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ライタル帝国

~ライタル帝国・皇城・執政室~


 魔法技術の最高峰と呼ばれる国、ライタル帝国、その国の中枢がここ、皇城執政室である。


「皇帝陛下、アイガー地方の獣人どもは全て奴隷化致しました」


「うむ、良いことだ」


 尚この国は極端なまでの獣人差別社会である。元々奴隷だった彼らを自分達と同じ人間として見れない。そんな国民性で在る為、ムサシ王国の様な獣人と共存している国に嫌悪感を示していた。因みにアイガー地方とは元アイガー王国だったところであったが、一年前から浄化政策を推し進めていた。


「それで、ムサシ王国の方はどうだ?いつも通りやれそうか?」


「はい、既に三十万の兵士が命令を待っております」


「フフフ……良いことだ」


 ライタル帝国が最強と呼ばれる所以は、魔導師の運用方法にあった。 魔法は自然界に存在し、それを取り込む事で魔法が使用可能なのであるが、魔法の使用にはその取り込む器官が必要である。人間は誰しもその器官を持っているものの、器官が耐えうる魔法しか使用できず、戦闘に使用できる様な大型の魔法を扱えるにはやはり適性がネックであった。

 しかし帝国は、器官の役割を魔法性質石と魔帯鉱物に肩代わりさせ、一般兵にも魔法を使えるようにした。そしてそれを集中運用したのが「戦列魔導兵」である。自然から得られる魔力だけでは賄えないため、それを魔帯鉱物で無理矢理カバー、足りない練度も数でカバー、敵が多けりゃ魔法でカバー、矢が雨の如く降って来ても魔法でカバー……と、この世界最強の戦術である。

 尚魔法性質石とは、魔法の属性を決定させる結晶であり、魔帯鉱物とはその名の通り魔法を帯びた鉱物の事である。


 因みにこれに対抗するには魔法障壁を貫通できるだけのエネルギーが必要であるが、それをやろうとするとやはり多くの魔導士が必要になる。

 そしてそれだけの魔導士を擁する国はこの大陸には存在しない。

 よって帝国は百戦百勝だったのである。


「それと…お耳に入れたいことがあと一つ…」


「なんだ?」


「奴ら、同盟国を手に入れた様です…」


 皇帝は目を見開いた。


「なんだと!?外務省は何をやっておる!?」


 今まで非服従国に同盟国を作らせないように全力を挙げてきたライラル帝国外務省にとって、かなり衝撃的な報告であったソレは、情報伝達網を通じて皇帝の耳に入り、皇帝も外務省と同じく衝撃を受けていた。


「で、何国だ?」


「それが……」


 執政長が言葉を濁す。


「なんだ?」


「ニホン国という国らしいののですが、どの記録を探しても見つからず、又我が国との国交も無い為、対応に苦慮しております……」


「フン、どうせ奴らの嘘だろう」


「だと良いのですが……」


 胸騒ぎを抑えつつ、執政長は退出した。


「さて……ムサシ王国……お前をどう調理してやろうか……」


 皇帝は独り言を呟くと、葡萄酒を煽り昼寝を始めた……。







****






~ライタル帝国・アイガー地方・ムサシ王国ーライタル帝国国境付近~


 ムサシ王国とライタル帝国の国境では、二十万を超える「ホワイトローブ」と呼ばれる戦列魔導兵たちがいた。

 ライタル帝国の戦列魔導兵は、皆この白いローブを着用する。

 目的は敵の光線を弾く為や、その為に保護面積が広いローブを採用した等の目的もあるが、一番の目的は示威効果を狙ったものだった。



「いつ戦争始まるんですかねぇ……?」


 新参兵が古参兵に尋ねた。


「さぁ?皇帝陛下の御心のままだろ」


「ですよねぇ……」


 特に非が無い相手を蹂躙するのに慣れ切ったライタル帝国陸軍は、皇帝の猟犬として獲物に襲い掛かるのを待つかの如く今か今かと待っていた。


「ま、負けることは無いだろ……」


 青く澄んだ上空を見ると、ワイバーンが二騎飛んでいた。







****







 ライタル帝国が強いもう一つの理由は、このワイバーンの活用にあった。

 それまで低速で偵察程度にしか利用されていなかったワイバーンを品種改良し、高速化、意思疎通器官の標準装備、体力増強、大型化、知能の増強等々の改良を実現し、地上部隊の進撃を援護する近接航空支援や制空戦闘、果ては敵都市に対する空襲もこなせる様にしたのである。


「今日もいい天気ですねぇ、隊長」


「ああ、気持ち悪くなるほどいい天気だ」


 二騎編隊で上空を旋回する彼ら空中騎兵は、子供のころから育てたワイバーンと共に任務に就く。

 その多くは貴族の出身であり、厳しい訓練を経て晴れて空中騎兵になるのである。平民にとってはまさしく『手の届かない』職業でもあった。


「陸は元気にやってるのかねぇ?」


「やってるんじゃないですか?」


 気が付くと、愛騎の羽ばたきが弱くなっている気がする。

 翻訳魔法を使って話しかける。





「おい、どうした?」


「疲れたよ……主人さんよ……」


 独特の声でワイバーンが応答した。


「あともう一旋回したら交代だ、頑張れ!」


「はいはい」


 愛騎との会話を終了させると、僚騎に話しかける。


「もう一旋回したら下がろう」


「了解です」


 交代の空中騎兵が見えた為、空中旋回待機態勢を解いて航空基地へと帰路へ就く。


 因みにワイバーンを品種改良した代償として、離陸に助走が必要になった事が挙げられる。


 その為このワイバーンを運用できるのは限られた国だけとなっていた。


「『ゴーフィー01』より管制、着陸許可を求む」


「管制より『ゴーフィー』、着陸を許可する。信号は受信できたか?」


 滑走路の端に設置された魔法性質石から魔法信号が送信され、ワイバーンが本能的に着陸態勢に入る。


「着陸許可を確認……着陸します!」


 着陸して自分の愛騎の世話をして竜舎へ連れてゆき、自分たちはローブを脱ぎ捨てて休憩室へと駆け込む。


「あ~疲れた……」


 置いてある牛乳をキンキンに冷やしてがぶ飲みするのが彼らの伝統である。


 そしてその後、戦友たちと他愛もない話をしたり、愛騎の寝言を聞きに行ったりして、就寝時刻になったら帝国の勝利を信じて床に入る……。


 それが彼らの生活であった。


「そういえばムサシ王国、同盟国が出来たって通達回ってきましたけど、どうなんですかねぇ?」


  冷たい牛乳を飲みながら下士官が上官に話しかける。


「ああ?どうせ情報局の早とちりだろ?」


 片手に牛乳を持ちつつもう片方の手にある書類から目を離さずに上官が答えた。


「でも魔法を一切使わずに道路作るとか回ってきましたけど……」


「感応石が壊れたんだろ」


 このときの下士官の嫌な予感は当たる事になるのだが、それはもう少し先の話である……。

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