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国家の意志

 投稿が遅れ申し訳ございません。

~首相官邸・危機管理センター~


「しかし、いつかは使うと思っていたが、ココで使うとはな……」


 事態対処会議を前に、閣僚席の後ろで閣僚の補佐に当たる省庁ごとの危機管理要員が顔を突き合わせて小さな会議を行っていた。


「しかし地震兵器とはな……経産省としては頭が痛いよ」


 これから発生するであろう莫大な経済的損失の予測計算が記された書類を見ながら呟く。


「幸いにして首都高とアクアトンネル、環状2号は生きてるから最悪の想定よりはマシだけどな……」


 前方のモニターに表示されている各所の被害状況を見つつ、誰かが呟く。


「東消によると、火元の家屋は旧建築基準法で建てられ、耐震改修が済んでいなかったモノが大半を占めてるらしい……転移後のゴタゴタでそっちまで手が回らんかったな……」


 総務省の担当者が唇を噛む。


「総理、入られます」


 一斉に彼らは持ち場に戻り、姿勢を正して礼をする。


「これより、国家存立危機事態対処会議を行います」


 防衛大臣の合図で、防衛省の職員が資料を配り始める。


「では只今より、本有事の対応、及び今後の展望についてご説明させていただきます」


 鴛崎防衛大臣がしわくちゃの資料を片手に馬蹄型テーブルの前に立つ。


「ご存知の通り、我が国は宣戦布告なしの先制攻撃を受け、東京を中心に関東地方の広い範囲で大きな被害を受けました。現時点に於いて詳細は不明ですが、少なくとも死者は一万人を超えます。

 攻撃手段ですが、情報庁からの情報によれば、『神の御業』と呼ばれる空間力を利用した大量破壊兵器を用いたと見られます。

 尚、外務省が民間人も無差別に攻撃したことに対して外務首が抗議を行った所、本有事のライタル帝国の戦略目標は国民の絶滅と我が国の抹消、つまり絶滅戦争である旨を外務省経由で通告してきました」


 出席者たちが眉をひそめライタル帝国に対する怒りを感じる中、防衛大臣は手元の端末を操作し、大きな地図を正面のスクリーンに表示させる。


「尚現在の戦況ですが、ムサシ陸軍は国境線沿いに防御陣地を構築し、敵の来襲に備えているとのことですが、接敵したとの報告は未だ入っていません。

 また、ムサシ王国領空内の航空優勢は確保されており、特設派遣航空隊と第十一、十二近代化即応展開旅団を主軸とする一次緊急展開部隊が本日1200に到着する予定です。

 尚、二次、三次展開部隊の編成につきましては、第一から第三までの総合近代化即応展開師団、第二十一航空機動旅団と第七、九総合近代化即応展開師団をそれぞれ主力とした展開を予定しております」


「次に、今後の作戦計画ですが、本有事の我が国の戦略目標は第一に侵略から国土と同盟国、及び国民生活を防護し、第二に敵国戦略基盤と敵国継戦能力の破壊、そして第三に空間力利用地震戦略兵器『神の御業』の破壊と空間力技術の収集、以上の三点です」


 再び地図が表示され、今度は各地に部隊の配置が指示されている。


「防衛計画については以前より計画していた『有事防衛計画甲7号』を現在実行しており、余程の大規模侵攻で無い限り攻撃を受け止めることが可能です」


 地図が北西に移動し、ライタル帝国のほぼ全景が映し出される。

 

「大陸に話を戻しますと、この中央の川がアデン川で、これを遡るとライタル帝国の首都、セヴァンがあります。このセヴァンに対し、航空機搭載型護衛艦から発艦するF-35CJ、及び爆装したC-2Kで構成する戦略打撃群により、戦略攻撃を実施します」


 地図が衛星画像に切り替わり、セヴァンが拡大され、その上を縦横無尽に矢印が走り、その後に赤点が散りばめられる。


「尚この際、非戦闘員、民間人やライフラインに対する相当の被害が予測されますが、徹底的な報復を望む国民感情に配慮し、燃料気化爆弾やナパーム弾、クラスター弾等を用い、情報庁による調査で存在が判明した地下施設も含め徹底的な攻撃を実施します」


