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特別便

~航空自衛隊・ロウガー基地~


「ロウガーコントロールよりシグナス2へ、貴機は現時刻を持って我の管制下に入る」


「シグナス2よりコントロール、了解、着陸許可願う」


「ロウガーコントロールよりシグナス2、着陸を許可する、以後は電波誘導に従え」


「シグナス2よりコントロール、電波を受信した、アプローチに入る」


 転移前から用意されていた特別仕様のキットを適用した政府専用機がロウガー基地に降り立った。

 そのキットは、主に防疫に重点が置かれたキットであったが、素人目に見て違和感が無いよう、細心の注意を払って適用されており、クルーに紛れて防疫技官も乗り込んでいた。

 ここまで防疫に気を遣うのは理由がある。もしも彼らが未知の感染症に感染していた場合、日本国内でパンデミックが発生することがほぼ確実視されていたからである。

 今回の飛行では、約二時間をかけて下関基地から飛び、成田まで三時間かけて飛ぶ計画だが、『万が一』が無いように航空自衛隊、海上自衛隊、陸上自衛隊、情報庁の全力を投入した警備を実施した為、周辺の空は大変に狭かった。


「ヤタガラスよりシードラゴン、ウェイポイント8-10通過、次9-78」


「シードラゴンよりヤタガラス、了解、9-78」


 「ほうしょう」から飛び立ち護衛についていたF-35CJ……F-35Cの日本版改造仕様機がCAP(空中戦闘巡回)をする中、新たにF-15J改からなる護衛機が飛び立とうとしていた。


「コントロールよりブルーイーグル、滑走路1番へ移動し、準備出来次第離陸せよ」


「ブルーイーグルリーダー、了解」


 さて、今回政府専用機に搭乗するのは二組、ムサシ王国の首脳とその随行員、もう一組は……。



****



~ムサシ王国・国王付日本派遣団~


「各自、荷物纏めとけよ~」


「はーい」


 空自が用意したバスの中で、ムサシ王国から日本への派遣団がまだ見ぬ『日本』という名の異世界へとこれから旅立つ高揚感に包まれていた。


 そんな中、一人の情報将校が遠くを眺めて驚愕の面持ちを浮かべていた。


「どうしました?チユロ准将?」


「否、ライタルの連中、第二じゃなくて第一と第三の連中を派遣したみたいなので……」


「え!?」


 暫くして、車内に静寂が広がる。


「第三は分かってたけど、第一とはたまげたなぁ……」



****



~ライタル帝国・対日派遣外交団~


「ここがニホンの航空基地ですか……」


「広いねぇ」


「で、アレが噂の鋼鉄の天馬か……」


 そう言いつつ手の中に仕込んだ視覚保存装置でF-15J改を中央に収めた自らの視覚を保存するのは、ライタル帝国外務省、第三外交部部長のストレンである。

 彼は情報収集では無く、純粋な興味を以てそれらを撮影していた。

 ライタル帝国の外交部は、担当する分野によって四つに分かれている。

 第一外外交部は通常の外交を担当し、主に他帝国や中堅国家との交渉が主任務。

 第二外交部は属国/小国との交渉を担当する、所謂脅しのプロ。

 第三外交部は戦争関係の諸々……宣戦布告や講和、その他戦後処理等を主任務とする部門である。

 そして第四外交部は、情報収集が主任務である。


「また第四の連中に怒られますよ……」


「いいのいいの」


「はぁー……」


 大きく、深いため息を彼の部下は吐いた。


「まぁ、負け戦の戦後処理とか、こうでもしねぇとやってられませんわ」


「元をたどれば第四の不手際が元凶ですからね……」


「でもなぁ……ウチの南方展開軍を全力投入しても勝てるか怪しいぞ?アレ」


「近衛で何とか……ってレベルですか……」


「そうだね、近衛と……後ニホンは島国らしいから海空軍を投入して徹底的に海上封鎖仕掛けたら勝てるかなぁ……」


「南ポコロジアに支援を要請するというのは……」


「それもいいけど、奴らが動く理由が無さ過ぎる、第一の連中に期待するしか無いな」


「そうですか……」


「うむ、お、あれか……デカいなぁオイ」


そして彼らの前に、政府専用機が白い翼を煌めかせながら到着する。


「足元ご注意くださーい」


 係員の誘導に従って機内に入る。


「おお、案内板がライタル語だ」


「気配り凄いですね……」


「第一の連中が騒がなきゃいいが……」


 そう呟きながら着席し、自らの鞄の中に入れた書類と老眼鏡を出して読み込み始めた。



****



「何なんだ……この化け物は……」


 第一外交部の人間は、第三外交部の人間以上にニホンに対する恐れを抱いていた。


「この化け物を以て我が軍を攻撃したというのか……ニホンは……」


「それにしても、何で第三の連中はあんなに落ち着いてるんだ?」


「ああ、北ポコロジアとの講和の際に、似たようなモノに乗らされたらしい」


「成程ね……」


 現時点において彼らが心配しているのは、全くの未知の国家たるニホンに自分たちがどう扱われるか分からない事と、得体のしれない化け物の腹に抱かれて空を飛ぶ事への恐怖感だった。



