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アデン川会戦 2

 後に『アデン川会戦』と呼ばれるこの戦いは、陸自の先制攻撃から幕を開けた。


~アデン川流域・防御陣地~


「空自より通達、目標群、前進特科陣地の射程内に入りました」


「了解、攻撃はじめ!」


 統合指揮統制システムによるデータリンクによって、UAVからの情報が前進特科陣地に転送される。



****



~前進特科陣地~


「情報来ました…上げ角47、右35、炸薬白10、弾種りゅう弾、三発、中隊集中、観測射撃始め!」


 結局最後に自動的に入力された情報を人が大声で読み上げ確認し、五門の155ミリ装輪自走りゅう弾砲が上へ向き、一斉に射撃が開始される。


「弾ちゃーく、今!」


 次弾と炸薬が給弾車から供給され、それを引き上げて装填し、UAVの観測データを元に修正して二発目を発射する。


 この作業を繰り返し、目標に対する砲撃の効力を高めていくのである。


 一方その頃、狙われる『目標』の上層部は大騒ぎになっていた。




****



~ライタル帝国・侵攻軍・統合司令本部~


「報告!最前線の第五師団が敵の攻撃を受けています!」


 魔導通信機を操作していたオペレーターが叫んだ。


「何!?敵の姿も見えないぞ!」


 それを受け、参謀たちが騒ぎ出す。


「偵察兵は何をやっておる!?」


 暫くすると、ドォォン、ドォォンと爆発音が響いてきた。


「この規模の爆発…大丈夫だ、そう大量には打てない」


 魔導学を専攻していた上級参謀が呟く。


 暫くすると、爆発音は止んだ。


「よし…被害は?」


 魔導通信機を通じてオペレーターが問いかけるが、返答は帰ってこなかった。


「おかしいな…故障か?」


 直後、凄まじい爆音が前線の方向から響いてきた。




****




~前進特科陣地~


「諸元そのまま、効力射!」


 155ミリ装輪自走りゅう弾砲は、先に書いた通り自動装てん装置を装備し、高い発射レートを持つ優秀な火砲であるが、そのレートは最大毎分12発、5門で構成される中隊なら毎分60発の155mm弾を投射可能である。その上、統合指揮統制システムによって高い精度での攻撃が可能、その上車輪なので整備性も高い…そんな夢の火砲であった。


 さて、そんな夢の火砲が中隊規模で効力射を行う対象…『敵集団突出部』は、悲惨を通り越して最早形容句が『地獄』しか当てはまらない様な状態に陥っていた。




****




~ライタル帝国・侵攻軍・第5師団~


 前進特科陣地が観測射撃が終了した直後まで、時計の針を戻す。


「被害状況は!?」


 師団長、オウゲン大佐が部下に血相を変えて問いかける。


「第三中隊が直撃弾を受け壊滅、その他は被害ありません」


「そうか…生存者の救出を急がせろ」


 少し安心した様子で命令を下す。


「はっ」


 机の下に落ちた被害状況の詳報を拾おうとしゃがんだ途端、彼の視界の隅が歪んだ。


「?」


 直後、吹き荒れた焼けた鉄の嵐に帽子を持っていかれる。


「!?」


 少し落ち着き、辺りを見ると辺り一面ビーフシチューと化した死体と残骸の混合物山が形成されていた。その中でも何人かは呻き、助けを求めている。


「な、何が…」


 着弾からこの間まで3秒、彼は生きている魔導通信機を掴もうとしゃがみ、受話器を取ろうとする。しかし、ここで四秒を迎え、効力射の第二射が彼と彼らの部下を再び襲った。


 その様子を無機質な目で観察するものがあった…航空自衛隊のUAVである。UAVからの情報を受け、前進特科陣地の次なる目標が更新され、火力が最大効率で投射されていった。


 その様子を、観戦武官達は統合運用司令本部の特別席でリアルタイム映像を通して『観戦』していた。


「これは…」


 軍人たちは二の句が告げなくなっている。


「ご覧の様に、我々自衛隊は、全部隊を統合運用することにより、効率的、かつ強力な打撃を適時、適切な場所に実施することが可能です…右手のモニターをご覧ください、敵突出部の処理を完了した前進特科陣地は、速やかに陣地転換を行い、敵からの反撃を無力化します」


