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二日目の昼(ムサシ王国)

~防衛省・防衛装備庁~


 ムサシ王国の文官や民間人を除いた国王を含む交渉団が一面に並べられたパイプ椅子に座る中、彼らの目の前では各企業がプレゼンを行う準備をする為に慌ただしく動いていた。

 彼らが準備をしている間、ムサシ王国の交渉団は渡された大量の資料を読み込んでいた。


「陛下、見てくださいこれ、最高速度音速の1.5倍ですって!」


 フォルイの隣に座るキャリローは、三菱重工のF-35AMの資料を興奮した様子でフォルイに見せた。


「それよりも大事なのは戦闘行動半径だぞ、きっと日本版のF-35AJより遥かに短いだろ」


 フォルイは艦船の資料を読みながらそう答える。


「否、これを見る限りだと日本版よりも伸びてますよ……?」


 その言葉を聞いて、慌てて資料をパラパラと捲りF-35AMの項まで飛ぶ。


「え!?何考えてんだ日本は……」


「まぁまぁ、いいことなんですから……」


「それよりも、私は艦船の方が気になるな……」


「ああ、南方のクラーケンとグレートホエールの対処は急務ですからね……」


 海を漂流した思い出が蘇る。


「「ああ……」」


 二人そろってため息を吐いて青ざめていると、前のスピーカーからアナウンスが流れる。


「お待たせいたしました、これより日本、ムサシ王国間における防衛装備品の移転についての交渉を開始します」


 前方に立つ司会者が、進行表を見ながら司会を続ける。


「え~進行表にあります通り、先ずは移転予定の防衛装備品についてのプレゼンを、各メーカーより行って頂きます」


「先ずは三菱重工業様から、お願いいたします」


 三菱グループ全体から選抜された営業軍団が模型を抱えてステージに上る。


「この度は、遠路はるばる日本国へお越しいただき、誠にありがとうございます」


「「ありがとうございます」」


 定型的な挨拶から入り、営業軍団が抱えた模型をステージ上に展開していく。


「お疲れのところ申し訳ございませんが、暫くお付き合いください」


 ここでフォルイは違和感を覚えた。


「おいキャリロー、何でこの人たちこんなにハイテンションなんだ?」


「え?日本の営業の方ってこんな感じじゃないんですか?」


「いやぁ……私が居た頃はこんなんじゃなかったぞ……」


 違和感を覚えながらもプレゼンは続く。


「先ず一番目、今回の目玉装備品、F-35AMです!」


 そう言うと全長60cmはある大きな模型を高く掲げる。


「今回の自衛隊の作戦でも、非常に大きな活躍をいたしました!」


 前方のスクリーンにプロジェクターで、衝撃の槌作戦に於ける敵物資集積所に対する航空攻撃の映像が流される。


「先ずご紹介したいのがこの高い性能!」


 映像が切り替わり、F-35AMのCGが映し出される。


「飛行能力は最高速度、音速、越えます……何と驚きの音速の1.5倍!」


 「おお~」とムサシ王国側から歓声が上がる。


「そして何と、戦闘行動半径、空対空ミッションで……1480km!」


 またしても歓声が上がる。


「いいですか?これ、機体内に誘導弾を抱えて、しかも飛行性能を落とす機外タンクを使わないでこの性能ですよ?しかもこれ、我が国が運用しているF-35AJよりも72kmも長いんです!」


「72kmって言いますと、人が一日中休まずに歩き続けてやっとの距離ですよ!?」


 もう一人、補助の営業の人が相槌を入れる。


「しかもこのエンジン、整備がとっても簡単なんです!コンピューターに繋ぐと、エンジンが『この部品が欲しい』って、表示してくれるんです。で、皆さんはその指示通りに整備すれば整備が完了する……夢のようでしょ?夢じゃないんです!現実です!」


