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緊急事態

日武合同指揮本部ロウガー


 ロウガー航空基地に所在する日武合同指揮本部では、敵方と同じく書類箱をヒックリ返した様な大騒ぎになていた。


「第二師団より入電、国境線上空に所属不明の飛行物体を確認、詳細確認求むとの事です」

「オールステーションへ、現在詳細確認中、暫し待て」

「現在攻撃を受けているのか?」「航空部隊より入電、街道沿いに所属不明の魔像部隊の展開を確認、規模等詳細不明」「中央からの報告によるとここだけで無く北の国境線にも敵が侵攻してきているそうです、詳細は不明ですが国境が突破されるのは時間の問題かと」「避難民はツルゴンに移送してくれ、後はそっちに任せる」「ブルーバードよりロウガーコントロール、方位098、距離320に大規模な敵航空部隊を確認した、尚規模にあっては100騎以上、詳細不明」「現在国境線から西に200キロ離れた地点に敵大部隊の集結を確認、このまま進行すると国境線が全面に渡って攻撃を受けます」「第二艦隊は北部へ向かい、地上部隊の支援に当たれ」「こちら航空自衛隊ロウガー航空基地、現在情報が錯綜しておりますが敵航空部隊の大規模な侵攻を受けている模様、下手すればここも占領されます」「待て、日本海北部に未確認艦隊発見との報あり、現在確認中」「近即の連中は準備でき次第第一防衛線に投入しろ、この分じゃ第一は接敵した瞬間に吹っ飛ぶ」「ええ、そうです、敵は方面隊規模です……訂正、それ以上、現在確認中」「第一防衛線に展開している部隊は速やかに重防護体制をとれ」「三沢にC-2Kを爆装して上げれるか聞いてくれ、制空は何とかなるがこの規模の地上はどうにもならん」「UAV、撃墜されました」「敵は何人居るんだコレ……」「情報を纏めると、現在北と西の陸空から大規模な侵攻を受けていると、そういうことだな?」「魔像ゴーレムかぁ……厄介だなぁ……」「近即より入電、第一防衛線へ展開開始するとのこと」「否、未だ交戦はしていないから分からん」「アラート待機の機は全部上げろ!兵装はそのまま対空で良い!」「敵突出部隊は国境から五十キロの所まで来ています、特科の射程内ですが撃ちますか?」「未だ交戦はしていないと?そうだな?」「ロウガーコントロールよりブルーバード、交戦待て、直ちに帰投せよ」「状況を整理したい、各所の担当者は現状をまとめて報告してくれ」「おい、これ日本も攻撃受けてないか?」




「状況を説明する」


 指揮本部の奥にある状況説明室ブリーフィングルームに一定階級以上の指揮官が集まり、皆が緊張した面持ちで正面のモニターを見つめる。


「現在ムサシ王国、及び日本国は陸海空から大規模な侵攻を受けている」


 主席幕僚である巣鴨一等陸佐がモニター横に立ち、部下たちに状況説明を開始する。

 そのモニターが起動し、『JMOD・JIPS(日本国防衛省・統合情報処理システム)』のロゴが数秒回転してから消え、情報が書き込まれ詳細な地形が殆わからない地図が表示される。


「情報庁からの情報によれば、敵は本日の日没中に国境から八十キロの地点に展開し、明日の夜明けに合わせて一斉に侵攻する予定らしい」


 左上の赤い箱から右下に伸びる矢印の横に『0515侵攻開始?』と情報が追加される。


「尚現在予想戦域上空の航空優勢については現有の航空戦力では維持が困難であると判断しこれを放棄、国境から十キロの付近まで係争状態にあるが、国境からこちら側の航空優勢は尚我々が保持している」


 国境線沿いの地域に赤く網がかけられ、「航空優勢喪失」と書き込まれる。


「増援部隊については、現在日本国から三個総合近代化即応展開師団、及び特設派遣航空隊が一次、一個航空機動旅団及び第七、九総合近代化即応展開師団が二次として派遣される予定であるが、以降については未定である」


