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アデン川会戦(3)

~統合運用本部~


 ムサシ王国からの観戦武官が真っ青な顔でモニターを見つめる傍ら、自衛隊の戦力を統合運用するこの部屋では、幹部やオペレーターがそれぞれの役割を果たしていた。


「目標群、さらに接近」


 情報統合担当者が状況を報告する。


「第一、第二特科大隊、観測射撃始め」


 オペレーターが特科大隊へ指示を下し、それを受けた部隊が命令を実行する。


「第三、第四特科大隊、観測射撃用意」


「グリッド818-777、788-915、826-334…」


 空自のオペレーターが弾着観測を行い、諸元を読み上げ、それを受けて自動で弾着点が修正される。


「第一、第二特科大隊、観測射撃終わり、効力射用意」


「了解、こちらFDC、第三、第四特科大隊へ射角33、方向右へ32度、装薬白10、大隊観測射撃始め」


 着々と特科大隊が射撃準備を整える中、防御陣地では機甲科と普通科の隊員たちが獲物を待ち構えていた。



~アデン川流域・防御陣地~




 遠くから雷鳴の如く鳴り響く砲声を聞いて、普通科隊員たちはHUDの情報を呼び出し、作戦の実行状況を確認した。


「現在特科部隊による敵両翼に対する射撃中…か」


 塹壕に籠りながらそう呟き、HUDを跳ね上げて双眼鏡を特科陣地の方向に向けるこの男…山内三等陸曹は、つい最近陸士長から陸曹になったばかりの第十二連隊第三中隊第一小隊隷下の第二小銃班長である。


「しかし、敵さんも可哀想になぁ…」


 自分たちが陣地構築を行っている間に、施設科が設置した大量の対人障害システムやら対戦車地雷やらが敷設された平原を見ながら、そこに追い込まれつつある敵に若干の同情が沸く。


「現在時刻1433、こっち来るのは16時位か…」


 敵の侵攻速度を勘案して後何時間のんびりしていられるか計算する。ふと顔を上げると、部下の狩野陸士長がガタガタ震えているのに気付く。


「おい、大丈夫か?」


「は、班長…」


「大丈夫、訓練通りやれ」


「は、はい…」


 部下のヘルメットを叩いて励ます。


「まぁ、暫く待機だけどな…」


 今のうちに…と愛銃の薬室内を清掃する。


「突撃破砕線はあそこか…」


 自分の担当する射界を確認した後、二脚を立てて銃を置いておく。

 この塹壕は、小隊から分隊、そこから更に二人一組に分岐する様に掘られ、前方の対人障害陣地…鉄条網と地雷が大量に敷設された平原に等間隔に並べられた白いリボンが括りつけられた杭で夫々(それぞれ)の担当射界が定められ、更に小隊に三丁の割合で12.7mm重機関銃が配備され、援護射撃を可能としていた。


「まぁ、暫くはゆっくりできるか…」


 再び塹壕に身を横たえ、深く息を吐いた。


 一方その頃、作戦第一段階の主役たる特科陣地は大変盛り上がっていた。





~アデン川流域・防御陣地・第一、第二特科大隊射撃陣地~


 敵集団側面に効力射をしていると、統合司令本部から更に指示が下った。それを受けた通信員が叫ぶ。


「諸元そのまま、全力射!」


 一瞬耳を疑ったが、自分の端末にも全力射撃指示が出ている。


「了解、AA-915、全力射!」


 国内の演習場では出来なかった最大炸薬、しかも全力射撃である。


「よぉし!気張って行け!」


 中隊長の指示の下、多目的弾…子弾が大量に詰まった砲弾を次々に打ち出していく。


「行って来いよ!」


 砲弾運搬車の容量では足りないため、人の手で直接砲弾をベルトコンベアに乗せて撃ち出す。

 轟音と共に、音速を超える速度で砲弾が砲身から飛び出し飛翔する。


「弾着…今!」


 一方その頃、自衛隊史上まれに見る最大炸薬の四個特科大隊による全力射を受けているライタル帝国軍両翼は、意外にも陣形を維持していた。



****



~ライタル帝国軍・侵攻軍・右翼~


「来ました、三十発!」


 偵察兵からの報告を受け、右翼二個師団が保有する全力を以て空に結界を展開する。


「耐えろ!」


 師団級結界発生装置五十三型…広域防空用の結界発生装置が起動され、その援護の下連隊級や大隊級の結界発生装置が群がって結界を形成する。


 大量に落下した多目的弾は、一度空中で破裂した後子弾を放出し、目標を破壊せんと迫って来る。しかし、その大半は結界によって防がれてしまっていた。そして結界の範囲外に降り注いだ子弾は土煙を立てる。


