衝撃の槌 2
~航空自衛隊ロウガー方面航空隊・統合運用本部~
作戦開始から一時間、日付が変わった頃、統合運用本部では作戦を進行させる為の会議が行われていた。
「現時点までに判明している敵部隊の損害状況について説明します」
前方の大型モニターに部隊配置図が表示される。
「現在のキルレシオは、24撃墜、0被撃墜であり、既に作戦空域の航空優勢を確保致しました」
ライタル帝国が誇る空中騎兵も、F-15J改の暴力的なまでの制空能力に歯が立たず、警戒隊や、それが全滅した為に上げた制空隊までもが全て叩き落されていた。
「尚、攻撃隊の後方進出は完了し、現在目標に向け低空巡航中です」
数えきれない程の緑三角が、赤い四角形に向かって接近する様子がモニターに表示される。
「状況は把握した。これより、作戦を第二段階へ移行する」
「了解」
****
~AWACS・スカイヘッド~
「『スカイヘッド』より作戦中の全ストライクグループへ、攻撃を開始せよ」
航空自衛隊史上初めての本格的な対地攻撃作戦が今、開始された。
****
「『ピューマリーダー』より全機、我の目標は敵飛行場の滑走路!花形を任せられたんだ、しくじるなよ」
4機のF-15EJが、地表すれすれの高度を高速で飛行し、目標を前方監視装置に捉える。
「『スカイヘッド』より『ピューマリーダー』、現在無人機(UAV)によりレーザ-照射中、派手にやれ」
カラーディスプレーには、かなり離れたところから無人機がレーザーを照射している事を表す青線が目標に突き刺さっていた。
見ると、他の隊は既に対地攻撃を敢行していた。
「『ピューマリーダー』より『スカイヘッド』、了解、誘導感謝する」
****
~ライタル帝国・極東兵站支援集団・第18物資集積所~
ライタル帝国の魔法戦術は、魔法性質石と魔帯鉱物が無くては話にならないのは先に述べた通りである、その為、ライタル帝国の兵站は極限まで効率化が図られており、大規模な作戦時には、この様な物資集積所を設置して物流を効率化するのが通例となっていた。
この方式の欠点として、物資集積所を破壊された場合兵站が一気に死んでしまう事が挙げられるがこれまでは優秀な航空兵力に裏打ちされた確かな航空優勢により、物資集積所が破壊されたことは一度も無かった。
しかし、今晩はそんな安全地帯も蜂の巣をつついたかのような騒ぎとなっていた。
「何!?防空隊が全滅!?」
「どうなってやがる!?前線と連絡が取れないぞ!」
「防空網もズタボロだ…」
因みにライタル帝国の防空兵器として、魔術滑空式二連装バリスタ砲(対竜誘導弾頭)が存在する。そもそも魔術滑空式二連装バリスタ砲とは何のかを簡単に説明すると、『魔法特性が付けれる太くて重い矢を魔法で遠くまで飛ばすヤツ』である。
本来なら中隊規模で運用する兵器なのだが、超高級、かつ希少な竜誘導弾頭を用いることによって、ワイバーン等の大型魔獣に対し強力な効果を発揮する対空兵器になっていた。
それを何重にも複雑な陣地の構築に用いて防空網を構成するのだが、その防空網も壊滅とまでは行かなくとも、ズタボロだった。
そして、その防空網を潜り抜けてきたF-35AJが4機編隊でこの基地へと接近していた。
「!?居たぞ!四匹!」
対空警戒を担当していた魔導士が警報を発令する。途端、魔導兵たちがありったけの魔法性質石と魔帯鉱物を使用して敵を撃墜せんと、自らの触媒(杖)に魔力を移動させ、光線を空へと打ち出した。
更に、二連装バリスタ砲が夜空へ向けられ、残弾を気にせずに対竜誘導弾を撃ち出し、余剰魔力が光の帯となって空を走った。
