国王の帰還と港町の混乱
「『オオタカ05』より『ふぶき』へ、着艦許可を求む」
「『ふぶき』より『オオタカ05』へ、着艦を許可する」
着艦したSH-60Kよりフォルイとキャリローが降りてくる。
~護衛艦「ふぶき」~
「ようこそ「ふぶき」へ、フォルイ国王陛下、キャリロー様」
艦長の丁寧な応対を受け、キャリローは恐縮していた。
「い、いえ」
もう陸が見える場所まで『ふぶき』は移動していた。
「では、こちらの部屋にお入りください」
「はい」
部屋のソファーに腰かけ、疲れを癒しているとキャリローが話しかけてきた。
「あの……国王陛下?」
「ん?」
「日本って何なんですか?」
「私の前世が暮らした国」
「国民が皆、陛下の様な知識を持っているんですか?」
「ん~どうだろうな……」
国民が皆持っているかと問われると微妙である。
「民間でもこんな立派な船を作れるんですよね?」
「造船はあんま詳しくは無いからなぁ……」
「ここに居る艦隊だけで、我が国を救えますよね?」
「まぁ、そうだろうな」
航空機搭載型護衛艦の説明を受けた時点でキャリローの脳内にはF-35CJが帝国軍を爆撃するシーンが見えていた。
「何故艦隊司令に会って増援を頼まないのですか?もしかしたら情に流されるかも……」
キャリローに日本という国は書類と会議で動く事を教えるのをすっかり忘れていた。
「あのなキャリロー、日本は書類と会議で動くんだ」
「?」
「要するに、一人の人間がこうしたいと思っても、他の多数の人間が嫌がったら動けないわけだ。で、日本は私が知る限りよほどの事が無いと動かない、否、よほどの事があっても動けない自衛隊は軍隊じゃないからな」
「そんな……」
「まぁ、解決策はあるけどな……」
そんな会話をしていると、自衛官が入室してきた。
「時間です」
「分かりました」
複合艇に自衛官と共に乗り込むと、「ふぶき」から複合艇が海面へと降ろされる。
「着水!」
「では、行ってらっしゃい」
片絃に何人かの自衛官が並び、手を振ってくれている。
「この船……早いですね……」
三半規管が敏感なキャリローは、船酔いにとてつもなく弱い。
「ん?外輪船の時より揺れてないぞ?」
「そうですけど……」
すると、操縦する自衛官がスロットルを操作し、スピードを上げた。
「え?え?は、はやい!!!」
すると、キャリローは目を輝かせて後ろのエンジンや水面を覗き込む。
「ああ、速度を上げた方が安定するのか」
「はい」
複合艇はその特性上、速度がある程度あった方が安定する。よって速度を上げて艇を安定させるという隊員の気遣いであった。
「なんか人が集まってますけど、いいんですか?」
「う、うん、多分……」
****
~ドリガン港・湾岸管理組合~
「接近中の大型船、更に近付く!」
「了解、海軍本部に連絡しろ!」
「臨検隊に臨検させるか?」
「沿岸警備隊を呼べ!」
管理組合は突如出現した大型艦にてんてこ舞いになっていた。
海軍本部に問い合わせても、この辺りに艦船は展開していないという事である。
「海賊か?」
「おいおい勘弁しろよ……こちとらライタル帝国と戦争寸前なんだぞ……」
「不明船、急速離脱!」
「なんて速さなんだ……」
もともとDEとして開発された「ふぶき」型護衛艦は、40ノットの高速を発揮できる。
「ん?何か降ろしたぞ」
「え、何かこっち来たぞ……」
「避難指示!避難指示発令!」
「サイレン鳴らせ!サイレン!」
海賊である可能性も考慮してサイレンを鳴らす。
サイレンが起動され、港の民間人が建造物から出てくる。
「消防と警察が指示を求めてます!」
「陸軍に連絡しろ!」
その後も大騒ぎが続いていた。
~複合艇~
「え、えーと……」
港からサイレンが響いてきた。
「あの……拡声器ってあります?」
「あ、はい、ここに」
困惑する自衛官からマイクを借りる。
「え~国王のフォルイです、入港許可を求めます」
更に混乱が広がる。
~ドリガン港・湾岸管理組合~
国王の声が小型船から響く。
「拡声器にしては音質が良すぎる……」
「この頃沖合に出没している魔導海賊の疑いも……」
「まぁ、小型船だし、顔見れば分かるだろ、車を表に回してくれ」
「入港許可を出せ!」
「了解」
~複合艇~
旗が上がり、発光信号が送られる。
「入港許可出ました」
「おお、良かった」
複合艇の内部に安心感が広がる。早速着岸し、陸へと上がる。
~ドリガン港~
「フォルイ陛下!?」
「ああ、私だ」
組合長が近付いて日本語で耳打ちする。
「てっきり死んだものと思ってましたよ……」
「あの人達に助けてもらったんだよ」
怪訝な顔で複合艇を見る。
「あの旗……ニホンですか?」
「ああ、そうだ」
「では先程の大型艦は……」
「はい、護衛艦『ふぶき』です」
自衛官が答える。
「あれ、ニホンってこの世界に在りましたっけ……」
「4日前に転移してきました」
その時、頭が良すぎた組合長は今後、業務量が激増する事が一瞬で分かった。
「そ、そうですか……と、取り敢えず皆さま、こちらへ……」
首から下げた魔力感応石は無反応であることからフォルイ本人である確認がとれた為、取り敢えず組合の建物内に招いた。
これがムサシ王国と日本国の最初の接触であった。