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首都直下地震

~NKH(日本国営放送)・国会中継~


「総理!お尋ねしたい!貴方はこの世界に我が国が転移してからというもの、軍拡を進められてきたが、もう不要なのではないか!我が国は先の調査で判明した通り、周辺国に対して圧倒的な技術的優勢を保っております!ここ二十年ほど増加の一途を辿る防衛費を削減するチャンスではないでしょうか!?」


 国民共進生活党の蓮長代表が泡と飛ばしつつ持参したパネルをバンバン叩き熱弁する。


「え~しかしですね、情報庁が行いました先の調査で判明した通り、太平洋の対岸にある南北ポコロジア帝国はかなりの技術力を持ち……


「なんだ!また戦争するつもりか!」


「戦争狂!」


「そんなに自衛官を死地に送りたいのか!」


 総理の答弁を遮るように、野党から野次が飛ぶ。


「……から、第五次長期防衛力整備大綱に基づいた自衛隊の戦略機動/対応力の拡充に万全を期すべきだと考えます」


 野次を無視して答弁を行った結果、国会中継越しでは内容が殆ど聞き取れなかったが、最早誰も気にしない。


 それに反応する為に蓮長代表が立ち上がろうとしたが、ドンと突き上げる様な揺れによって椅子に引き戻された上、更に強い揺れに襲われ、椅子にしがみ付いた。


 直後、緊急放送チャイムと共にスタジオに画面が切り替わる。


「只今地震が発生しています、只今地震が発生しています、揺れが強かった地域では、津波の可能性があります。海岸や川から速やかに離れてください」


 強い縦揺れの中、アナウンサーは落ち着いて、しかし緊迫感を持って視聴者に語り掛ける。


「現在、この東京渋谷のスタジオも大きく揺れています、え~、先程、気象庁より、この地震による津波の心配は無いとという情報が入ってきました」


 大写しにされた日本列島の上に『この地震による津波の心配は無し』というテロップが出て、同時に震度の速報値が表示される。


「え~先程の地震、震度七は東京都、震度六強を観測いたしましたのが神奈川県、埼玉県、震度六弱は千葉県……


 まだスタジオが揺れる中、震度の速報値を読み上げるアナウンサーに、新しい紙が渡される。


「先程、午後六時十一分に、東京都を中心とする強い地震がありました。震源の深さはごく浅く、地震の規模を示すマグニチュードは7.6と推定されています」


 更に新しい紙が手渡され、淡々とそれを読み上げる。


「え~この後午後七時三十分より、気象庁による記者会見が行われます」


 カメラが切り替わり、東京スカイツリーからのライブカメラが表示される。


 地震により電車は止まり、あちこちで火災による煙が上がる中、報道各社のヘリコプターが早くも飛び回っていた。


 暫く各地にあるライブカメラの映像を回し、又リポーターによる中継や各地の被害状況を映したのち、七時三十分になり画面がスタジオに切り替わる。


「これを受け都は、午後六時四十五分に自衛隊に対し災害出動要請を実施し、既に陸上自衛隊立川駐屯地より救援部隊が活動を行っている模様です……え~ここで気象庁による記者会見です」


 更に画面が切り替わり、緊張した面持ちの気象庁の担当者が大写しになった後、会見場全体を写すように視野が引かれていく。


「本日、二十日日、午後六時十一分に発生した、関東地方を震源とする最大震度七の地震についてご説明させていただきます。まず初めに、国民保護上の留意事項を述べさせていただきます。この地震による、津波の心配はありません。揺れが強かった地域では、今後の地震活動により、土砂崩れや落石が発生する恐れがあります。また、過去の記録から、大規模な地震活動の後、一、二割程度の確率で同程度の地震が発生する恐れがありますので、今後一週間程度は最大震度7クラスの地震に注意してください」


 と、言っている傍から、余震が会見場を襲う。


「それでは、資料に沿って説明させていただきます。本日、十一月二十日現地時刻六時十一分、地震の規模はマグニチュード7.8、地震の場所は東京都、千代田区の深さ約二キロの場所、地震の発生機構ですが、え~……