その光景は実に美しく、まるで神が降臨したかのような光が周辺を満たすが、F-35AJは想定済みの事態に対して冷静に行動した。
「『ライトニングリーダー』より『スカイヘッド』、敵の対空砲火熾烈を極める…突入を敢行してよいか?」
「『スカイヘッド』より『ライトニング』、敵対空砲火に十分注意しつつ、目標に対する攻撃を続行せよ、以上」
「了解、『ライトニングリーダ』、投下!」
防空隊の抵抗虚しく、低空から侵入したF-35AJより燃料気化爆弾が投下され、火球が生まれる。
「ぎゃ」
一瞬で酸素が失われ、ありとあらゆるものが強力な圧力によって押しつぶされる。誰かが咄嗟に展開した魔力障壁も一瞬で潰れ、後に残ったのはぐちゃぐちゃになり、食料か人か建材か魔帯鉱石か土かの見分けがつかなくなった混合物と熱だけであった。
「『ライトニング』任務完了、帰投(RTB)」
****
~アウガー飛行場・滑走路~
「『ピューマリーダー』、投下!」
今度はクラスター弾が地面へと降り注ぐ。
「なんだ!?」
見慣れない物が空中で弾け、中から小さな実が出てきたことに、初めは対空砲火が効いたのかと喜んだ帝国将兵だったが、直後にその期待は裏切られた。
片端から自爆し始めたのである。
「障壁を張」
咄嗟に魔法障壁を張って自身への被害を防ごうとするが、個人が展開するレベルの障壁では大量の破片と爆風にもみくちゃにされ、どれも1秒以上は耐えることが出来なかった。
「『ピューマ』任務完了、帰投(RTB)」
後に残ったのは、滑走路…では無く種まき前の小麦畑の様な広大な土地であった。
更に、その他施設も破壊せんと合計16機…四個編隊がこの基地をその後爆撃した。
****
~ライタル帝国・侵攻軍・統合作戦司令本部~
「現在判明しているだけでも、物資集積所が全て壊滅、防空網に穴が開き、航空兵力も損耗が酷く、戦力として成り立っておりません」
「クソ!前線部隊は無傷だというののに…姑息な手を使いおって!」
机を力強く叩く若い男…エリヌス・フォチュール・ライタルは、ライタル帝国の皇位継承順位第13位の人間であり、数々の国を帝国の支配領域に収めた実績を持つ腕利きの戦略家である。彼は、後方支援部隊の壊滅という状況に頭を抱えていた。
「こうなれば…突撃してさっさと攻め落とすしか無いではないか…」
「…応急作戦計画第8号を実行しますか?」
『応急作戦計画第八号』とは、航空兵力、及び後方部隊が壊滅した際、敵国の首都まで無停止進撃を実行するという、極めて危険な作戦であったが、それをせざるを得ない状況に追い込まれつつあった。
「否、まだ飛行場は無傷…」
そんな司令本部に、伝令が第一報を持ち込んでくる。
「報告!アウガー飛行場、連絡途絶!」
「「あ…」」
凍り付く司令室を後に、通信室からの伝令が次々と情報を持ち込む。
「防空網、区画1~15、沈黙しました」
余った爆弾を投棄したとばっちりを、辛うじて生き残っていた防空網が受ける。
「し、しかしまだ兵站線は全滅していない!」
一縷の望みを細い兵站線に望みをかけるライタル帝国軍統合作戦司令本部の面々だった。
****
~航空自衛隊ロウガー方面航空隊・統合運用本部~
「現在、敵部隊の物資集積所、及び飛行場を完全に破壊し、セクターBの防空網についてもこれを破壊しました」
「攻撃隊の状況は?」
「現在、全機が健在し、当基地へ補給のため帰還中です」
「了解、取り敢えずは成功したな…」
こちらはライタル帝国とは対照的に、安堵感が広がっていた。
「まだ作戦は終了していない、各員、最後まで気を抜くな」
「了解」
作戦最終段階へ向けての準備が、着々と進められていた。