「よし!耐えた!」


「よし、このまま中央に引っ込むぞ!」


 統合指揮本部の通達により、じりじりと両翼が中央へと引き込まれてゆく。こうして結界を重複させることにより、防御力を上げるのが目的だった。





****





~統合運用本部~


「FO、UAVから映像回せるか?」


 参謀員からの問いかけに、オペレーターは即座にプロジェクターを映像に差し替えた。


「これ、砲撃効いてます?」


 赤外線画像では、目標が陣形を保ったまま合流していく様子が見て取れた。


「解らん…」


 いくら赤外線画像とはいえ、砲弾で熱せられた土煙越しの不明瞭な画像では陣形しか読み取れなかった。


「念のため弾種をりゅう弾に変更、信管着発」


「了解、こちらFDC、諸元そのまま、展開中の全特科部隊へ、弾種をりゅう弾に変更、23式信管着発設定!」


 統合指揮所からの指示を受け、統合指揮本部内のFDCが特科大隊へ指示を下し、本来ならば特火点トーチカ等に対して使用される着発信管の使用を命じた。


~ライタル帝国軍・侵攻軍・右翼~


「…敵飛竜、接近!距離8900!」


 土煙を避けようと敵右翼の後ろに回り込もうとしていた空自のUAVの一つが防空網に引っかかる。


「了解、対空射座、一番から三番まで、打ち方始め」


 馬にけん引されていたバリスタが展開し空へと向けられ、魔法障壁の合間を縫って対空射撃が実施される。


「敵騎、距離8900、上げ角67度、方向右へ121度、弾種魔導加速槍、打ち方始め」


 操作要員が素早く槍を装填し、指示通りにバリスタを操作する。


「当たれ!」


 魔法によって加速された槍がUAVを直撃し、翼をもいだ。


「目標撃墜!」


「よし!」


 対空射座が喜びに沸く中、特科陣地では弾種の変更が済み、再度の全力射を実施していた。



~統合運用本部~


「UAV、被撃墜ショットダウン


「何だと…!?」


 敵の防空能力を舐めていたのが仇となり、特科部隊の目が一つ消えてしまった。


「予備のFOが居たろ、展開させろ」


 しかし、予備としてFO(前進観測班)が待機していたため、ライタル帝国はその努力虚しく砲撃を浴び続ける事になる。


「FOよりFDC、射撃要求、観測射、目標座標1233-3345、標高283、規模三個師団」


「FDCよりFO、了解」



~アデン川流域・防御陣地・第一、第二特科大隊射撃陣地~


「FDCより第一、第二大隊、射角22、方向左へ13度、装薬白10、大隊集中、観測射、10、9、8、7、6、5…」


 砲班長が右手をFDCの指示を受けて垂直に振り上げる。


「射撃よーい」


「4、3、2、1…」


「撃て!」


 拳を振り下げて砲班長が号令したのと同時に、30門の155ミリ装輪自走りゅう弾砲が火を吹いた。

 それと同時に、30発のりゅう弾が目標に向け飛翔する。


「弾ちゃーく…今!」


 弾着点を見て、FOがFDCへと修正要求を送る。


「FOよりFDC、修正要求、左増せ8」


「FDCより第一、第二大隊、射角22、方向左へ21度、装薬白10、大隊集中、観測射、5、4、3、2、1…撃て!」


 先に同じく、砲班長が拳を振り下ろしたのと同時に30門の155ミリ砲が火を吹く。


「FOよりFDC、射撃要求、諸元そのまま、効力射!」


「FDCより第一、第二大隊、諸元そのまま、効力射!」



~ライタル帝国軍・侵攻軍・右翼~


「また来ました!三十発!」


 優秀な前進偵察班のおかげで、有効な結界を張って砲撃を凌いでいたライタル帝国軍に、再び砲弾が襲い掛かる。


「結界強度を増せ!」


「はい!」


 しかし、今度の砲弾は空中で破裂せずそのまま突っ込んできた。


「破裂しない!?」


「不味い…!」


 結界を次々に爆破し、残存したりゅう弾が地面に激突する。


「抑えこむんだ!はや」


 刹那、着発信管が作動し、地表が爆発した。


 広域防空用の大型結界は役に立たず、大隊ごと、中隊ごとに配備されている結界発動装置の中をりゅう弾による焼けた鉄の嵐が吹き荒れる。

 一瞬射撃が止んだと思えば、すぐに次の砲弾が落下してくる。キリの無い純粋な破壊の塊に、ライタル帝国軍の両翼はなすすべなく壊滅していった。

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