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アデン川会戦(4)

~アデン川・防御陣地正面~


「やっと…やっと…ここまで来た…」


 とある将校がまだ戦ってすらないのに大きなことをやり遂げたかの如くそう呟いたが、「まだなにもしてないじゃん」とか思うのはあまりにも酷である。何故なら、彼らはここまで砲撃によって穴ぼこになった地面を徒歩で来たのである。155ミリ砲という重砲によるクレーターだらけの平原をだ。


「状況は?」


「既に初期配置を完了、何時でも行けます」


「了解、指示を待て」


 フォチュール将軍がやっとのこさ到達した目標をどう攻略しようか考えていたころ、血の気の多い貴族が率いる師団が勝手に前方へ進出してしまった。


「報告!ホリゾフ師団が前進しています!」


「何だと!?」


 まぁどうせ威力偵察を行うつもりだったからいいか…と思いつつも、一応引き返すよう指示を出す。


「師団より返答『コトワルアトニツヅケ』」


「…そうか」


 他の師団が動かない様に通達しつつ、威力偵察代わりに観察する。


「さて…どう動く…?」


~ホリゾフ師団・師団本部~


「他師団、動きません!」


「ふん、腰抜けが」


 さて、ホリゾフ公爵の私兵だけで構成されたこのホリゾフ師団であるが、今回略奪目的でこの侵攻に参加しているので、当然兵の練度は低い。

 しかし、武功を求めてホリゾフは前進を命じた。


「見れば城壁も何も無いではないか!何を恐れておるのだ腰抜けどもは?」




****




~統合運用本部~


「敵集団より一個師団が突出」


「了解、痛い目に遭わせてやれ」


 さて、ホリゾフ師団が進撃するその行く先に待ち構える自衛隊。その統帥をする統合運用本部と展開部隊は、特科射撃終了後作戦第二段階への移行を既に完了させていた。


「ニホンが防御を固めた所に突っ込んでくるなど、馬鹿な奴らだ…」


 一方観戦武官は、正面モニターを呆れ顔で見つめていた。


「現在時刻16時、日没までに決着着くかもな…」



****



~防御陣地・戦車掩蔽壕~


 そして作戦第二段階は、重迫撃砲による射撃から幕を開けた。


「FOよりFDC、敵突出部のAA-182侵入を確認」


「FDCより8、9重迫中隊、AA-182射撃用意」


 司令部からの指示を受けた120ミリ迫撃砲の操作員が、事前に作成された射表の諸元に砲を合わせる。


「半装填!」


 装填手が直径120ミリの砲弾を重迫撃砲の砲口に半分差し込んだまま両手でがっちりと保持する。


「射撃よーい!」


 砲班長の号令が下り、一気に緊張が高まる。


「5、4、3、2、1…」


 右手を振り下ろし、砲班長が命じる。


「撃て!」


 号令を受けた装填手は両手を放すと同時に事故防止のためできうる限り姿勢を低くする。

 砲弾は重力を受け、砲身内を落下し、底に設置してある撃針に尻の雷管が触れて装薬に引火、瞬間的に発生したガスのエネルギーを受けて砲弾が重力に逆らって砲身内を進む。

 そして砲弾より少し大きい砲口径が大きい為、砲弾より先に飛び出した発射ガスの後を追うように砲弾が射出される。

 射出された砲弾は、計算どうりに飛翔し、数多くの仲間と共に敵集団突出部に突っ込んでいった。


「弾着、今!」


「FOよりFDC、射撃有効と判断。射撃要求、効力射!」


「了解、FDCより8、9重迫中隊、効力射始め!」


 コンテナから迫撃砲弾を取り出し、装薬を取り付けて次々に打ち出していく。


「弾着…」


 予定通りに飛翔した迫撃砲弾は、落下地点に向け空気を切り裂いて突進していった。


「今!」


