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対応

~首相官邸・危機管理センター~


「で、第一次外地探査の各艦隊からの報告書はこれで以上か?」


 目の前には北西(第一艦隊)、北東(第二艦隊)、南東(第三艦隊)、南西(第四艦隊)が作成した報告書が積み上げられ、壁を形成していた。


「はい、これで以上です」


「コリャ一日で読み終わる量ではないな……」


「お耳に入れておきたいことが……」


「ん?」


 囁かれた内容に思わず頭を抱えた。


「自称国王を海難救助ぉ!?」


「ええ、第四艦隊です」


 保野首相の脳内には、「誘拐」「奪還」「医療過誤」「衝突」等々の単語が浮かんでいる。


「ま、海難救助なら大丈夫だろ、他には何かあるか?」


「日本語を喋っていたそうです」


「日本語……そりゃ良かった……っておい!それ日本国民じゃないのか!?」


「本人の証言のみですが、前世が日本人だったそうで、護衛艦『あかぎ』艦内の見学を海自が許可してます」


「ま、日本が転移する位だし、あり得るか……」


 そのあと保野総理はお茶を一杯煽ると、報告書との格闘を開始した。




****





~ムサシ王国・ドリガン港・湾岸管理組合~


「いやぁ、しかし、よくあの海域で生きてましたねぇ」


 組合長が奇跡の生還を果たした国王にお茶を勧めながら言った。


「日本の海自と海保のおかげだよ」


「あの巨艦ですか……」


 窓の外の沖合には「ふぶき」が停泊していた。


「あれでも小型の方なんだよ……」


「そんな……」


 今までずっと技術的優勢を保ってきたムサシ王国の幹部として、また一人のエンジニアとして組合長はショックを受けている様子である。


「ところで、その海自の方はどこへ?」


「ああ、『ふぶき』に帰ってったよ、また外交官連れて戻って来るってさ」


「おお、それは楽しみですね……是非ニホンに行ってみたいものです」


「ま、俺から言っとくよ」


王城へと戻る為、キャリローと共に車に乗り込む。


「あ~あ……」


 思わずため息が出てしまう。


「ライタル帝国の奴らめ……調子に乗りやがって……」


 事の発端は二ヶ月前、ライタル帝国からの使者がやって来たことだった。

 使者とは思えないほどの高飛車な態度で要求された概要は以下の通りである。


・鉱山資源全部寄越せ。


・工場と技術全部寄越せ。


・堤防作るから毎年千人奴隷寄越せ。


・さもなきゃ侵略するから。

 当然丁重にお断りしたが、それが癪に障ったらしく国境に十万位の軍隊を張り付けられ、ちょっかいを出されているとのことである。


「なんてこったい……」

 こんな要求飲めば植民地コース、呑まなければ国家滅亡コースである。同盟を組めば戦えないこともないが、地域最大国家と敵対している国家と同盟を組もうと考える国はかつて我々がそうであった様に、どうやら居ないらしい。


「しかし、聞いた話ではもうすぐ日本の外交官がやって来るらしいからな、ここは国家元首としての意地の見せ所か……」


 フォルイが持っている箱の正体は、海自から貰った長距離通信用の通信機であった。


「これ、衛星が無いから無理矢理ブイで通信中継してるって言ってたな……」


 要するにいつ切れてもおかしくないという意味であり、もし切れたら外交官の派遣は延期され、周辺海域の調査が済むまで無期限延期である。


 しかし、この国が生き残る為には一日でも早く日本と手を結び、そして資源、食料供給で依存させ、何とかライタル帝国と戦って勝って貰って、尚且つこの国が日本の植民地にならない様にする必要がある。


 まずその第一歩として、この無線通信が切断しない事がある。要するに運である。


「エンジニアとして、運に頼りたく無かった……」


 つくづく自分の運命を呪うフォルイであった。




****





~日本国外務省・第四特別会議室~


 転移前、外交官を移民希望職員以外日本に呼び戻した外務省は、職員でごったがえしていたが、ここ、第四特別会議室、通称書類庫の人口密度は依然低いままであった。


「では、私が外地の国家へと出向いて交渉するんですか?」


「ああ、そうだ」


 外交官、太田宗一郎は日米安全保障条約の改訂会議にも参加した中堅の外交官であった。


「通訳は付くんですか?」


「向こうが日本語話せるらしい」


「それって日本語っぽい発音の別言語じゃ無いでしょうね……」


 日本語は元々の起源が多説存在する謎の言語である。


「大丈夫らしいよ、じゃあ、私は資源管理の調整会議があるからこれで」


 現在この世界において国交を結んでいない日本の外務省の主要業務は、経産省のお手伝い(資源管理)であった。


「お疲れ様です」


 席を立って瀬田外務次官を見送ると、思い出したように瀬田外務次官が言った。


「あ、表に海自の公用車待ってるから、荷物まとめて感染症予防センターまでそれで行ってね」


「あれ、佐世保じゃないんですか?」


 書類によると接触したのは第四艦隊、つまり多くの船の母港は佐世保にある筈である。


「ああ、予防接種受けて来いってさ」


 何の感染症が存在するかわからない以上、最大限の対策をとる。


「じゃ、頑張ってな」


「了解しました」


 暫くすると、太田の胸中はこの世界に来て初めての外務省としての仕事に選ばれた喜びでいっぱいになった。


「出世コースは間違いなし……やったね……」


 実は彼が選ばれた理由は「替えが効き、予防注射に耐える体力があって、そこそこの地位である」要件を満たしていたからだという事実は、彼が外務次官になり、機密書類を見るまで知る由も無かった……。

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