 ここで本橋総務大臣が手を挙げ、質問する。


「民間人に対する被害の予測は具体的にはどうなっている?」


 これに対し、防衛大臣が手元の資料をパラパラと捲り目的の情報を探す。


「……えー民間人への被害ですが、現状の計画ですと……少なくとも二十万人以上が燃料気化爆弾により窒息死すると見積もられます」


 その場の空気が更に重くなる。


「やれ」


 その空気の中、誰かが低く言った。


 その声の主は自衛隊最高指揮官……保野内閣総理大臣である。


「しかし……」


「相互防衛圏内の国民が一人助かるなら他国民が何人死んでもいい、それが安全保障だ」


 そう言うと、更に続けた。


「効果はあるんだろ?」


 これに対し、防衛大臣が答える。


「敵国中枢の徹底的破壊は本有事に於いて必須だと考えます」


 表情を一切変えずに、声のトーンを少し上げて総理が命令を下した。


「じゃあやってくれ、始末はこっちでやる」


「了解しました。作戦開始は現地時刻二十二日、1330です」



****



~ムサシ王国・王城・中央戦略会議室~


「現時点における敵の行動は?」


 ところ変わってここ、ムサシ王国でも国の行方を左右する会議が行われていた。


「地震兵器をトーキョーに使用された以外、ライタル帝国軍に動きはありません」


 ガウォルン情報省長官が資料を見つつ答える。


「国境地帯の航空優勢についても、我が軍が完全に確保し、アウガ―飛行場についても特殊作戦実行隊によって機能不全に追いやりました」


 統合幕僚長が正面のスクリーンに現状を表示しながら示す。


「今回の戦争ですが、我が国としてはニホンから援軍が到着するまでは国境線とその航空優勢、及び海路の死守を基本方針と致します。宜しいですね?」


「それは良いが……ライタルの連中、軍と貴族の連携ってどうなってんだ?」


 技術者としてこの世界で生きてきたフォルイには、ライタル帝国が企図する事が理解できなかった。


「どうやら今回の攻撃は皇帝含む魔導貴族と魔導省の主導で行われ、軍は関与していない様です」


 この世界で一二を争う情報網を共有しているムサシ王国と日本は、大空間力エネルギーを用いる神の御業の存在は把握していたものの、その攻撃方法や時期までは把握できなかった。


 しかも、軍備が戦時体制に切り替わっていなかった為、まさか今使用するとは思わなかったのである。


 しかし、それは向こうも同じことであった。



****



~ライタル帝国・皇城・地下戦略調整本部~


「はい、この件ですが本日中にお願いします。はい、はい、失礼します」


 あちこちで事務官が魔導式通信記録装置を駆り、偶に魔導通信機で部隊に送りつける高い正弦波が響く。


「何で……何で今使うかなぁ……」


 そんな事をボヤきつつ、軍を戦時体制にする為に彼らは一生懸命に働く。


 情報部門と暫くやり取りをしていた士官が、受話器を乱暴に叩きつけ叫ぶ。


「畜生!敵の制空部隊が離陸!国境の制空権を取られるぞ!」


 叫びつつも、手元の端末を操作して飛竜隊に緊急離陸指示を下す。


「何ぃ!?上げられない!?どういう事だ!?」


 受話器から怒鳴り声が聞こえる。


「敵地上部隊によって滑走路及び誘導装置に損害が与えられ、飛竜の運用は当基地では不可能!繰り返す!飛竜の運用は当基地では不可能!」


 頭を抱えつつ、質問を送る。


「了解、復旧にはどれ位かかる?」


 しかし、フォォォォォンという音と共に通信が断絶する。


「応答しろ!おい!おい!クソっ!魔導通信系もやられたか……」


 その上段で、上級幹部たちが深刻な顔を突き合わせて調整を行っていた。


「兎に角情報を纏めて今日中に上げてくれ、情報が錯綜しすぎて誰も事態を把握できていない」


 眼の前に広げてある大地図は、様々な情報が書き込まれてはかき消され、真っ黒になっていた。


「ニホンのアウガ―空襲が近いらしい、防衛計画はあるか?」


 近衛部隊の代表が部下からメモを受け取って空軍に尋ねる。


「あるにはあるが、この規模だと確実に抜かれるぞ……」


 メモに書いてある内容を見て、頭を抱える。


「で、『神の御業』は効果はあったんだろうな」


 兵站担当者がその計画に使用された資源量を思い出して吐き気を催しながら尋ねた。


「どうやら一定の効果はあったらしいが、上が期待する程じゃあ無いらしい」


 情報担当者が手元の魔導情報端末を操作し、ニホンの外務省の声明を投影する。


「え?魔導省の彼奴等『コレが発動された暁にはニホン、ムサシの両小国がはたちまちの内に我らの力に恐怖し、許しを請うだろう』とか皇帝陛下の御前で大口叩いてたのに?」


「こっちがどれだけニホンの脅威を伝えようとしても、『それは軍部の怠慢だ』としか言わなかった癖になぁ、頭が痛いよ」


「与えた損害に対しての資源使用量が多すぎるんだよなぁ……だって魔導力国家総使用量の二年半分だぞ?アレに使うなら装備の開発に使ったほうがよっぽど戦果上がっただろうに……」


「で、肝心な戦闘力に対しては被害を与えられず、ニホンの一般民衆が激怒しただけ……」


「全く、何にも良いこと無いじゃないか」


 愚痴りながらも、何とか皇帝に提出する作戦計画を策定する。


「よし、事前にニホン本土に対する強襲揚陸作戦立案しておいてよかったな」


 統合作戦参謀が機密書類金庫から引っ張り出してきた書類を魔導データ化してアップロードする。


「揚陸と同時に陽動……と言ってもどっちが陽動か分からん程の規模だが、ムサシの方にも侵攻する……流石のニホンでも対応し切れんだろう」


 統合幕僚員が自信満々でこう言い切りった後、こう締めた。


「集約会議を終了する。各自、持ち場に戻れ」




 こうして各国でこの戦争をどう戦うかの意志が定まり、第二次日来戦争と日本で、祖国防衛戦争とムサシ王国で語り継がれる大戦が本格的に勃発する準備が整ったのである。

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