 そんな観戦武官の様子を気に掛けず、担当者が朗らかな声で説明する。


「陣地転換…?あの重砲をですか?」


 砲兵出身の参謀が尋ねる。


「ええ、最短三十秒で射撃準備が整い、同じく三十秒で撤退可能です」


「そ、速度は…?」


「路上120km/hです」


「時速120km…!?」


 要するに翼竜ワイバーンの幼体並みの速度であの重砲が大量の弾薬と共に移動して高精度の攻撃を高い発射レートでボカスカ打ち込んで来るのである。

 その上、その化け物を75門もこの地に持ち込んでいるのであり、もし万が一我が国と衝突したら…等々を考えているうちに、参謀たちの顔色がどんどん悪くなる。


「大丈夫ですか?」


「は、はい…」


 担当者の起源を損ねない様にせめてもの笑顔を取り繕う。


 一方、そんな事を気にしていない国王代理…秘書官キャリローは、大型液晶に釘付けになっていた。


「すごい…すごすぎる…」


 その大型液晶の製造技術もさることながら、リアルタイムに高画質の映像が送られて来ることに感銘を受けているこの技術者は、次にりゅう弾砲の砲身に注目する。


「すいません、あの砲の写真ってありますか?」


「どうぞ」


 防衛省が取材協力している某雑誌を担当者は手渡した。


「こんなに薄い鋼板であの圧力をよく受け止められますね…」


 さて、砲の射程を上げようとするとき、もっとも簡単な方法は『角度を取れるように改良する』である。次に簡単な方法は『炸薬の量を増やす』だが、これは一見簡単に見えるが難しい。

 理由は簡単『砲がこわれるから』である。

 昔(西暦1400年ごろ)、ウルバン砲というオスマン帝国が作成したコンスタンティノープルの城壁を砲撃する専用の大砲があったが、まともに当たらない上に品質の良いものでも六週間使えば反動で壊れ、悪いものだと撃った瞬間に砲身が破裂するという極めて危険な代物だった(それでもコンスタンティノープル陥落に大きな貢献はしたのだが)


「そこは…一寸わからないです」


 技術屋では無い担当者は肩をすくめた。


「そうですか…」


 キャリローはふと気付いた。


 『あれ?少なくとも日本ってこの地域では一位二位を争うぐらいの大国…?』と。


 それに気付き、それを今まで把握している情報が補強していく。


 『よくよく考えたら別の世界軸から全く違う環境にやって来て混乱しているにも関わらずこれだけ強力な戦力を国外、しかも海外に派遣できるだけの国力…そしてそれを支える技術力…』


 そして、キャリローも他の観戦武官と同じく顔色が悪くなっていく。


「皆様大丈夫ですか?水をお飲みになりますか?」


 担当者が紙コップに氷水を注ぎ、配布していく。


 それを飲んだ観戦武官らは落ち着きを取り戻し、本来の仕事である『観戦』を始めた。


「しかし…流石は帝国軍、この状況下においても統制を乱さず行動しているな…」


 壊滅した第五師団の残存兵力を吸収し、何事もなかったの様にこちらへ進撃を続けている。


「これで撤退してくれれば無駄に死人を増やさなくて済むのですが…」


 しかし、彼らの往く先は本体の特科陣地に援護され、数多の試練を乗り越え洗練された体系を持つ防御陣地である。数に任せて突破できるものでは無い。


「我が国は今後日本国と永久的な友好関係を…ん?」


 外交宣言を考えていたキャリローがふと気づく。


 『日本と同盟を結んでいるのは現時点で我が国だけ、そして今のところ工業製品を大量輸入できているのも我が国だけ、技術援助を貰っているのも我が国だけ…そして日本国は我が国の資源に依存…成程…』


 何故国王があれほどまでに日本に肩入れするのか、理由が分かった。


「これが『怪我の功名』って奴ですか、陛下」


 今思えばあの時遭難していなかったらこんな好条件で国交を結ぶことは出来なかっただろう。ムサシ王国が幸運に恵まれていることに感謝するキャリローであった。

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