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とっても楽しい外交交渉

~日本国・外務省~


「ここがニホンの外務省か……」


 パトカーと自衛隊車両でガチガチに護送され、ライタル帝国・第一外交部の面々は外務省に到着した。


「このまま真っすぐ進んでください」


 情報庁の特別警戒隊が更に警備を固めた外務省の正面玄関から中に入り、職員の案内通りに進むと、太田率いる日本とムサシ王国の外交団が待ち構える部屋へと案内された。


「先ずは皆さま、長旅ご苦労様でした」


 太田が儀礼上労う。


「今回我々は終戦交渉に参った次第」


「ええ、事前の協議通り、捕虜等の取り扱いは防衛省で行い、今後の関係等についての交渉を行います」


 交渉内容の確認を終え、交渉に入る。


「先ず、我が国はこの戦争に負けた訳ではない。しかし勝ったわけでもない。よって勝者でもないし、敗者でもない」


 第一外交部の副部長、サジットが上目遣いで睨みつつけん制する。


「我々に貴国を支配しようとか、そういう意思はありません。只平和を望んでいるのみです」


 太田が真っすぐ見据えて返す。


「ではこの内容は何だ、奴隷の解放?獣人に人間と同じ権利?馬鹿げている。貴国らは本当にこの戦争を終わらせる気があるのかね?」


 これに、ムサシ王国の外交官、ベルラが口を開く。


「当然です。戦争を終わらせる気があるからこその要求です」


「そうか……我が国としては到底承服できない。その点だけは伝えておく」


「そうですか、しかし、他の内容については承服いただけますね?」


 太田が地固めに入る。


「国境線の確定、貴国らの軍隊の我が国への不可侵、交戦の停止、は認めよう」


 サジットが自らに都合のいい部分だけを譲歩したかのような口調で返す。


「一寸待ってください、その他の部分は……?」


 もともとの内容は、両国間の不可侵、両国間の独立の尊重、国交の樹立、関係改善、平和条約の締結等々がセットになったものだったのである。


「う~む、仕方ない、貴国の我が国への独立の保証は飲んでやっても構わん」


 ベルラが思わず立ち上がるが、一呼吸おいて静かに言った。


「我が国は貴国から突如理不尽な要求を突き付けられ、宣戦を布告された。それを今この場でやり返しても貴国らは文句を言えない立場であることに十分留意して頂きたい」


「ほーう……我が帝国が本気を出せばお前らなど簡単にひねりつぶせるというのに、我々に命令するか?」


 サジットが目を細めて返す。


「我々に相当の実力があることは承知頂けた筈。それに我々を侵略しても貴国に何の利益ももたらさない事も承知頂けたかと存じます」


 翻訳を介して太田が返す。


「貴国の実力については皇帝陛下も高く評価されている……どうだ?ニホンだけでも我が国に従属し、我が国の保護を得たいとは思わんかね?」


 サジットが身を乗り出し、太田の目を見て言う。

 ライタル帝国は、日本とムサシ王国間の同盟に綻びを生じさせ、各個撃破する作戦に出た。


「我が国は独立国です。貴国が我が国や同盟国に従属を迫るのなら今回の事態より大規模な自衛隊の派遣も視野に入れた対応を検討します」


 しかしこの国にこの世界の常識は通用しなかった。普通帝国の保護が得られると聞けば手放しで喜んで受けるが、日本はその保護を必要とはしていないかったのである。


 ここで先程迄肝を冷やしていたムサシ王国の外交官、ぺルラが口を開いた。


「我々は今回の事態を相当に重く見ている。万が一貴国の軍隊が我が国やニホンの領土を侵すようなことがあれば、今回以上に痛い目を見るぞ」


 静かに、しかし怒りが籠った声で相手を威圧する。


「やるならやれば良い、魔導も満足に扱えぬ猿どもめ……まぁ、貴殿は狼の様だが……我が国の中でも人狼は猟で活躍している……奴隷としてな」


「何だと……!」


 ぺルラが立ち上がろうとするのを、太田が即座に反論して抑える。


「何か勘違いしておられるようだが、我々は主権を持つ独立国であり、貴国の植民地ではない。理不尽な要求をされれば拒否するし、戦争になればれば交戦権を得る。そして其方の皇帝陛下の庇護など必要としていない。その上貴国内で行われている人道を無視する行為を我々は見過ごすわけにはいかない」


 サジットが鼻を鳴らす。


「ハッキリ言おう、皇帝陛下は我々に貴国らを従属させろと命じられた。さもなくば今回の軍勢の何十倍もの軍勢が貴国らに差し向けられる。これでもまだ従属する気になれんか?それに人道と言ったな?奴らは犬、猫、兎、等の動物だぞ?それ相応の扱いをして何が悪い?」


