これは逃げれないパティーンのヤツですわ。
この後、修羅BBAによる修羅特訓 (ヒント:槍)を受けた俺は
なんとか満足いく肉を焼けるようになった。
BBAの特訓ってエグい (白目)
PS.
BBAの特訓中に焼き損じた肉は【まほうのかばん】に格納した。
いっそのこと捨てたろかとも思ったんだが、流石に自重した。
だって世の中は食糧難らしいからな。
いくら大量の肉を確保してるからって、捨てるのは忍びねぇだろ?
ただ、俺が最初に焼いた肉だけは格納できなかった。
つーか、ペットたちに格納を阻止された。
もうちっと具体的に描写するとだな。
格納するために肉を指差すと、シバたちが手に群がってきて「きゅーん!きゅーん!」って涙目で訴えてきます。こんなん格納できるかよ。
ただ、執着する理由がサッパリ分からなかった。
まだ腹が減ってるのかと思って
「もっと焼くか?」と聞いたんだが、追加の肉焼きは必要ないらしい。
しばらくペット同士でガウガウワンワンと話し合ってたみたいだが
最終的には物理パワーを振りかざしたウィリアムが勝者となった。エゲツねぇ。
で、止める間もなく肉を頬張る勝者ウィリアム。
もともと大した大きさじゃなかったそれは、一口でウィリアムの腹の中に消えていった。
で、その後なんだが
肉を取られたエドガーがマジモードでウィリアムに喧嘩吹っかけてた。
よっぽど悔しかったんだろうな。
鼻頭に皺を寄せて「ガウガウッ!」吠えながら突撃するエドガー。
それを上機嫌で叩き落とすウィリアム。やっぱエゲツねぇ。
そんな大荒れの狼兄弟の様子を伺ってると
ようやく俺にも事の真相が見えて来た。
どうやら俺が味見でかじった肉が食いたかったらしい。
つまり俺と間接チューがしたかったらしい。
それに気が付いた瞬間。
そりゃもう身悶えたわ。
あーーーーもーーーーかわいいなッ!!
クッソ可愛いわウィリアム!!
もちろんウィリアムだけじゃないぞ。
”兄ちゃんんだけズルい!俺も食べたかった!”
あり得ないスピードでウィリアムに突撃をかましまくるドガーも可愛かった。
”じゅんばんかな……?”
”オレたちの番もあるかな……?”
”次のごはんのときかな……?”
モコモコ集まって、キラキラした表情で内緒話するシバ達も当然可愛い。
反射的に、ひと舐めした肉を全員に配ったろうかとすら思ったね。
でも流石に無理だったわ。
だって恥ずかしいだろ。
そんな変態みたいな真似できるかよ。
それじゃ、肉争奪戦後のペットたちの様子を紹介して今回の記事は終わりたいと思う。
[勝者写真:満足そうなウィリアムたん。勝者の余裕を見せつつエドがーを叩き落とし中 (チョーゴキゲン)]
[激おこ写真:鼻頭に皺をよせ、牙を剥き出しにするエドガーたん。こわい。けどかわいい (チョーゴキゲンナナメ)]
[もこもこ写真:もこもこ集まって、キャンキャンはしゃぎ中のシバファイブ (もっこもこ)]
かわいい。
ホンッッットにウチの子たちがかわいい過ぎてツラい。
ウヘヘー。