 それを聞いて、技官の顔がパァッ!と明るくなる。


「その上、この豊富な武装!」


 そう言うと、担当者が変わって三菱電機所属の営業の人になる。


「先ず固定武装としてGAU-12 25mmガトリング砲を搭載!」


 映像がまたもや変わり、GAU-12の実験映像になる。


「毎分4200発の25mm弾を発射し、対空、対地攻撃に高い効果を発揮します!」


 F-35AJから発射された25mm弾が、試験用の鋼板を一瞬でボロボロにする様を見せつけられる。


 それを見たムサシ王国軍の幹部が、思わずつばを飲み込む。


「そしてAIM-9X!これが又凄いんです!」


 映像が切り替わり、「衝撃の槌」作戦でのF-35AJによる空対空戦闘の様子が映し出される。


「『ライトニング2』、FOX2!」


 突如真横に飛び上がって来たワイバーンに対し、F-35AJがウェポンベイ内のAIM-9Xを放つ。


「『スカイヘッド』より『ライトニング2』、1キル!グッドジョブ!」


 夜空に紅蓮の花を一輪咲かせ、AWACSから敵機撃墜判定を受けたF-35AJが急旋回して退避する。


「皆さん見ました?今の」


 そうニヤニヤしながら営業の人が語りだす。


「もう一度よ~く見てみましょう」


 よく見ると、AIM-9Xがほぼ直角に急旋回し、ワイバーンに命中しているのが分かる。


「このAIM-9X、ご覧の通り、真横に居る敵にも使用する事が可能なんです!」


 ムサシ王国側から何度目か分からない歓声が上がる。


「これだけじゃぁありません、AAM-6、JANAAMも使えます!」


 完全に場が営業軍団に支配されている。しかし不思議と心地いい感覚に、フォルイは襲われた。


「この誘導弾、何と射程驚きの300km以上!」


「えぇ……」


 最早性能の高さに呆れてきた軍幹部が、ため息とともに呻き声を出していた。


 無理もない、彼等にとっての空戦とは、ワイバーン同士で激しい空中機動の中で魔導を用いて相手を堕とす、古典的な空戦だったからである。


 相手の顔を見て、目を合わせ、誇りを賭けて戦う。


 しかし、このF-35AMを導入した場合、それらは戦場から消える。


 しかし、欲しい、何としてでも欲しい。


 その狭間で揺れ動くが、自分たちの使命を胸に再度意識を取り戻す。


 何としてでも国家、国民を守り抜く。それが彼らの使命である。


 その為にもこのF-35AMは、是非とも欲しい装備品だった。


「さて、F-35AMの装備、これだけじゃありません。まだまだありますが、全て紹介するのは少し時間が足りないので、代表的な物だけ紹介させて頂きます」


 その後、代表的な対地攻撃装備……燃料気化爆弾やJDAM、JSMの紹介を終え、この戦闘機が第五世代戦闘機である所以であるセンサーの紹介に移る。


「ここまで紹介してきました装備を活かすためのセンサーも、このF-35AM、搭載しています!」


 模型の機首部分を外し、中身が見えるようにする。


「このレーダー、APG-81はですね、ワイバーンを450km先から発見することが可能です!」


「はぁ~」


 声すら出なくなった軍幹部に、さらなる追い打ちが実施される。


「そして機体のあちこちに設置された各種センサーEO-DASを統合して表示するHMDSによって、360度全天の視界をパイロットは利用できます!」


 HMDSヘッドマウントディスプレイシステムを高く掲げて示す。


「そして最大の特徴がこちら、データーリンクにより、友軍機から得た情報を瞬時に共有し情報を一元的に運用することで、集団での戦闘能力を飛躍的に高めています!」


 これがF-35が第五世代戦闘機である最も大きな所以だろう。

 このデータリンクシステムにより、万が一友軍機が撃墜されたとしてもその報復を瞬時に行うことができるのである。

 しかもそれらの情報を統合してコンピューターが整理し、簡単な図とシンボルで状況をパイロットと司令官に示し、適時適切な判断を補助している。


 さて、ここまで聞いて物欲が最大限まで高められたムサシ王国の面々であるが、その脳裏にはデータリンクしたように一つの言葉が浮かんでいた。


『『でも、高いんでしょ?』』


「さぁ、ここまでの紹介で、皆様にはこのF-35AM、素晴らしい飛行機であることが分かって頂けたと思います。でも、これだけじゃぁありません、今回我が国は、パイロットの訓練、整備、装備の移転、飛行場の整備、そして技術の移転!これら全部セットにしてお値段一機当たり……」


「150億円です!」


 途端、ムサシ王国からため息が漏れる。


 これでは導入しても精々数機しか導入できない。そして限られた予算の中で他の装備品も買わなくてはいけない。特に艦艇の整備は急務だ。

 五機導入しただけで750億円なら、その金で艦艇か陸上装備を買った方が良い。

 そんな思考を経て購入を諦めようとしたところ、壇上から又声が響く。


「一寸待ってください、我が国はこの世界に転移してから、皆様に大いに甘えさせていただきました!」


 ムサシ王国側の顔が上がる。


「ですので政府から補助金も入りまして何とお値段一機当たり……」


 ゴクリと生唾を飲む音が響く。


「80億円!80億円でご奉仕致します!」


 ワアアアアアアアアアア……と歓声が上がる。


 実は初めから一機当たり80億円で売るつもりだったのだが、初めに敢えて高い値段を提示することで割安感を演出し、王国の幹部たちの物欲に火を付ける。


「この素晴らしいF-35AMで、是非貴国の安全保障環境構築のお手伝いをさせて下さい!以上です」


 営業軍団が壇上から撤収し、次の軍団と入れ替わる。


「では次に川崎重工業様お願いいたします」


「今回我々がお持ちしましのはこちら!P-1哨戒……


 この様に、各社心理学やマーケティング理論をフルに活用したプレゼンを行った結果、ムサシ王国は提案された装備品のほぼ全てを購入することになったのである。


 翌日、頭を冷やして考えると仮想敵に対しての我の戦力が導入を完了すると恐ろしい事になる事実に全員が気付いたが、誰も公の場でそれを言わなかった。

 ここまでのご拝読、ありがとうございます。


 ご意見、ご指摘、ご質問、ご感想、何でも結構ですので是非感想をお書きください!


 感想を頂くととても励みになりますので、皆様宜しくお願いします。


 インフルエンザが本格的に流行しています。どうぞ皆さま身の回りの衛生管理にお気を付けください。それと、もし万が一感染された/したかな?という場合は、無理をなさず、どうぞご自宅でゆっくりなさってください。


 設定集を作りました、作者がメモ代わりに使っているようなブツですが、宜しければ是非ご覧ください。


 後、割烹書いたんで良ければ是非覗いてみてください。

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