「ミカエルの願い」
第4話「ミカエルの願い」
ルシフェルが倒れてから数時間は経とうとしていると言うのに、兄が目覚めない事にミカエルは心配でならなかった。天使長が倒れたという事で周りにいた天使達は大いに騒ぎ始めた。
「皆の者、静まれ。騒がず、ルシフェル様をお通しする道を作るのだ」
突然1柱の天使の声が辺りを静まり返させた。ミカエルは声のする方を見ると、そこにはオレンジ色の髪を獅子の如く伸ばした天使と薄緑色のおかっぱの天使が立っていた。彼は直ぐにそれが自分達兄弟の学問の師であり我々天使の傷や病を治すラファエル、そして兄の業務において右腕を務めるパイモンである事が分かった。ラファエルの登場でその場にいた一同は静まり返り、直様彼の言う通りに行動をした。
あっという間の出来事であった為、ミカエルはあっけに取られていた。それと同時に自分の慌てふためきの様を思い出し、頭を下げてしまった。自分は天使長である兄が急用の時、彼の代わりをしなければいけない存在である筈なのに、咄嗟の行動も出来ないで取り乱していた。そんな自分がとても嫌だったのだ。
すると「ミカエル」と自分を呼ぶ声に我に返り、声の主の方を見た。
「…ラファエル…俺…」
「…早く落としてきた剣を鞘にしまってガブリエルと共に来い。…ルシフェルが心配なのは分かるが取り乱しては何にもならない…自分が出来ることをする…そうだろ?」
ラファエルの言葉にミカエルはハッと顔を上げた。ラファエルの言う言葉は正当だ。今自分がこんな事をしていては何もならない…倒れた兄の為にも、自分はやる事があるじゃないか。ミカエルは直ぐに何時もの表情に戻った。
「分かってる…けどありがとうな、ラファエル」
「礼などは要らない。ほら早くしろ」
相変わらずの態度だったがミカエルはそんなラファエルの事については何も言わなかった。 一旦兄の元を離れ、彼は落とした剣を取り、鞘にしまった。そして心配した顔で見守るガブリエルと共にルシフェルを抱えたラファエルとパイモンの後を追った。
そして未だ目を覚まさぬルシフェルの横で、ただひたすらミカエルは待っていた。ラファエルが長を務める広い医務室には2人しかおらず、静寂が続いている。ミカエルは深く息を吸い、顔が瓜二つの兄の顔を見た。自分よりも長髪で、まつ毛の長い双子の兄…ミカエルは生まれた時から一緒にいるが、兄よりも美しい天使を見たことは無かった。なびく金髪も全てを見透かす青き瞳も自分と同じではないと思っている。
「…早く起きないかな…ルシフェル兄さん」
そう呟いてミカエルは壁に身体を預け、目を閉じた。
兄が早く目を覚まし、自分の名を呼んでくれる事を祈りながら…。