 少し詰まった後、思い切って言ってしまう。


「現時点において不明でございますが、推測では断層が東西から押された結果、上下に大きくずれたことによって発生した縦ずれ断層型地震と考えるのが妥当でございます」


 画面が再びスタジオに切り替わる。


「記者会見の途中ですが、ここで各地の被害状況についてお伝えします」


 と言った直後、画面が一瞬真っ黒に塗りつぶされ、その後国家存立危機事態を告げるチャイムが鳴らされた。


 緊急警報放送の電信音の後、画面が切り替わり、先程とは別の、しかし良く夜九時のニュースで見かける顔のアナウンサーが映し出される。


「先程外務省は、ライタル帝国が本日二十日、午後六時十三分に日本国、及びムサシ王国に対し……


 アナウンサーは一瞬息をのみ、そして少し悲しい顔をした後、口を開く。


「……宣戦を布告したと発表しました。

これを受け政府は、午後六時十四分に国家安全保障会議を開催し、我が国の独立を守り、国民の生命、財産、及び身体を侵略から防護し、又、同盟国に対する急迫不正の主権に対する重大な侵害を排除する為、午後六時三十五分、自衛隊に対し防衛出動命令を発令しました」


 差し込まれた紙を受け取り、続けて読み上げる。


「同時に午後六時三十五分、国家存立危機事態宣言を天皇陛下が布告されました。これにより内閣は、国家存立危機事態布告中に法律と同様の効力を持つ政令を布告する事が可能になり、国民の人権の一部を必要最小限の範囲で国民保護のため制限する事も可能になりました」


 続けて紙を受け取って読もうとするが、画面が切り替わり、再び起動した緊急警報放送の電子音とともに赤く染まった日本列島が映し出され、日本中の防災行政無線が耳を塞ぎたくなるようなサイレンと共に警報を伝える。


「武力攻撃情報、武力攻撃情報、当地域に、武力攻撃の、可能性が、あります。屋内に避難し、テレビ、ラジオの電源を、つけて下さい、武力攻撃情報……


 ゆっくりと、そしてハッキリと、合成音声が総務省から配信されたテキストを読み上げる。


 それは国民を恐怖のどん底に突き落とすのに十分な威力を持っていた。


 日本全土が「戦場」と化したのである。


~気象庁・会見場~


「今回の地震の発生機構ですが、詳細な地震波の分析の結果、何らかの原因によって地中でマグニチュード5クラスの大きなエネルギーが放出された結果、今回のマグニチュード7.8の地震を誘発したものであると結論付けられました。詳しい原因については目下調査中ではありますが、現時点においてライタル帝国による宣戦布告との関連性は不明です、それではディスプレーをご覧ください」


 ディスプレーに様々な表が映し出されるが、その中でも最も象徴的な一枚を大写しにして報道陣に示す。


「これは福島で観測された波形ですが、ご覧の通り、鋭く大きくて単調なP波の後、通常の地震では余り見られないのですがP波より小さいS波が観測され、その後P波、S波と自然な地震動が観測されています。第一波の波形は例えば地下核実験等を行った際に生じる典型的な波形を示しており、地中で未知の手段によって高エネルギーが放出されたと考えるのが妥当でございます」


「尚、万が一高エネルギーが地中に於いて放出された原因がライタル帝国の地震兵器等であった場合、日本全国の断層に於いていつ同様の事象が発生してもおかしくはありません。原因の特定、排除まで厳重に警戒してください」


 ここまで言った後司会に視線をやり、会見が終了したことを無言で伝える。


「では、以上で会見を終了します」



****



 十一月二十日、六時十一分、関東地方を最大震度7の地震が襲った。


 これにより各地で住宅の倒壊や家具の下敷き、そして大規模火災による被害が発生。

 死者約一万四千名、負傷者約五万八千名、消失/倒壊棟数約四十九万棟、経済的被害は約八十五兆円に及んだ。


 そして翌日の二十一日、人々が悲しみに暮れる中ライタル帝国が東京に対して戦略魔導兵器「神の御業」を使用したと発表、同時に降伏勧告を行った。


 これに国民は激怒した。


 後に世界を巻き込むことになる戦乱は、こうして幕を開けたのである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 日本国政府は、異世界転移に際してマスゴミを粛清する最重要事項を忘れていたようだ。
[一言] やっぱりマスゴミはクソ、はっきりわかんだね。
2021/03/14 14:00 退会済み
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