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二日目の朝

~都内某所・ムサシ王国・国王付日本派遣団~


 夢を見た。気付いたら眠ってしまった様だ、最近陛下が執務を馬車馬の如くこなされるので、それらの処理に忙殺されてしまい、十分に眠ることができなかった。

 私はこの国でたった一人の『国王付き秘書官』である。補佐官は何人もいるが、秘書は私一人なのだ。

 秘書の仕事は多岐にわたるが、陛下の為なら苦痛ではなかった。

 しかし、気付いてみればこのざまだ、恐らく今頃、意識を失って倒れているところを陛下が慌ててベッドに担ぎ込んで医官を呼んでくれることだろう。


 しかし、見た夢は心地よかった。私が並行世界を含めた存在の中で最も信頼し敬愛する陛下を独占し、好きなだけ甘えた。そして大きなものに包まれ、守られる。

 私が生きてきた中で、一番多くの時間を共に過ごし、私に素晴らしい人生を授けた陛下をである。

 最近似たよな夢をよく見るが、今回の夢は叶うものなら毎晩でも見たかった。


 目が覚めた。取り敢えず現状を確認しなければならない。先ず自分の状況、次に陛下、周囲……。今自分が居るのは、どうやらベッドの上らしい、予想通りだ。

 しかし、陛下はどこだ?少なくとも隣のベッドには居ない。では通路か?居ない。ではどこだ?と右を向くと、信じられない物が見えた。


 礼服の上着だけを脱いだ陛下である。


 そして自分は、陛下に畏れ多くも抱き付いていた。


 つまりアレは夢ではなく、現実だったという事である。


 今まで経験したことのない驚愕と羞恥、そして絶望が、私の体を駆け巡った。


 あの醜態を見られて私が陛下に捨てられれば、私は生きていけない。思わず身体が強張ってしまい、陛下を刺激してしまった様だ。


「ん?今何時だ?」


 枕もとの時計を求めて視線がこちらに向く。


 そして自分が体を強張らせていると、陛下は私が寝ていると思ったのかこう言った。


「キャリロー……ゴメンな、私が無理させたばっかりにこんな事に……」


 状況から考えるに、恐らく私は発情してしまったらしい。そして陛下は昨晩からずっと私の対処をしてくれていたのである。


 再度驚愕と羞恥が体を駆け巡るが、それと共に嬉しさもこみあげてくる。


 アレが現実なら、私は陛下を独占して好きなだけ甘えた事になる。そして陛下はそんな私を受け入れたのだ。嬉しくないはずがない。


 そして一緒に休暇を取れる。


 ああ、休暇、なんと素晴らしい響きの言葉だろう、休暇、それも陛下と一緒に、休暇、休暇万歳。


 さて、それは置いといて、どのような顔をして陛下と言葉を交わせばよいだろうか。



****



 目を覚まして真っ先に確認しようと思ったのは時計である。壁掛け時計によれば現在時刻は1911、ほんの少ししか寝ていないが自業自得なので仕方がない。

 そして自分の左側に視線をやると、キャリローが私に抱き付いていた。何とか発情は収まったようだが、まだ彼女の体温は高かった。


 彼女とあの路地裏で出会ってもうすぐ十五年。一人で泥にまみれて物陰に隠れていた彼女は、とてもさみしそうだった。その頃王子だった私は、無理を言って彼女の面倒を見ることにした。今思えばただの自己満足だった気がするが、もう遅い上、あの決断を後悔していない。寧ろよくやったと褒めてやりたいぐらいである。あの時の決断が無ければ彼女は程無くして死んでいただろうし、私もこれ程。その上彼女のおかげで生活困窮者の保護機構が完成した。良いことしかない。


 さて、彼女の面倒を見ることになった訳だが、取り敢えず文字を教え、油圧の力強さを叩き込み、機械工学の素晴らしさを熱弁し、義務教育を修了した後は生徒として大学に迎え、より高度工学について論戦を交わした。

