日武首脳会談
~都内某所・日武首脳会談場~
「大変おいしかったです」
ナプキンで口元をぬぐいながら、フォルイが言葉を発する。
「お口に合いましたか」
食後茶を煽りながら保野総理が答える。
暫くして料理がテーブルから引き上げられ、両国の官僚が着席した。
「改めまして、ようこそ日本国へ、フォルイ陛下」
保野総理の方から右手を差し出す。
「有難うございます、保野閣下」
フォルイはその右手をしっかり握り、上下に振る。
「先ず、我が国がこの世界にやって来てから、皆様には随分とお世話になりました。そのお礼を私の口から申し上げたい」
「ご丁寧にどうも、国家として当然のことをしたまでです」
和やかな雰囲気で会談は進行し、何事もなく終わるかと思われた。
「所で……皆さんにはコレをお渡しせねばなりません」
話の合間、フォルイが部下から受け取った封筒の束を日本側に手渡した。
「何ですか?これは……?」
中を見ると、顔写真と名前、そして説明が書かれた紙が入っていた。
「我が国にに潜伏しておられる其方の情報庁の職員の皆さまです」
フォルイが微笑みながら言う。
「……どういう意味でしょうか」
保野総理が沸き上がる寒気を抑えつつ尋ねる。
「情報の相互提供体制の確立を提案したい」
「その前に、この職員たちに何かしましたか?」
一応想定の範囲内の言葉が返って来たことに、一瞬安堵する。
「別に何もしておりません。デマを掴ませただけです」
フォルイは更に笑みを増しながら答える。
「そうですか……そのデマとはどんな……?」
背中を撫でるような寒気を振り払いつつ、ゆっくりと尋ねる。
「我が国の情報機関の規模、どれ位かご存知ですか?」
再び微笑んで、フォルイが尋ねる。
「確か三万人ほどと聞いていますが……」
脳内の記憶を呼び寄せて照合する。
「残念、実は六万です」
先程よりもより深い笑みを浮かべ、フォルイは言った。
「何と…」
脳内の記憶を改訂しつつ、フォルイの次の言葉を待つ。
「我が国は技術立国で在ると同時に情報立国でもあります。その事をお忘れなきよう」
静かに、しかし自信に裏打ちされた確かな声でフォルイは言い放った。
「しかし、我が国から貴国へ提供できる情報など、余りありませんが、宜しいのですか?」
湧きあがった疑問をそのままぶつける。
「人工衛星、ありますよね?」
フォルイは真っすぐと保野を見据えて尋ねる。
「ええ、しかし打ち上げは来月……」
来月に打ち上げる予定のH-3A型ロケットはある。保野は『嘘』はつかなかった。
「聞いた話では小型のものが戦闘機から放出されたと聞いているのですが」
フォルイが保野を真っすぐ見据えたまま話す。
「……そうですね」
もう何を隠しても無駄だと観念しつつ、保野は答えた。
「貴国の情報収集衛星から得られた情報と、我が国が収集した情報を統合すれば我々はこの世界の情報の覇者になれる。乗りませんか?」
フォルイが上目遣いに保野を中央に見据えつつ、問いかける。
「乗りましょう」
保野がため息をつきつつ答えた。
「我が国は国力では貴国に遠く及ばないが、情報では必ずやお役に立てるでしょう」
「今後も良きパートナーとして、宜しくお願いします」
再び二人は握手を交わし、会談は終了した。
「あの国もあんな一面があるとは……恐ろしい世界だな、ここは」
いつも通り談笑しながら車に乗り込んでいくムサシ王国の一行を見送りつつ、保野総理は呟いた。
****
~ライタル帝国・中央魔導学園・中央大学・地下実験場~
日本でフォルイと保野が会談を終えたころ、ライタル帝国の魔導研究の最先端である中央魔導学園に、大量の魔帯金属が運び込まれていた。
魔帯金属とは、一般的に使われる魔帯鉱物に比べ、含有されている魔導力を蓄積する魔粒と呼ばれる成分の割合が大きく、基本構成材が金属であるものを言う。
