スーパーマーケット
最近、職場の近くに新しいスーパーマーケットが出来た。
小さな町に四つ目のスーパーマーケット。それは一つの檻の中、ライオンとトラとオオカミと……とにかく沢山の猛獣が一緒に入れられている状況に近い。
特に今回は場所が場所で、新しくできるハイエナマーケットはライオンマーケットの目と鼻の先だった。歩いて数分、信号機を二つ越えたらもう隣のお店に辿り着いてしまうのだ。
さて、ハイエナマーケットと仮称したことからも想像できるように、私はこの新しいお店のことがあまり好きではない。とはいえ、最初は好意的な目で見ていた。ハイエナマーケットは私が出勤に使っている国道の途中、国道と言ってもすぐ隣にもっと広い道が通っているから地域の住民には裏道として知られている道の脇にあった。
夜遅くもやっているお店で食料品の他に本屋なんかも入っている。隣のライオンマーケットには生肉や野菜も置いていなかったがハイエナの方にはあると聞く。だから少しだけ開店を楽しみにしていたのだ。
殺風景な広い田園に次々と工事車両が入り込み、次第に建物とコンクリートの地面が出来上がっていった。通勤時に横目で見ながら渋滞になるなと溜息を吐く。嫌だなと思ったが、それでも内心では期待していた。
最近の工事というのは早い物で、ハイエナマーケットは瞬く間にその姿を現した。私が忙しい日々に追われているうちに、向こうは向こうで頑張っていたのだろう。気付けば新しいピカピカの外装が出来上がっていた。少し狭いけれど綺麗な駐車場に、商品を乗せたトラックが集まり出して、開店の日には空にバルーンが浮かんだ。
私が予想した通り、開店からの数日は結構な渋滞になっていた。元々が狭い道だ。通勤に使っていた私は顔を顰めたが、いつか自分もと思いながら横を通っていった。どうせこうなると分かっていたから気楽なものだ。開店セールなんて物に興味はなかったから、時間が経って人が減ってきた頃に足を運んでやろうと目論んでいた。
平日なのに駐車場の誘導員は忙しそう。過ごしやすい季節だからまだいいが、冬場に開店していたら大変だったろう。まるで、他人の家の庭を眺めるように私の運転する車はゆっくりと交差点を曲がっていった。
職場へと向かいながら、ふとライオンマーケットのことが気になった。ハイエナが開店セールをやっているからお客を取られて困っているだろう。そう思って、帰りに少し寄ってみることにしたのだ。
いつもは曲がる交差点で、曲がらずに真っすぐ行けばライオンマーケット。それ程距離が変わる訳でもないので、食料品を買いたい時はいつもこちらの道を通っていた。
さて、どうなっているだろう。売り物は限られているが何といっても安さが自慢の店だ。例え、客が減っていても高が知れていると思っていた。けれど、私が目にしたのは衝撃的な光景だった。
いつもは車で一杯の駐車場が、今やぽつぽつとしか埋まっていない。向こうは開店したばかりだから仕方がないだろう。そう考えようとした私だったけれど、目の前の寂しい光景にはやっぱり胸が痛くなる。
ライオンマーケットに閑古鳥が鳴いていた。沈んでいく夕日に佇む姿は、まるで巨大な廃墟のよう。私は車のドアを開け中へと入った。人の少ない店内を足早に歩き、売れ残りの商品たちを物色する。
店内に流れる軽快な音楽が嘘のように響く。並ぶ必要のないレジに、覇気を失った店員の顔。それを見て私は愕然としてしまった。まるでそれは有名なピカソの絵のよう。ぐにゃりとしていてこの世の物とは思えなかった。
数か月後、私の町からスーパーマーケットが一つ消えた。
トラマーケットは最悪だ。とにかく高いし特色が何もない。あんなのをスーパーだと言ったら他の三つに失礼だろう。潰れるのも致し方なし。跡地は遊園地にでもなってしまえ。ひゃっほうヽ( ゜∀゜)ノ