 あれ以来、私たちは色々なことがあって今に至る。

 笑い合い、泣き合い、ふざけ合い、議論を交わし合い、殴る蹴るの暴行を加えられたり、漂流したり……色々あったが、今まで彼女は私を支えてくれた。その事実は揺ぎ無い。

 私は彼女無しではこの世界で生きていけないだろう。


 そんな彼女が私に初めてあんな姿を見せた。十五年の付き合いの中で初めてである。


 この事態に対する対処は全く想定していなかったため、初めは戸惑ったが、恐らく最善の手は尽くした。


「キャリロー……ゴメンな、私が無理させたばっかりにこんな事に……」


 さて、どのような顔をしてキャリローと言葉を交わせばよいのだろうか。



****



~都内某所・ライタル帝国訪日外交団・第三外交部~


「さ~て、今日も一日、仕事頑張るぞ~」


 昨日のうちに済ませた仕事の成果をカバンに放り込みながら、今日の日程を確認する。


「この後飯食って、移動して、捕虜返還の話し合いやって、飯食って、話し合いの続きやって、飯食って、会議して、寝る」


 限りなく単純化された日程を口ずさみながら、部屋から出て朝食を食べに食堂へ向かう。


「そして第三国の仲介は無し、通訳はムサシ王国。胃薬持ってきて良かったよ、全く」


 そう呟くストレンのポケットの中では、胃薬がジャラジャラ楽しそうに音を立てていた。



****



~三菱重工業・本社~


「いいか、今回の顧客は今後ウチのお得意様になることがほぼ確定している相手だ、気を引き締めてかかれ」


 日本の防衛産業の代表ともいえるこの会社で、営業部長直々にムサシ王国への防衛装備品の輸出に関するブリーフィングが行われていた。


 ムサシ王国が事前に日本に提示した要求内容の一つに、「軍の近代化」及び「国家の近代化」への支援がある。


 国家の近代化については三か年計画×五回の十五年で2000年代の日本のレベルまで到達することを目的としているが、軍の近代化は可及的速やかに行いたいとしている。


 そして今日、首脳会談ののち、防衛産業とムサシ王国との間で話し合いの場が持たれる。


 相手は資源国で、その資源を得るために政府からかなりのODAが拠出される。その中で防衛装備品も提供されるのだから、確実な利益が見込める。しかも大量の需要もある。


 余り気味だった生産能力の全力を発揮するときが来たのである。


「最後の確認だ、ウチとしては推すのはF-35AMと16MCV(16式機動戦闘車)、FCV(火力戦闘車)、それに護衛艦。この五つを推していく」


 営業部長が手元の資料を見るように促す。


「只、優先順位としてはF-35AMが最優先だ」


 F-35AMとは、F-35Aのムサシ王国版である。燃料タンクの容量を増やし、作戦行動半径を拡大させた一方、ステルス性は低下している。なぜこのような芸当ができるかというと、日本が転移直前に発動した「C計画」によるものが大きい。


 日本が持つすべての外貨、技術と引き換えに、貴国が持つ技術をください……これがC計画である。


 このころの日本は資源産出国だったこともあって、外貨が溢れていた。その外貨を情報提供のみで得られるとあって、各国は技術の提供を承諾したのである。


 そして、日本国内では本来不可能なF-35の純国産生産が可能になったのである。


 勿論ブラックボックスも無いので改造も思うが儘、夢のような世界である。


 完全な設計図を受け取った時、技術者が狂喜乱舞したのも無理はない。


「次に護衛艦。一応名目上は有害鳥獣駆除用具として輸……えー、移転するから、対潜、対水上攻撃能力を重視したプランを推す」


 因みに、これらの整備工場や技術は、ムサシ王国側に移転して近代化を図る。

 下手に職人の仕事を奪って将来的に資源を売って貰えないなんてことになったらひどい目に遭うからである。

 日本は石油以外の産業基盤物資やレアメタル等の殆どをムサシ王国に依存していた。

 例えるなら、日本が働き盛りの夫でムサシ王国が妻みたいなものなのである。

 そして妻は、その気になれば弁当を何時でも赤白反転日の丸弁当にしたり出来る。

 しかし、働き盛りの夫は、お小遣いを貰えないために残念ながらコンビニで弁当を買うことが出来ない。


 要するに妻から何か要求されれば、それを受け入れるしかないし、例えゴジラが来ようとも妻を守らねばならないのだ。

 その結果がこの日来(武来)戦争である。

 そしてこの仲の良い夫婦がこの世界で生き残る為に出した結論は、『妻も最低限の実力を持つ』という物であった。

 妻が夫の力を越えることは無いが、不審者を確実に捻りつぶせるレベル……それを目的に夫は妻へその技術と道具を分け与えたのである。


 そしてその具体的な交渉が、後2時間で始まろうとしていた。

 ここまでのご拝読、ありがとうございます。


 ご意見、ご指摘、ご質問、ご感想、何でも結構ですので是非感想をお書きください!


 感想を頂くととても励みになりますので、皆様宜しくお願いします。


 インフルエンザが本格的に流行しています。どうぞ皆さま身の回りの衛生管理にお気を付けください。それと、もし万が一感染された/したかな?という場合は、無理をなさず、どうぞご自宅でゆっくりなさってください。


 設定集を作りました、作者がメモ代わりに使っているようなブツですが、宜しければ是非ご覧ください。


 後、割烹書いたんで良ければ是非覗いてみてください。

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