 太田が卓上の水を煽り、返答する。


「我が国は貴国の植民地となるつもりは毛頭ないし、自国、同盟国に対する如何なる侵略と人道に対する罪に対して断固たる対応を取る」


 ぺルラが後に続ける。


「もし次戦争となったら、我が国と同盟国の独立の維持、そして貴国中の虐げられている方々の解放のために我々は全力を挙げる」


 サジットはさも残念そうな顔を作って席を立った。


「では、交戦の停止を除いて交渉は決裂だな。仲良く一時の勝利の美酒に酔いしれていればよい、我が国が醒めさせてやる」


 太田は着席したまま笑いを含んで返した。


「いいでしょう、交戦の停止で今回は手を打ちましょう」


 ベルラは不満そうであったが、渋々今回の交渉結果を受け入れた。


 お互いに握手を交わし、ライタル帝国側の人間が退出すると、太田は静かに部下に耳打ちした。



****



~日本国・防衛省~


「いやぁ~、我が国の将兵たちをこんなに丁寧に扱って下さって、なんとお礼を申したらよいのか……」


 ストレンが捕虜となった将兵の手紙を読んで頭を下げる。


「国として当然のことをしたまでです。褒められることではありません」


 担当者が若干困惑して返す。


「このドチューゲンとは旧知の友人でして……まさか生きているとは……」


「我々は部隊レベルで降伏し、捕虜となった将兵を必ず人道的に対処します。殿となった方々は一人も死んでいないのでご安心を」


「……まさか、商品価値が下がるとかが理由ではないですよね?」


 普通、戦勝国の捕虜をどう扱うかというと相場は奴隷化に決まっている。それを恐れたストレンは担当者の目を見て質問する。


「まさか、全員速やかに本国に帰って頂きます」


「そうですか、良かった!」


 案外スムーズに交渉が成立し、ほっとする両者であったが、捕虜が持ち帰って来た文化によって今後頭を痛ませることになるのだがこれは又別の話である。



****



~首相官邸・国家安全保障会議~


「外務省によりますと、ライタル帝国との交渉はほぼ決裂、太田全権大使によるとまともに話すら出来なかったとの事です」


「そうか……平和的な関係は彼の国とは築けないか……」


 一縷の望みをこの交渉にかけていた保野総理はそういうと椅子の背もたれに身を投げた。


「万が一の次回の有事に備え、有事の際の敵国継戦能力の破砕を目的とした作戦計画を立案中です」


 防衛大臣の言葉に、保野総理は卓上の黒いファイルの中から一枚の紙を手に取った。


「『N計画』……否、これは最後の手段だ」


「現在立案中の作戦は『N計画』を実行せず、全て既存の部隊で行う予定です」


 防衛大臣は秘書官から受け取った紙をゆっくりと読む。


「ハッキリ言って、勝てるのか?彼の国に」


 保野総理は鋭い視線を防衛大臣に向ける。


「勝てます。否、勝ちます」


 防衛大臣は自信に満ちた声と表情で答えた。


「失礼します。総理、フォルイ国王陛下との会食のお時間です」


「分かった」


 時刻はもう正午を過ぎ、腹も空いてきた保野総理は、いつもの様にゆっくりとではなく迅速に立ち上がった。



****



~都内某所・日本・ムサシ王国首脳会食場~


「さて、フォルイ陛下と対面するのは初めてだな」


 国家安全保障会議から引き上げたその足で会食場までやってきた保野総理は、そう呟いてフォルイの到着を待った。


「フォルイ陛下が間もなく到着するとの事です」


「分かった」


 先程と同じく迅速に立ち上がって正面玄関まで歩き、暫く待っていると黒塗りの公用車の車列が警察に先導されながらやって来た。


「話が合えば良いが……」


 少しの不安を抱えつつも、迎撃の準備を整える。


 ドアが開き、フォルイが姿を現した。


「ようこそフォルイ陛下、お待ちしておりました」


 そこまで言って、保野総理は言葉を詰まらせた。


「お出迎え、誠に有難うございます」


 そう言うフォルイの両手には大量の防衛装備品のパンフレットと資料、そして大きな模型を抱えていた。

 その姿はまるで年二回、東京国際展示場で行われる大規模な『文化交流会』から帰って来た参加者のようであった。


「で、では中へ……」


 何事も無かったかのように中へと迎え入れている間に、秘書官を呼び寄せる。


「……何が在ったか明日までに纏めて報告してくれ」


「了解しました」


 そう言って去る秘書官を見送るとテーブルに着き、フォルイと向き合った。


 日本がこの世界に来て初めての首脳同士の意思疎通が、今、始まった。

 ここまでのご拝読、ありがとうございます。

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