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立ち入り検査

~自衛艦隊司令部~


「現状を説明しますと、現在能登半島沖約百十キロの海域で第六護衛艦隊群と不審船群が接触、現在不審船一隻一隻に護衛艦を貼り付けて不測の事態に備えており、又『ほうしょう』への特警の派遣を現在遂行中であり、三十分以内に出動が可能との事です」


 カラっと空調が効いた室内で、第六護衛艦隊群付の幹部が資料を読み上げる。


「前例が無い任務だが、行けるか?」


特警ウチの存在事由そのままの任務です、やります」


 海上自衛隊特別警備隊の幹部が即答した。


「頼んだ」


「はい」


 海上自衛隊特別警備隊(SBU)は、2001年、能登半島沖不審船事件を受けて設立された三自衛隊初の特殊部隊だ。

 現在自衛隊には、陸上自衛隊の特殊作戦群、第八即応近代化旅団、第一、二空挺団、防衛省・情報庁(MDIA)の情報保全隊、特別警戒隊があるが、その中でも海上、及び水際での作戦を主眼に置いた部隊がこの特別警備隊である。

 その任務は不審船の制圧から上陸偵察作戦、人質救出等、幅広く行われ、その浸透侵攻能力は世界最高と言われている。

 そして現在ではMCH-101を用いた高速展開能力を保有し、適時適切に展開が可能な特殊部隊として存在し、現在進行形で実戦に投入されようとしているのである。




~護衛艦『ほうしょう』~


 「ほうしょう」の飛行甲板の屋根裏部屋にあたるギャラリーデッキに設けられた多目的区画にて、SBUの隊員たちが臨検前の準備をしていた。


「今回我々は、未知の敵へと殴り込みをかけ、囚われた日本国民を救出する。

作戦開始は二時間後、日没を待って我々は複合艇に移乗、そこから臨検を掛ける。

交戦規程は…戦闘員については発見次第『処理』、非戦闘員については抵抗あり次第同様に『処理』とする…船内構造が不明の為、高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変な対応が求められる…危険な任務だが、必ず成功させよう」


「「了解!」」


「では、準備に掛かれ!」


 彼らは黒ずくめの戦闘服の上に、防弾ベストを羽織り、防護マスクを装着し、更にタクティカルベストを着用して『身だしなみ』を整えた後、自らの情報管理端末のバッテリーを確認し、89式小銃やMP7に規定弾数の一割引きの弾数を装填し、音響閃光手りゅう弾、発煙手りゅう弾を装備する。


