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新説 国譲り

作者: なかむむむ

古事記日本書紀に記されている国譲りのオマージュです。

八百万の神々が会社組織を編成してると仮定して、国譲りをする側のクニヌシ視点で書いてみました。

TOBE「神」落選作です。


自分で読み返しても、あまり面白くないです。。。

お目汚しすいません。

 八百万の神々を束ねる、神式会社出雲支部。業務内容は葦原中国各地の神社へ捧げられた〝願い“を集め、吟味し、神を派遣してそれを叶えること。

 神長であるクニヌシが鎮座する神座には、人間達の〝願い“が決裁文書となり、次々と集まってくる。〝願い“を神が叶えるか否か――。その判断をここで行い、指示を出すのだ。

「まったく、この仕事はしんどいな」

 決裁文書の山を眺めながら、クニヌシは吐き出した。

 神長と言えば聞こえがいいが、ただの中間管理職。本社のある高天原からは毎日のように視察団がやってきて、接待を要求してくる。そして部下たちからは、頼りないだの神使いが荒いだのと陰口を叩かれる日々。

 さらに人間界では空前のスピリチュアルブームが起こり、神社に捧げられる〝願い”も爆発的に増えていた。クニヌシの負担へのは増すばかりだった。


 ある日、いつものように決裁文書に目を通していると、息子であり秘書でもあるコトシロヌシから、緊急の式神が寄越された。

 嫌な予感がしたが、無視をするわけにはいかない。クニヌシは式神の言伝を聞いた。

「父上、ストです」

 ――ああ、やっぱり……。

 もはや何度目かも分からないストライキ。発起神は決まって奴ら――実行部隊だ。

 神長も神だが、部下も神。なぜ神が他の神の指示のもとに労働しなければならないのか……。それが奴らの言い分だ。

 確かに神が神の下で使役されるというのは、おかしなことなのかも知れない。だが八百万も神が居て、みな好き勝手に行動すれば、国中が混乱してしまうのは目に見えている。

 ――そのために私が嫌われ役を買って出ているんじゃないか。くそ、あいつらめ……。

「分かった。いつものように頼む」

 怒りに震えながらも冷静に指示を出し、式神をコトシロヌシへと返した。

 かつて苦労の末に国造りを完成させ、出雲支部を立ち上げた。遠縁ではあるが、太陽神アマテラスと親戚関係にあるという自負から、自分が葦原中国のトップに立って組織をまとめようと奔走してきた。

 だがもう、限界だった。

 ――こうなったら俺もストライキだ。

 クニヌシは最低限の荷物と共に、神長室を去った。そしてアマテラスが隠れたとされる岩屋へ向かい、引きこもった。


 季節が一巡した。

 念のため神座に自分の居場所をまじないで忍ばせておいたのに、クニヌシのことを迎えに来る神は、誰一柱として居なかった。

 ――きっと俺が居ないことで、葦原中国は大混乱のはずだ。それで俺を迎えに来ることができないに違いない。これで奴らも俺の存在の大切さに気付いただろう。

 クニヌシは様子を見に岩屋から出た。

 するとかつて出雲支部のあった場所には豪華な社が建っており、タケミカヅチとかいう本社から派遣された神が待機していた。彼に促されてこの社へ鎮座してみると、まるで自分の為に作られたかのような心地よさであった。

 彼曰く、出雲支部は事業仕分けによって不要であると判断され、解散の運びとなったという。かつての部下だった他の神々も、別の場所に依代を求め、全国の社に鎮座している。現在は各々の裁量で〝願い“を叶えたり叶えなかったりしているが、それによる混乱は特に見受けられないらしい。

 むしろ子宝や縁結びに商売繁盛と、神々の能力により社に特色が出たことで、以前よりも人間達の信仰を集めていると。

「そもそもあの事業は真面目にやろうがやるまいが、人間達にとってはどうでもいいことだったのです。彼らは『願い事が叶いますように』とは言うが、『叶えてくれ』とは言わない。ほとんどの人間達にとって、神社はただの宣誓の場だったのです」

「じゃあ今までの苦労は……」

 タケミカヅチの言葉に、クニヌシは肩を落とした。そして「お気の毒です」とだけ言い残し、彼は本社のある高天原へ帰って行った。


 しかしあまりにもクニヌシが気の毒だということで、年にひと月、神々が出雲に集まって会議という名のOBOG会を開くこととなった。神無月(神在月)の始まりである。

 初めはいじけていたクニヌシだったが、この月だけは嬉しそうに、神長風を吹かしているとかいないとか……。


 ―国譲り、これにて完。―

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