「尚現在日本海北部に大規模な敵艦隊が確認されており、護衛艦隊及び付随する航空隊をその対処に投入するために敵首都に対する航空攻撃は中止となった」


 セヴァンに書き込まれていた青矢印の横に書き込まれた数字が消え、「未定」に置き換わる。


「状況説明は以上である」



 モニターの情報が更新され、新たに青色の矢印が書き込まれる。



「では、作戦を説明する」


 ムサシ王国に展開する自衛隊派遣部隊の総司令官、鳥居陸将補がモニター横に立つ。


「現在我々が保有する地上戦力では、予想される敵の侵攻を阻止することは出来ない」


 敵を示す巨大な赤矢印が此方に伸び、展開している部隊の上に点線で赤くバツ印が付けられる。


「よって、敵首都攻撃に投入する予定だったC-2Kを用いて敵侵攻部隊に対し大規模な戦場航空阻止作戦を実施する」


 赤い矢印に正対するように水色の矢印が置かれ、赤い矢印の下の敵部隊を示す長方形のマークに三角形で枠が作れれる。


「攻撃目標は敵本隊及び後方の補給システム、及び交通インフラである」


 幹線道路及び橋、そして中規模都市にも続いて三角形の枠が付く。


「それに先立ち、前線の対空陣地の破壊及び戦域上空の航空優勢を確保する必要がある」


「そのため、先ずムサシ王国空軍第11、12制空飛行隊及び航空自衛隊第401飛行隊により敵防空網制圧(SEAD)を実施、戦域上空の航空優勢を確保、その後日本国からの増援と共に作戦空域の敵航空部隊を撃滅する予定である」


 現在までに判明した敵の防空陣地が強調表示され、その後三角形の枠が付けられる。


「航空作戦についての詳細は追って通達する」


 地図が拡大し、国境線の詳細な状況が表示される。


「地上部隊はそれと共同し、特科火力を以て敵突出部隊の防空部隊を攻撃、SEADを支援せよ、敵地上部隊が侵攻開始した場合、これに対する直接照準射撃も許可する。作戦開始時刻は本日二十二日、2030からとする、以上、質問は?」


 着席した指揮官たちを見渡すと、一本の手が上がっているのが見えた。


「そこ」


「第11制空飛行隊からです、SEADについては増援は期待できないのでしょうか」


「期待できない、航空部隊の来援は明日の0230である、他は」


「ありません」


「では、全体ブリーフィングを終了する」


****


~ムサシ王国空軍・ロウガー航空基地・第11制空飛行隊・状況説明室ブリーフィングルーム


「作戦を説明する」


 ジェバン一等空佐がモニター横に立ち、第11制空飛行隊の詳細な作戦計画を説明する。


「現在我々が置かれている状況は知っての通り、かなり危機的な状況にある。コレを打開するため、先ず国境付近の航空優勢を奪還する」


 各員には予め個人用端末に現在置かれた状況が配布/共有されていた。

 ソレを受け、何人かは神に祈り、何人かは家に電話し、何人かは遺書をしたため、大多数は頭を抱えていた。


「それに先立ち、我々は敵部隊の防空網に対しSEADを実施する」


 その瞬間、パイロットたちの間に緊張が走る。


 SEAD……敵防空網制圧とは、読んで字のごとく敵の防空網を制圧する任務である。

 つまり、敵が待ち構えているところに正面からカチコミに行き、ボコボコにしてトンズラする……乱暴な言い方をするとこうなる。


「尚飛行歩兵及び特実による支援については今回は期待できない、又、日本からの増援についても全体ブリーフィングでは0230とあったが続報では0330以降であるとの事である」


 その場の空気があたかもラドンになったように思えるほど重くなるが、その後の発言で気体が液体に凝結し始める。


「突入時に国境から50kmの範囲に於いては特科火力による支援が受けられるが、それ以上は無い」


 モニターの情報が更新され、国境から50kmの目標に赤でバツ印が付けられる。


「尚敵防空戦力には我々に対抗可能な高出力魔導レーザー対空座や噴進誘導魔槍連装発射機等が確認されており、また敵航空戦力の来援も予想される」


 その後地図が消え、F-35AMの兵装図が表示される。


「今回搭載する武装についてはSEAD任務に対応し、対地攻撃を重視する為、ビーストモードを使用しステーションを増設、対空兵装についてはステーション1、5、7、11の四箇所にAIM-120(アムラーム)とAIM-9(サイドワインダー)が二発ずつと25ミリガトリング砲しか無い」