 そんな中、一人の新入りが先輩にこんなことを尋ねた。


「怖くないんですか?」


 先輩は答えた。


「何がだ?」


 新入りは続ける。


「臨検です。日本に帰れないかもしれないんですよ」


 先輩は答えた。


「そりゃあ怖いさ、でもそれは毎朝の記者さんも一緒だ、だから我々は行く」


 先輩はさらに続けた。


「適度に怖がれ、そして日本に帰ろう」


「分かりました」


自分の荷物を再度まとめ始めた新入りを見て、先輩は密かにホッと息を漏らしていた。



****



~護衛艦「ほうしょう」~


「では、頼みました」


「行ってきます」


 複合艇の切り離し作業に従事する乗組員たちに見送られ、複合艇は着水しエンジンを始動して母船から離れて行った。


 時を同じくして艦隊司令所は、隷下の護衛艦に作戦の開始を告げた。


「作戦開始、第一段階、警告音出力上げ、汽笛ならせ、SN旗(『停船せよ、さもなくば発砲する』の意)掲揚!」


「了解」


 指示を受けた護衛艦は、雄叫びを挙げてSBUの突入支援を行う。


 こうすることで意識を護衛艦へと向けさせ、反対側から回り込んで突入する複合艇の突入経路を確保するのである。


「突入進路確保ォ!」


「機関全速!突入前へ!」


 複合艇の機関が甲高い叫び声を挙げるが、他の護衛艦が挙げる雄たけびのおかげでそれはそう遠くまでは聞こえなかった。


 そして複合艇は予定どおり、一番大きい不審船の横腹に横付けする。


「突入ー、前ェ!」


 投げ込んだ錘に付いた突入器具を伝って、隊員たちが不審船に突入する。


「海上自衛隊だ!」


 予期しない来訪者に甲板上の海賊たちは一瞬動きを止めたが、剣を腰につるしているのを確認した隊員達が即座に頭に二発、胴体に二発の銃弾を放って無力化していく。


「甲板クリア!」


 血と死体にまみれた甲板の上で、隊員が叫ぶ。


「船内部への突入を開始する、スタングレネード用意!」


「用意ヨシ!」


 扉の近くにピッタリ身体を密着させ、一名の隊員が取っ手に手をかけ、もう一名の隊員が右手に閃光手りゅう弾を、左手にソレの安全ピンを持ち、合図を待っていた。


「3…2…1…今!」


 扉が少し解放されると同時に、閃光手りゅう弾が投げ込まれる。


「なんだ?」


 時限信管が発動すると同時に、閃光手りゅう弾からアルミニウムの粉末が放出され、一瞬間後強烈な酸化反応を起こし猛烈な光と音で船室を満たす。


「目がぁ、耳がぁ!」


「誰か…助けてぇ!」


 悲鳴に満ち溢れる船内に突入した隊員たちは、有無を言わせず船員を射殺していく。


「クリア」


「クリア」


「クリア」


「ルームクリア」


 船室を一つ制圧し、一瞬隊員に余裕が生まれる。


 次の瞬間、扉が爆発し、付近に居た隊員が吹き飛ばされる。


「!?」


 隊員たちは即座に吹き飛ばされた隊員を引きずって援護しつつ、複合暗視装置を起動し、銃を構える。


「「ウオォォォォォ!」」


 爆破された扉から雪崩れ込んできた船員達に、隊員たちは躊躇なく発砲した。




~魔導海賊団・団長船・ドホドロ号~


「何だ!?」


 船の外の護衛艦が途轍もない音を発してから暫くして、甲板が騒がしくなったと思ったら静かになり、安心していたところを、また上の方の船室が騒がしくなったのを聞いた幹部たちが、どかどかと階段をあがってゆく。


「敵襲!乗り込まれた!」


 誰かがそう叫ぶと、船員たちはぞろぞろと階段を駆け上がって突入の合図を待っている様だった。


 暫くして、波が船体を打つ音だけが聞こえるようになった。


 現時点において聴覚しかまともに使える感覚器官を持っていない毎朝放送のスタッフは、訪れた沈黙に不安を覚え、発狂寸前のところまで来ていた。


「おい…国民を助けるのが自衛隊の仕事だろ…海賊なんかやっつけて早く助けに来いよ!」


 このセリフを何度叫ぼうとしたか分からない。


 刹那、扉が解放され黒ずくめの男たちが足音を殺しつつも素早く突入してきた。


「発見!邦人を発見した!」


 久々に聞いた日本語に、毎朝放送のスタッフは心底安心したが、救出され拘束を解かれると、扉の外の惨状に息をのんだ。


 そこは船員達が乱雑に積み重なり死体の山を形成し、排水溝目掛けて血の川が流れていた。


「こちらへ、ヘリが来ます」


 そして甲板上は、防護服を着こんで後乗り込んできた臨検隊が死体の処理を行っていた。


「サンプル採取完了しました」


「了解、178~224迄は海中投棄処分、作業かかれ!」


 着ぐるみを剥がされた船員や幹部が、海にボチャボチャと投棄されてゆく。


「こんな事…こんなことしていいのか!?いくら海賊とはいえ彼らも人なんだぞ!」


 と、ディレクターは言ったが、表情を全く変えずに隊員は返した。


「自分達は、国民あなたがたの生命を守るためなら何だってします」


 そして、少しだけ笑ってこう言った。


「それが自分の仕事です」


 女子スタッフは、とっくの昔に気絶し、他のスタッフも嘔吐物で自分の服が汚れていた。


 ヘリコプターに乗り込むと、疲れが一気に出てディレクターは意識を失った。



****



~護衛艦・「ほうしょう」~


「特警が邦人の救出に成功!」


 オォ!と司令部内に安どの声が広がる。


「了解、不審船群の追跡を現時刻を以て終了する」


 横代海将補は立ち上がってこう宣言すると、再び深く腰掛けて上を向き、ため息をついた。

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