衝撃の槌
~航空自衛隊・ロウガー航空基地~
航空攻撃を控え、格納庫待機中のF-15EJやF-35AJ、F-2、そして制空支援のF-15J改には、夜中にも関わらず人が群がっていた。
「エンジンよし、ギアよし、キャノピーよし、ハードポイントよし…」
点検項目を全てクリアし、大空へ飛び立つ準備ができた機体に、JDAMやAAM-4等の物騒なものが台車によってガラガラと運ばれ、ハードポイントに素早く取り付けられる。
しかし、それらの武装は未だ使用できないように安全ピンが取り付けられ、その凶暴性を未だ発揮しては居なかった。
「全項目点検、及び武装よし…」
あとは命令を待つだけとなった機体を尻目に、隣の建物では 幕僚の林一等空佐の説明の下、ブリーティングが行われていた。
「今回の作戦『衝撃の槌』作戦は、武装勢力兵站/連絡線及び、飛行場に対する攻撃を主目的とする、航空阻止作戦である」
航空阻止作戦とは、味方地上部隊が侵攻できない場所において、敵の兵站や連絡システム、敵戦力に対し攻撃を実施する作戦の事であり、これが戦場の上空まで範囲が広がると『戦場上空措置』となる。
「現在A、DFのセクターについては、ムサシ陸軍特殊作戦実行隊の手によって敵防空網の無力化に成功している。
よって、作戦第一段階においては、A、D、F、の各セクターを低空で飛行、敵防空網の背面に進出し、敵航空部隊を排除、航空優勢を確保せよ」
前面の大型モニターに情報が映し出される。
「作戦第二段階では、航空優勢の確保後、敵物資集積所、及び敵飛行場に対する航空攻撃を実施、実施後速やかに空域を離脱せよ。
作戦第三段階では、当基地で補給後、敵兵站/連絡線、及び防空網に対する航空攻撃を実施する。以上が本作戦の概要である。
では、各員の幸運を祈る」
ブリーティングが終了し、パイロットたちは飛行服を身に着ける為に各飛行隊の待機室へと移動した。
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~統合運用本部~
「本省より連絡、航空攻撃の開始許可下りました!」
オペレーターが叫ぶと、担当士官が一斉に動き出す。
「とうとう始まったか…」
戦後初めて、自衛隊が外国での本格的な航空作戦を実施する準備が完全に整った。
~ロウガー航空基地・格納庫~
「安全ピン解除!」
「安全ピン解除よし!」
ハードポイントに吊り下がる武装から赤いリボンが付いた安全ピンが外される。
そこへパイロットたちが乗り組み、出撃に向けて最後の準備が行われる。
「エンジン起動始め!」
徐々に甲高くなるエンジン音があちこちで響き渡る。
「エルロンよし、エレベーターよし、ラダーよし!」
パイロットはコックピットに入りエンジンを起動させると、補助翼と昇降舵、方向舵に異常が無いか確認してもらう。
「では、幸運を」
整備員がキャノピーを閉鎖し、敬礼すると、戦闘機は完全に飛べる状態になった。
「『ロウガーコントロール』より『ピューマ01』、離陸を許可する、第二滑走路へ進入せよ」
前進指示、停止指示、左折指示、前進指示、待機指示、前進指示、右折指示、敬礼。
航空機誘導員の誘導通りに滑走路へ機体が移動し、滑走を開始する。
「『編隊長』、離陸する」
広大な滑走路を目いっぱい使って離陸した身重のF-15EJやF-35AJ、F-2達を眼下に捉える巨大な機影…今回の作戦の指揮を実施するAWACS『スカイヘッド』が今回の作戦の指揮を執る。
ボーイング767を改造してAWACSにしたE-767は、高い早期警戒能力と指揮統制能力を持つ、『空飛ぶ指令室』である。その背中には、巨大なレドームが据え付けられており、同時に800を超える目標を捕捉/追跡可能な性能を改装によって獲得していた。
「『スカイヘッド』より全ストライクグループへ、作戦空域に侵入する際、高度2000を保ち進入せよ」
「『ピューマリーダー』了解」
尚このTACネーム『ピューマ』編隊は4機のF-15Eを駆り、敵飛行場を爆撃する任務を与えられていた。編隊長の沢木一等空尉は、前方監視装置とデータリンクによって表示される目標の位置や味方の位置を交互に見ていた。
「始まったな…」
前方では既に、敵防空網背面に進出したF-15J改による制空戦闘が始まっていた。
「『スカイヘッド』より『キドラ』高度制限を解除する」
「『キドラリーダー』了解」
高度制限を解除され、鷹が空高く舞う。
「『スカイヘッド』より『キドラ』、貴機を基点として、方位0-1-5、距離1-6-0、高度4000に敵機を確認した、方位0-3-1、高度12000へ移動せよ」
「『キドラリーダー』了解」
AWACSの誘導の下、F-15J改が誘導され、吊り下げたAAM-4を使用せんとレーダーが敵を捕捉した。
「用意…今」
AWACSからの指示の下、AAM-4を発射する。
「『キドラリーダ』FOX1!」
~ライタル帝国・第882空中騎兵中隊~
開戦からというもの、兵站線や防空網をゲリラ攻撃によってボロボロにされた侵攻軍は、その穴を得意の空中戦力で埋める事にした。
彼等はそんな理由で駆り出された部隊であったが、はっきり言って緩み切っていた。
「どうせ敵はここまで来ない…」その安心感からである。
「あ~あ、なんでこんな夜中に哨戒なんてやんなきゃいけないんですか…」
「黙って仕事しろヒューベ、給料もらってんだぞ!」
部下を叱責しつつも、肝心の中隊長…フチュル大尉も今まで圧倒的に優勢だった経験から空に対する警戒を怠っていた。
その為かどうかは分からないが、飛来する飛行物体の発見が少しばかり遅れてしまった。
「なんだアレは!?」
フチュル大尉は、自分達へと高速で向かってくる槍を視認すると、回避を指示した。
「散開!散開!」
何が起こったのかわからない者も中には居たが、訓練の通りに愛騎を散開させた。
「早い!」
AAM-4は、マッハ4以上のスピードで100kmを飛行し、内蔵するレーダーによって目標の回避行動を捕捉していた。捕捉、追跡、突入、自爆…定められたプログラムを忠実に実行し、夜空に紅蓮の花が幾つも咲かせる。同時に、調整破片化された弾頭が弾け、ワイバーン達に襲い掛かる。
しばらくして、空から原型を留めないワイバーンが地面へと降り注いだ。
「4キル」
AWACSが目標の撃墜を司令部へ報告した頃、ライタル帝国の防空司令部は大騒ぎになっていた。
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「警戒隊、消滅しました!」
信じられない報告に、司令部要員は驚愕する。
「何だと!?魔探機の故障か!?」
「不明です…あっ、制空隊が!」
どんどん友軍が叩き落される現状が理解できず、原因の特定に至らない。
「まさか…敵襲!?」
「馬鹿な…防空網を抜ける訳ないだろう!」
「しかし、ムサシ王国によって幾つかに穴が…」
「何だと!?何故報告しない!?」
「現状を纏めてから報告しようと…」
「もう遅い!直ちに増援の騎兵を上げろ!」
『衝撃の槌』作戦第一段階…航空優勢の確保は達成し、次々と対地攻撃任務を帯びた編隊が防空網の裏側に侵入し、それぞれの攻撃目標を破壊せんと迫っていた。