 ビーストモードとは、F-35が大量の兵装を搭載する必要が発生した際に使用するものである。

 ステルス機であるF-35は、本来なら誘導弾等の兵装を機内の兵装庫ウェポンベイに格納し、発射時のみその扉を開くというステルス性に配慮した運用をするのだが、ビーストモードを使用すると他の戦闘機と同じ様に主翼下にも兵装の搭載が可能になり、使用前と比べて約4倍の兵装を搭載出来るようになる。

 しかし、当然ながらその分機体重量は増加し、運動性の低下や燃費の悪化、更にはステルス性の著しい毀損といった弊害が大きく、本音では使いたくないというのが実情であるが、この際使わざるを得ないというのは誰もが認識していた。


「尚、南ポコロジア帝国から対空火器や電探レーダー等が供与されているとの情報もある、留意せよ、以上」


 南ポコロジア帝国とは、海洋開放時代以前には名前さえ知られておらず、つい最近までこちら側には全く影響が無かった東の海の果てにある帝国である。

 国名に『南』と付いているのは元々一つの国家だったポコロジア帝国が、百数十年前に南北に分裂してしまったのが理由だという。

 そして、彼らの片割れである北ポコロジア帝国とライタル帝国はつい数年前まで戦闘状態にあり、北と南で犬猿の仲だった南ポコロジア帝国が、「敵の敵は味方」理論で様々な援助を行ったらしい。


 この世界には魔導力を利用して生活する様々な巨大危険生物……通称大魔獣が存在するが、人が魔導を使うようになり、その周囲の魔導量が減少した結果、陸地では一部の僻地を除いてほぼ見かけなくなった。

 その一方、長らく海は大魔獣の楽園だったのだが、魔導を利用した船や、魔導媒体の不法投棄、微細魔導媒介金属の海洋流出等によって、その数は減少し、人類が海洋を自由に渡れるようになった。


 これが海洋開放である。


 そして、今まで殆どなかった大陸間での人類の交流が始まったのだが、ある程度国家が成熟し、技術もほぼ同等な国同士が出会ったら起こることは決まっている。


 そこで、最近になってようやく国際的な組織や枠組み、国際法等を作ろうという動きが出てきたのだが、それぞれの国が自分の都合の良いように事が運ぶようにしたいが為に、一向に話が進まないのが現状である。


 さて話を戻すと、ムサシ王国やライタル帝国が存在するフォルヴァン大陸では、ワイバーンや獣人、そして魔導、魔術が技術の中心であり、工学技術を重視するムサシ王国は珍しい存在であった。


 しかし、南北ポコロジア帝国が存在する南北ポコロジア大陸では、所謂「工学」に魔導や魔術を補助的に用いるという独特な技術の発展をしたため、工学技術も日本は兎も角としてムサシ王国を超える程ではないにせよ発展していた。


 その結果、魔導を中心としたライタル帝国軍は北ポコロジア軍に対して善戦したものの惨敗、戦力の四割を喪失して敗走するという大惨事に至った。


 その時から南ポコロジア帝国の兵器を参考として近代的な装備に対抗する兵器の開発は続けられていたが、日来戦争でのそれを超える敗北を経て急ピッチで作業が進行、南ポコロジアの供与装備を含めて一般部隊に行き渡るまで大きな時間はかからなかったのは流石である。


 だからこそ、今回のSEAD任務は大変な困難を伴うものであり、本音としては「やりたくない」というものであったが、自分達の後ろには守るべき故郷と家族、そして国家があるという自覚を持つムサシ王国空軍の兵士達は、その覚悟を決め、ブリーフィングルームを後にした。

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