衝撃の槌 3
~航空自衛隊・ロウガー航空基地~
目標への攻撃を終え、地上へと降り立った機体が誘導され、各機が補給ポイントへ移動する。
「来たぞ!運搬はじめ!」
「ギアよし、ハードポイントよし、吸気口よし…」
補給ポイントでは、整備員たちがかつてない勢いで点検を済ませ、武装を装着し、部品を交換し、燃料を補給し、再び飛び立てる状態へ機体を整えた。
「エルロンよし、エレベーターよし、ラダーよし…」
「はい、オッケーでーす」
「『ロウガーコントロール』より『ピューマ01』、離陸を許可する、第四滑走路へ進入せよ」
最終点検の終了後、 航空機誘導員の誘導に従って滑走路へと機体が移動し、滑走を開始する。
「『編隊長』、離陸する」
離陸を終え、指定の空域で編隊ごとに空中旋回待機を命じられる。これは、全面に対し一斉に打撃を与えることによって敵の反撃を散漫なものにする目的のためあった。
~AWACS・スカイヘッド~
「『スカイヘッド』より空中待機中の全ストライクグループへ、作戦を第三段階へ移行する」
完全な航空優勢の下、自由に攻撃隊が大空を飛び回る。
しかし、帝国軍の残存部隊も黙ってやられるわけでもなく、残った対空兵器を掻き集めて応戦していた。
「これ以上連中の好き勝手させるな!」
二連装バリスタが空へ向けられ、対竜誘導弾頭を装填される。
「当たれ!」
飛来したF-15EJに二本の槍が放たれるが、そもそも魔力を持たない航空機相手には誘導できない事を知らずに対竜誘導弾頭を装着した為、ことごとく回避されてしまう。
「『ピューマリーダー』用意…投下」
「総員、高高度に耐衝撃結界を張れ!」
士官の機転によって限界高度にて結界が張られ、JDAMが軽くバウンドする。
「よし、やったぞ!これで無」
直後に自爆したJDAMによって、結界が破られ、破片が降り注ぐ。
「『スカイヘッド』より『ピューマ2』、目標に対する爆撃を許可する」
「『ピューマ2』用意…投下」
十秒後、AWACSの統制の下僚機によって更に燃料気化爆弾が投下され、火球が生まれる。さらにその二十秒後、ナパーム弾を抱えたF-15EJが更に攻撃を実行し、目標の兵站防空拠点及び兵站線を完全に破壊した。
そのほかの箇所でも、兵站線は完全に破壊され、前線への物資の供給は完全にストップした。
『衝撃の槌』作戦は、完全なる成功を収めたのである。
****
~ライタル帝国・侵攻軍・統合作戦司令本部~
ライタル帝国の技術の粋を集めたこの場所では、現在情報集約担当の士官が苦虫を食い潰したような顔で報告を行っていた。
「兵站線、及び連絡線は敵航空攻撃により消滅しました、これにより我々は完全に後方を寸断され、現在孤立状態にあります…その上、占領地域は既にもぬけの殻となっており、食物の現地確保も難しい状況です」
「…備蓄は後どれくらい持つ?」
「…長くて二週間ほど、魔帯鉱石等の武器類は…戦闘行動を行った場合一週間持ちません」
「そうか…」
フォチュールは、三十秒ほど頭を抱えると、絞り出すように声を出した。
「応急作戦計画第八号の発動を命ずる…」
「了解しました」
更にあわただしくなった指令室の内部で、フォチュールは一人呟いた。
「勝てたら奇跡だな、コリャ」
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~航空自衛隊・ロウガー航空基地~
「『ロウガーコントロール』より空中待機中の全機へ、お疲れの所大変申し訳ございませんが、安全のため、指示された高度は必ず守って下さい、皆様のご理解ご協力をお願致します」
管制官が冗談を言う程こちらは緊張から解放されていた。
「被撃墜ゼロでこの戦果、きっと後の航空史に残りますよ!」
「ああ、そうだな…」
整備員たちがこんな会話をする中、二機のF-35AJが飛び立った。
「あの機、何しに離陸したんですかね?」
新米の整備士が古参の整備士にエンジンの点検をしながら尋ねる。
「戦果評定はUAVだし…何だろうな?」
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~ライタル帝国軍・第二十三遠征師団~
「で、その『応急作戦計画第八号』?なんだ?闇雲に首都へ侵攻しろだぁ?」
「は、はい…」
通信士がとばっちりを受けるが、仕事である以上裸足でこの場から逃げ出すわけにはいかなかった。
「仕方ない、移動準備!」
通信士の腹痛の元凶…ドチューゲン大佐は立ち上がると、師団全体へ命令を下す。
同じころ、侵攻軍はほぼ一斉に首都への移動を開始した。
その動きを、二機のF-35AJが高高度からEOTSを用いて監視していた。
EOTSとは、赤外線とレーザーを使用した目標捕捉・照準装置であり、カヌーの様な形のケースに収納されており、千里眼じみた能力を持っている、これにより、F-35は戦術偵察も可能なほど高い監視能力を持っている。
「敵さん、これまた一斉に動いとるな…」
F-35AJからの映像を見た情報担当幹部が呟く。
「指揮統制能力は確実に残ってるね、コリャ」
情報集約担当幹部は頭を抱えた。
「これ、戦術的には成功してても戦略的には失敗じゃ…」
『衝撃の槌』作戦とは、侵攻軍後方の部隊を消滅させることで、正面戦闘部隊たる侵攻軍主力部隊にお国に帰ってもらうのが最終的な目標であった。要するにできる限り穏便に事を済ませたかったのである。
しかし、こうなってしまった以上、侵攻してくる敵主力部隊を圧倒、撃破しなければこちらが逆に蹂躙されてしまう。
その上航空攻撃の際、敵にはかなり有力と思われる対空兵器や、空間力を利用したSF等で出てくる『バリア』と思しき領域を発生させる技術があることが判明し、攻撃の際被撃墜機が無かったのは奇跡と言っても過言では無かった。
「地上戦か…」
誰かがそう呟き、作戦本部がお通夜状態になる。
こうして、作戦の成功にも拘らず戦略的な敗北を喫した自衛隊であるが、まだこちらは兵站線が無傷なだけあって、事前に建設していた防御陣地は完成までこぎつけていた。
一方、兵站線が消滅したライタル帝国軍の状況は、非戦闘時の軍隊としては凄惨を極めていた。
「馬の腹が減ってるみたいだ、干し草は無いのか?」
「馬車の車軸が折れやがった!予備は無いか?」
「何で航空騎兵が居ないんだ!?」
「腹が減った…昼飯はこれだけか?」
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「あーあ、コリャ酷い」
末端部隊から上がって来た要請書の束を見て、ドチューゲン大佐は空を仰いだ。
「ったく…『撤退』って単語を上は知らないみたいだな…」
「そんな事言ってると、また不敬罪で捕まりますよ」
「ハハハ…それまで生きてるかな…」
取り敢えず、現状師団の備蓄で対処できるものは対処し、残りはほかの師団に融通してもらえないか問い合わせる事にしたが、逆に融通を頼まれてしまった。
で、残ったのが今目の前にある紙の束である。
「こんな有様、ご先祖様が見たら泣くな…」
そう呟くと、再び仕事に戻るが、その仕事は増え続けていった…。
「寝たい…」
その願いは誰の耳にも入らず、そして叶えられる事も無かった。