救助者に対する聞き取り
4/17 加筆しました。
~航空機搭載型護衛艦 「あかぎ」 医務室 四番病床~
フォルイに対する聞き取りまで時は少し遡る。
「では幾つか質問します、先ず一つお名前は?」
「フォルイ・ホーヴァンです。フォルイでお願いします」
「職業は?」
「ムサシ王国の国王です」
突如、周囲の海上自衛官らが騒ぎ出す。
「おい、外務省に連絡だ!」
「それより先に真偽の確認をだな……」
「隣の子が起きたら確認しよう」
「艦長を呼ぼう」
「取り敢えずそうするか」
一つの結論にたどり着いた海上自衛官らは、内線電話を取り上げた。
「もしもし?艦橋?艦長は?え、仮眠中!?」
内線を掛けなおす。
「もしもし、こちら医務室……」
騒ぎを視界の端に捉えつつ、次の質問に移る。
「で、では次の質問に移らせていただきます……」
「それはそうと、国に早く帰らないといけないんですが……」
「そうですよねぇ……」
そう言いながらタブレット端末を取り出す。
「ウチのUAVが誠に勝手ながら周辺地域を測量させていただきまして、できた地図がこちらです」
この世界では滅多にお目にかかれない繊細な地図を見せられる。
「で、恐らくこことここが港だと思われるのですが、あってますか?」
「はい」
一つは軍港、もう一つは貿易港である。
「こちらにお願いします」
貿易港を指し示す。
「了解しました、では明日護衛艦『ふぶき』に移乗して頂き、そこから内火艇でこちらに向かいますが、その際外務省のスタッフとウチの隊員も同乗します」
「有難うございます」
「ところで……何故日本語を?」
「実は私、前世が日本人でして……」
「「「え゛!?」」」
再度周りが騒ぎ出し、その後精密検査を経て感染症の問題はないと判断され、解放されたのは二時間後だった。
「護衛艦『あかぎ』副長、橋上三等海佐です」
「ムサシ王国国王フォルイです」
「国王付き秘書官キャリローです」
簡単な挨拶を交わす。前世が自称日本人で、尚且つ日本語を流暢に喋る事が出来るという事で、防衛省からこの艦の案内を許可されたのである。で、副長自ら案内するに艦内の調整的になったのである。
「では先ず格納庫をご紹介します」
狭い通路と狭いタラップを通り、F-35CJがズラッと並ぶ格納庫に案内される。
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~航空機搭載型護衛艦「あかぎ」 第二航空機格納庫~
「所で……」
「何ですか?フォルイ様?」
「何で海上自衛隊なのに空母持ってるんですか?」
前々から思っていた事を口にする。
「これは航空機搭載型護衛艦です、空母とは似て非なるものです」
即座に空母であることを否定された。
「……分かりました」
「一寸良いですか?」
キャリローが手を挙げる。
「何でしょう?」
「ワイバーンを船に積むのは分かりますけど、何故飛行機を積んでいるんですか?エンジンが錆びてしまうと思うのですが……」
飛行機やジェット機に関する知識をある程度持つキャリローはエンジンを心配していた。
「防錆加工がしてあるので大丈夫ですよ」
「どうやってするんですか?」
技術者としての好奇心が止まらない。
「それは一寸……私も専門外ですので……」
想定外の質問にうろたえる。
「そもそも、この船の動力は何なんですか?こんな大きな船、見たことがありません」
「ガスタービンエンジンですが……後で機関室にご案内しましょうか?」
「はい!」
目を輝かせて喜ぶキャリローを尻目に、フォルイは何とか日本と同盟を結べないかと画策していた。
「あの……日本は航空機搭載型護衛艦を何隻保有しているのですか?」
「現有で四隻、建造中のも含めれば六隻です」
「はぇー……」
空母を四隻保有しているという事は、ドッグに入っている期間や休息、訓練等を考慮しても外洋に常に一隻の空母が展開できると言う訳である。
「変わりましたよ、昔とは」
「四隻も持ってるんですか!?」
突如、キャリローが飛び込んできた。
「この船はどこで作られたんですか?」
「三菱重工長崎造船所です」
「行ってみたいなぁ……その工廠……」
「工廠……んー……あそこは民間の企業なので……」
「え!?民間!?」
「ええ、他にもJMUとか三井造船とか、一杯ありますよ」
キャリローはこの艦が民間で作られた事に仰天していた。
「凄く進んだ造船技術をお持ちで……」
「有難うございます」
「ところで……トイレをお借りできませんか?」
「こちらです」
案内されてトイレへと辿り着く。
「では、ごゆっくり、あ、流す際はこのバルブを回してください」
実演付きで解説してくれる。
「有難うございます」
トイレの中で一人になり、洋式の便座に座ると、あるものが目に入った。
「なんて薄い紙……しかも長い……これがトイレットペーパーか……」
この船といい、この紙といい、照明といい、服といい……日本って何なんだろう……
その上この嵐にも関わらずほぼ船内が揺れていない……どうなっているんだろう……
そんなことを考えながら用を足すと、トイレットペーパーの隣に何か機械が付いている。
「ん?おしり……?」
『おしり』と書かれたボタンを押してみる。
ここでの彼女の不運は二つある。ひとつは覚悟ができていなかった事、もう一つは設定が『強』であった事である。
「ニャァァアァァ!?」
その後止め方が分からずトイレ内が水浸しになり、隠してあった秘蔵書類(検閲済み)が水浸しになってしまったのは秘密である。合掌。
~航空機搭載型護衛艦「あかぎ」 売店~
その後、一行は売店へとやって来た。
「ここは『あかぎ』の売店です。某大手コンビニエンスストアのご協力を得て、休憩時間や夜勤中に食べるおにぎりやコーヒー等を売っています……まぁ、サイダーは基本どこにでも置いてあるんですけどね」
「凄くカラフルな水ですね、コレ」
メロン味の清涼飲料水のペットボトルをキャリローが凝視している。
「あはは……」
口が裂けても人工甘味料とか着色料が大量に入っているからですなんて言えない。
「ああ、それ着色料が入ってるんだよ」
橋上三等海佐の気遣いを無視してフォルイが解説を入れる。
「へ、へー……」
辺りに沈黙が流れる。
「け、健康には問題ありませんので……」
やっとの思いで絞り出した言葉を何とか橋上三等海佐は放った。
「で、では、機関室へ行きましょうか」
「え、ヤッタ!」
~航空機搭載型護衛艦「あかぎ」 機関室~
キャリローさんの耳の保護はヘルメット被って貰えばいいか……。と橋上三等海佐はヘルメットと耳栓を渡す。
「なんですか?これ?」
耳栓はフォルイの真似をして着用できたが、ヘルメットを自分だけ渡され困惑する。
「その耳も機能しているとの事でしたので、それで塞いで下さい」
「成程、有難うございます」
全員が耳栓をしている事を確認した後、防音扉を開放する。
その瞬間けたたましい作動音と共に、巨大な機械が目に飛び込んできた。
「「コレ欲しい!!!」」
フォルイとキャリローが機関室の中へ飛び込むのを慌てて抑える。
「危険ですから!エンジンに触らないで!」
橋上三等海佐の声は聞こえていなかった……。