魔帯金属は基本的に使い捨ての魔帯鉱物とは違い、魔導力が流れやすいので魔導力強制注入器を用いて再充填が可能であり、大きな出力を発揮できる反面、非常に製造が難しく、その上不安定で使い方を間違えると爆発する事もある為、用途は限られていた。
そんな魔帯金属が大量に運び込まれるのを、魔導大臣のヴェローサが視察していた。
「計画の進行は順調か?」
「はい大臣、極めて順調に進行しております」
部下が資料を空間に投影する。
「絶対魔導量5.12TM……恐ろしい量だな」
ため息をつきながらその数字を凝視する。
「ええ、神が我々に与えし神の力です」
「ニホンも可哀想にね、コレをそのままぶつけられるとは……」
「『神の御業』計画の執行を指示したのは貴女です、ヴェローサ閣下」
「責任は取る、只、ニホンは必ずや屈服させ、支配下に置かねばならない」
「その通りです。皇帝陛下の御為に」
「皇帝陛下の御為に」
そう叫ぶと、部下が自分の仕事へと戻っていくのを見ながら、ヴェローサは呟いた。
「これが人のなせる業か……」
ふと、久々に訪れた古巣の中を散策しようと思い立ち、ヴェローサは廊下に出た。
「大臣?何故ここに!?」
この国で魔導を学ぶものなら誰しも顔と名前を知られている彼女は、廊下に出てすぐに高等部の生徒に見つかった。
「一寸用事があってね……」
「ああ、『神の御業』ですか」
生徒は納得し、お疲れ様です。と言って立ち去ろうとする。
「何故知っているの?」
「何故って、アレの整備と運用は我々学生がやるんですよ?計画名ぐらいは知ってますよ……何に使うかは知りませんけど」
「そうか……」
まだあどけなさが残る彼らを間接的にとは言え戦争に使うのは少し気が引けた。
この学園は、初等部、中等部、高等部、大学の四層からなっており、初等部、中等部の学生は地上で、高等部、大学の学生は危険性が高い物を日常的に扱う為、地下でその日常を送っていた。
「実の所、アレ何に使うんですか?」
「言える訳無いだろ!帝国の重要機密だぞ!」
「しかし……」
生徒が反論しようとするが、他の生徒の群れがヴェローサを見つけて接近してきたのを確認すると、一言、分かりましたと言って引き下がった。
****
~防衛省・N計画実行準備室~
防衛省の地下深く、情報庁の職員が二年かけて構想した考えうる限り最高の情報保全体制が取られたこの部屋に、「N計画」の実行準備室は存在する。
「現在我々は、N計画によって整備したStNを100、TacNを300保有し、管理しています」
薄暗い雰囲気をまとった男たちが、プロジェクターを使用する為に照明を消した暗く、乾燥した部屋の中で会議をしている。
「今回策定された敵国継戦能力破砕計画では、Nは使わないものの切り札の一つとして残されています。万が一の場合に備え、敵国戦略基盤に対するNを用いた攻撃の案を今回の会議では策定したいと思います」
最後に彼らの上司が、口を開く。
「我々は神の力を得た。それをどう運用するかは我々の手に掛かっているんだ。そこに留意する様に」
「「はい」」
「では先ず古川さんから……
そのミーティングは夜遅くまで続いた。
****
~防衛省・情報庁~
「ライタル帝国内で空間力を使用した大量破壊兵器の研究が進められている?」
古川情報官は部下の報告に眉を顰めた。
「ええ、まだ不確定情報ですが、情報収集活動によるとその様です」
資料を手渡しながら、部下は続ける。
「それに、研究施設へ何かが大量に運び込まれているのを先程情報収集衛星が捉えました。雲越しの低解像度画像ですが、最近、施設周辺の動きの活発化が観測されています」
衛星からの情報収集を担当している職員が続ける。
「公表は控えて情報統制と収集を徹底しろ」
「「了解しました」」
「今までは懸念は一応あったが……また厄介な話だ……」
そう言いつつ、彼は内閣府へと電話を掛ける為に卓上の受話器を取り上げた。
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