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アデン川会戦(5)

~統合運用本部~


「現在、敵突出集団は全壊、重迫の射撃により間もなく殲滅が完了するかと」


 真顔で恐ろしい言葉をしゃあしゃあ吐くオペレーターに、その上司が更なる情報を求める。


「了解、その他の動きは?」


 手元の端末を操作し、戦場監視装置の視界を引き、全景を表示させる。


「動きありません、恐らく日没を待って攻撃するつもりかと」


「了解」


 さて、一方その頃、ムサシ王国の観戦武官の中には余りにも気が張りすぎて倒れる士官もいる中、国王付き秘書官キャリローと陸軍参謀は司令部の外で借り物の無線を操作していた。


「えーと…周波数は幾つだっけ…」


 手元の書類を見ながらダイヤルを操作し、呼び出しボタンを押すと、ノイズが消えてクリアな音声が聞こえてきた。


「こちらは陸軍特殊作戦実行隊、ご注文は?」


 待ってましたとばかりにブルヴォン陸軍大佐が陽気な声で応答した。


「現在アデン川周辺に展開している敵の退路の寸断をお願い」


「お安い御用です」


「頼みました」


 それだけを彼らは済ますと、再び統合運用本部の庁舎内へと戻った。



****



~ムサシ王国陸軍・ダイヴォル駐屯地~


「と、言うわけで今回の任務は至極簡単、橋を爆破して敵の行動を阻止、以上だ」


 と言うと、前方のスクリーンに画像が新しく配備されたプレジェクターによって投影される。因みにこのプレジェクターは日本国政府からの贈り物である。


「今回の破壊目標はココ、ウヨ橋とロキ橋だ」


 慣れた手つきでプロジェクターを操作し、表示されている二枚の大きな石造りの橋の写真についてブルヴォン大佐は解説を入れる。


「最も工作が簡単な構造上の弱点は橋の根本の支柱、ここに構造保持用の魔法性質石が設置されており、こいつを吹っ飛ばすと橋は崩壊すると考えられる。よって今作戦ではこの支柱部分にC4を設置、爆破した後直ちに帰還する…理解できたか?」


「「はい」」


「よろしい」


 長い廊下をテクテクと歩いて自分の部屋へと帰るブルヴォン大佐を尻目に、隊員たちは準備に取り掛かった。



****



~ムサシ王国・ライタル帝国国境~


 徒歩で森林に浸透している特殊作戦実行隊が国境を越える。

 夕方にも拘わらず間伐されていない森の中は広葉樹林が日光を弾く為暗く、目を凝らしてもあまり遠くまでは見る事が出来なかった。


「ポイント7通過、目的地まで後2時間……」


 彼らの歩みを土が受け止めている為、装備品が擦れて発生させる音以外の音は響かず、虫の鳴き声がその音すらかき消す中、彼らは尚目的地へと進んだ。




****




~アデン川・防御陣地・前進観測班~


 じっと地面に伏せて敵の様子をうかがっていたFO(前進観測班)が、双眼鏡越しに漆喰の白壁の如く連なるライタル帝国軍が動いたのを確認し、自らの役目を果たさんと無線機を取り上げた。


「FOよりCP、敵全体が前進を開始、繰り返す、敵全体が前進を開始、送れ」


 暫くして、ノイズ交じりの声が受話部分から聞こえてくる。


「CPよりFO、了解、UAVが上がった、退避準備」


「FO了解」


 そう短く返答すると、彼らは設置してあった観測機材等々の荷物をまとめて撤収していった。




****




~統合運用本部~


「敵集団、前進を開始」


 連絡を受けていたオペレーターが上官へ状況を報告する。


「了解、特科、射撃用意」


 そして、予定通りに特科部隊へ射撃命令が発令された。



~防御陣地~


「小隊各位に通達、これより特科部隊による集中射撃が実施される、よって速やかに陣地転換を実施する、直ちに現陣地を放棄して装備を纏め分隊ごとに乗車を開始せよ」


「二班了解」


 第二小銃班の班長……山内三曹は、つい先ほどまで伏せていた塹壕から身を起こし、号令を下して一旦分隊を集結させる。


「全員いるな?ヨシ、かけあーし、前!」


 陸上自衛隊では三歩以上の移動は基本駆け足である。その癖が実戦でも発揮され、狭い塹壕の中をかなりのスピードで移動していた。


「止まれー、一、二、三!」


 号令一下一斉に停止し、塹壕から出て塹壕が掘ってあった防御陣地として作られた土手の裏側に停車中の19式装輪装甲車に乗り込む。


「乗車!」


 装甲車へと乗り込み、扉を閉めた直後、発車ブザーと共に車両が発進した。


 高度なサスペンションにより、かなり振動は抑えられているが、それでも轍を乗り越える度に車体が揺れた。


 その轍を作った張本人……第三戦車中隊は、普通科とは逆に前進していた。



~第三戦車中隊・中隊長車~



「パンター1より中隊各車、陣地侵入後速やかに射撃体勢をとれ」


「パンター2、了解」


「パンター3、了解」


 各小隊ごとに応答が返ってくる。


 彼等が向かっている陣地とは、戦車掩蔽壕の事である。

 さて、防衛戦で戦車を活用しようと思った時、必要なものは有利な地形と良い射界、そして各種支援である。そんな都合のいい地形が無い場合はどうするか。作ればいいのである。

 作り方は至って簡単、開けた土地に作った普通科防御陣地を間借りして、地面を車体分掘って、擬装網を掛けたら終わりである。

 こうすることによって、こちらは普通科の支援を受けつつ、被断面積を小さくし、最悪被弾しても装甲の厚い砲塔正面で、しかも位置が暴露しない陣地の出来上がりだ。


 そしてその陣地に、第三戦車中隊の皆様が侵入し、砲を敵へと向けた。


「中隊各車、集中、指名、目標、正面の敵戦列、弾種キャニスター、射撃開始!」


 一斉に機動戦闘車の105ミリライフル砲と10式戦車の120ミリ滑腔砲が火を吹き、キャニスター弾の中に充填されていた重金属の矢……フレシェット弾がライタル帝国軍に迫る。




~ライタル帝国軍~



 軽快な行進曲が響く中、士官の号令が復唱され伝達される。


「障壁展開、師団集中、抑え込め!」


 白いローブを身にまとった魔導兵たちが満員電車の如く密集しながら障壁を展開し、何とか一斉射目を抑え込む。


「よし、その調子だ!」


 しかし、その弱った障壁に空から榴弾が襲い掛かかり、容赦なくそれを食い破った。




~第三戦車中隊・中隊長車~



「各車陣地転換急げ!」


 戦車掩蔽壕から猛スピードで後退し、14両の戦車と機動戦闘車が陣地転換を実施した。


 それを大急ぎで追うライタル帝国軍は、何とか防御陣地の第一線にたどり着き、歓喜の雄たけびを挙げていた。



~防御陣地~


「機甲科の陣地転換完了、及び敵部隊の陣地侵入を確認!」


 双眼鏡を覗いていた監視員が叫ぶ。


「爆破用意!」


 それを受けて下された命令を受けて、起爆用コントローラーのノブに施設科の隊員が手を掛けた。


「用意よし!」


「三、二、一、今!」


 ノブを捻った瞬間、第一線の防御陣地とその前面に設置されていた大量のC4爆薬が起爆され、侵入していたライタル帝国軍諸共木っ端みじんとなった。

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