****



~ムサシ王国・国王付日本派遣団~


「大きいなぁ!」


 ライタル帝国の外務省の次に視界に入って来たのは、既にタラップを接続され、乗客の搭乗を待ちわびる政府専用機の姿であった。


「あれに乗ってニホンまで行くのか……」


こちらはライタル帝国とはほぼ真逆……高揚感とワクワク感としか言いようがないような無邪気な雰囲気に車内が包まれていた。


「流石は我が国の官僚、無邪気だなぁ……」


 フォルイが思わず呟く。


「大体は陛下のせいだと思うのですが……」


 キャリローがそれに対して即座に対抗する。


「キャリローは珍しく真面目に育ったなぁ」


 彼等、ムサシ王国の官僚たちが無邪気な理由は、フォルイが設立した、『ムサシ中央大学』における教育が大体の原因である。

 そこでの教育は、工学や応用化学が中心ではあるが、そもそも貴族が存在せず、国民と王族という統治体系だったため、身分、性別、人種に関係なく義務教育修了者の内一定の年齢以上の者に入学資格を与えた結果、義務教育終了者からの入学が殺到、その結果、某合衆国もビックリな多文化共生大学という名のカオス・オブ・カオスな空間が発生してしまったのである。

 その結果、そこを卒業した学生たちは豊富な知識と価値観、そしてこの様な中学生並みの無邪気さを持っているのである。


「私は皆に混じらず陛下とやり合ってましたから……」


「君は厄介な生徒だったなぁ……」


 フォルイがしみじみと呟く。


「悪かったですね」


 キャリローがそう答えそっぽを向く。

 機外に視線を移した彼女が見たのは、任務を終え帰投するF-35CJの姿だった。


「おお~」


 その美しい曲線に目を奪われていると、機内アナウンスでシートベルトの着用指示が下り、その後機長からの挨拶があった。


「ムサシ王国国王陛下、並びにムサシ王国日本訪問団の皆様、本日は日本国政府専用機、シグナス1にお乗り頂き、誠に有難うございます。既に外務省の方からお配りした資料の通り、この機はこれから三時間かけてこの航空自衛隊、ロウガー基地から、成田空港へと飛行いたします。それまでごゆっくりとおくつろぎください。又、離陸後暫くしますと、我が国を紹介するビデオがスクリーンに投影されますので、宜しければご覧ください」


 機体が速度を上げて滑走路を目いっぱい使って滑走し、離陸する。


 離陸した途端、「「おお~」」という遊園地で聞こえるような歓声が機内を満たしたのは言うまでも無い。


 暫くすると、機長の案内通り、ビデオによる日本の案内が始まった。


『日本国は、豊かな自然の恵みを……』


「ん?」


 開始から少し違和感を覚えたが、それが段々と確信に変わる。


 二十分後、話が江戸時代のリサイクル社会について語り始めた頃、誰かがこうつぶやいた。


「今現在のニホンにこれから行くつもりなのに、これから我々が行こうとしているのは四百年前のニホンなのか……?」


 これに対してまた誰かが呟いた。


「せめて百年前だと良いが」


「江戸時代の末期、アメリカから派遣された黒船、と呼ばれる船団が日本に来航し、国交の樹立を……」


 半分寝かかっている訪日団が目を覚ます頃には、時代は江戸時代から明治、大正、昭和、平成と時は過ぎ去り、2000年代に突入していた。


「そして、強大化した隣国に対応する為、日本国は、2005年、第五次長期防衛力整備大綱において、大幅な自衛隊の増強を行いました」


「おお、やっと自衛隊の話だ」


 武官が身を乗り出す。


「その中には、左手に見えます『ほうしょう』等、航空機搭載型護衛艦を主軸とする護衛艦隊群八個の整備も含まれており……」


 窓から洋上に視線を向けると、「ほうしょう」を先頭に護衛艦が美しい単縦陣を敷いていた。

 「「おお~」」という歓声が再び機内を包み、海軍の武官が席を立って窓に食いついている。


「皆様には、後程横須賀基地において、『しょうかく』を見学いただきます」


 海自の同乗者がキャビンアテンダントからマイクを借りてアナウンスを始める。


「『りゅうほう』とは?」


 海軍の武官が窓に向けていた視線を向ける。


 「しまった」と一瞬後悔を抱いたが、後の祭りであるため、慌てて説明を入れる。


「先程紹介した、『ほうしょう』の二番艦……そうですね、同じ設計で作られた、姉妹みたいな関係の艦です」


「ニホンはあのような艦を何隻?」


「航空機搭載型護衛艦は現用で『ほうしょう』『りゅうほう』『あかぎ』『あまぎ』の四隻、現在建造中のものも合わせると六隻です」


「あの大きさの艦を六隻……」


 それを維持する経費や人員、そして工業力を考えると目眩がする。


 と、以上の様に質問しては質問者が目眩を起こす現象を何度も繰り返しつつ、政府専用機は飛行を続けた。

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