 そして、計算通りの時間が経過し、計画された地域に死の塊が降り注いだ。



****




~ホリゾフ師団~


「来ました!飛翔体です!」


「何だと!?」


 司令部が混乱している間に、第一射が着弾する。


「お、おい!そこのお前!腰抜けどもに早くこっちに来るように伝えろ!早く!」


 しかし、その魔導通信兵は頸動脈に破片が突き刺さり、息も絶え絶えになっていた。


「くそっ!」


 ホリゾフ公爵は暫く逡巡した後、全軍に突撃を命じた。


「こうなれば我らだけで武功を立てるぞ!進めぇ!」


 何とか立て直した大隊や中隊級の結界発生装置が起動し、砲弾による被害をある程度は抑え込んでいた。


 しかし、そんな突撃も鉄条網に先頭が引っかかった事により停止する。


「な、何をやっておるか!進め!進めぇ!」


 刹那、陣地方向から多数の光る弾が飛んで来た。


「光弾…?敵に魔導士は居ないはずでは…?」


 そうある中隊長が言った瞬間、彼の上半身は血しぶきとなった。



****



~防御陣地~


「突撃破砕射撃、始め!」


 中隊長からの命令を受け、配備されている機関銃が夫々火を吹く。


「小隊待機ー、小隊待機ー」


「二班了解、待機中」


 さて、そんな中、山内三等陸曹は、指揮下の小銃班と共に塹壕に籠っていた。


「十字射撃と重迫の計画射撃…あの中に居たくはないな…」


 十字を組むように構成された鉄条網に引っかかった敵は、夫々の十字線の延長線上から見ると一直線に並んで居る様に見える。その十字の延長線上に配置された二つの射撃陣地は、その一直線に並んだ敵を射撃すれば敵を一気に射撃することができるのである。

 一寸した工夫だが、この戦術によってWW1では歩兵が一日万単位で死んでいったのである。(勿論これだけではないが)。

 当時の人は、これを突破するには数の力押ししか無いと考えたのである。確かに細い鉄条網と数門の機関銃によって構成された陣地は、一見脆弱に見え、歩兵の数で突破できそうにも見える。実際数万人の犠牲を出せば突破は可能だった。

 だが、その陣地の正しい突破方法は機甲部隊による起動突破、若しくは浸透侵攻作戦である。しかし今その陣地を突破せんと自衛隊を攻撃するライタル帝国軍は、その様な戦法も兵器も持ち合わせては居なかった。


「お、何人か乗り越えてきた…五人か」


 味方の死体の山を乗り越えて何人かの歩兵がこちらへ接近してきたのを報告すると、無線機から指示返って来た。


「小隊各位、射界に入り次第攻撃開始せよ」


「二班了解」


 双眼鏡を横に置き、小銃を構える。


「正しい頬付け…正しい照準…コトリと落ちる様に…」


 訓練通りに銃を構え、銃を向ける。

 そしてダットサイトに目標が重なった瞬間、引き金を引いた。


 撃鉄が撃針を叩き、5.56ミリ弾の尻に付いている雷管を突く。そして雷管の爆発が火薬に引火、発射ガスが発生して銃弾を前へと押し出す。押し出された銃弾は銃条によって回転を与えられながら加速し、銃口を飛び出して飛翔を開始する。銃口を飛び出す寸前、一部の発射ガスは上部に設けられたガス漏孔を通り、シリンダーを通過してスライドを後退させる。そしてピストンがスライドと共に後退し、次の弾薬がセットされ、同時に抽筒子が空薬莢を薬室から引き抜く。後退したスライドは、復座ばねの力で再度前進し、次の弾の発射準備が整う。


 これを三回繰り返し、目標は倒れた。


「目標排除…」


 無線機にそう呟きながら、自分が初めて人殺しをした事実を双眼鏡越しに目の当たりにする。


「…これも国の為か」


 そう言って自分を納得させると、再度自分の体を塹壕に預けた。

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