「悪夢の声」
第2話「悪夢の声」
天界…ルシフェルを始めとする「天使」達と彼らの長【主】の住む輝きを放つ世界である。島の上には白を強調とした建物が立ち、ステンドグラスが虹色に輝き、建物を益々美しくしている。そして周りには美しい花々が咲き乱れており、正に…『楽園』そのものである。
その中に一際大きな建物がある。天使長ルシフェルや上位の天使達が集まり会議を開く場所だ。その場所の近くには広場があり、天使達が話したり訓練をしたりする憩いの場になっている。その場に2人の天使がいた。1人は金色の翼を持ち剣を振っているミカエルだ。ミカエルは横を向いて自分の側にいる天使を見た。
「なぁガブリエル。兄さんまだかなぁ?」
するとガブリエルと呼ばれた女性の天使は微笑んだ。
「大丈夫ですよミカエル。そろそろ来るわ。あの方は約束を破らない方だって事は貴方が1番知ってるでしょ?」
茶色のウェーブした髪が風を受け流れた。ガブリエルはその髪を横に撫でながら微笑んだ。見た目からしてミカエルは年上でしっかりとした印象も思える。それに対しミカエルは鼻を鳴らした。
「えへへ…そうだけどウズウズしちゃってー…」
「待たせたな、ミカエル」
その声を聞き、ミカエルはとっさに声のする方を向いた。彼の向く方向からルシフェルが黄金の翼を見せながら歩いて来ていた。その姿を見てミカエルの目は益々輝いた。ガブリエルの方は表情を変えることはなく静かに微笑み、一礼をした。
「久し振りでございます、ルシフェル様。業務の方お疲れ様です」
「ガブリエル…君の方こそ天界の神託の方を何時もありがとう。感謝しているよ」
「そんな事はありませんよ…」と言いながらもガブリエルの顔は何処か嬉しそうだった。そんな2人を他所にミカエルはウズウズしており、ルシフェルに目でせかんでいた。それを察したのか、ルシフェルは苦笑しミカエルの方を見た。
「…ミカエル、じゃあ始めようか?」
それを聞き、ミカエルは笑顔で大きく頷いた。
「はい、兄上!どうぞよろしくお願いします!」
そんな弟を見てルシフェルは軽く頷き、後ろを向いた。
「では、始めるとするか。やり方は何時もと同じで良いな?」
「勿論だよ兄さん!ぼく腕を上げたから、兄さんびっくりすると思うよ!」
「ふっ…言ってくれるな…」
そう言いながらも、正直ルシフェルはミカエル同様、久々の兄弟との訓練に興奮をしていた。確かにミカエルの様に見え見えではなく、心の内で…という事だが。しかし何時も以上に興奮をしているのは明確だ。
2人はガブリエルが側で見守る中、訓練の準備を始めた。一定の距離を取り、そして何方かが合図をして飛び出す…それがこの双子の訓練のやり方だ。天使長とその双子の弟の剣技が見れる…何処からかそんな噂を聞いたのであろうか、多くの天使達が広場に集まってきていた。『双子の天使の剣技は美しく、芸術作品の様である』…天使達の中ではそれが有名どころで、わざわざそれを見に集まる天使達も少なくはないのだ。しかし自分たち天使の長の前であるため、大声を上げるものなど1人もいない。そんな天使達を見てルシフェルは苦笑した。
『やれやれ…私はミカエルとただ訓練を楽しみたいのだがな…まぁ静かに見ているし、文句は言うまい』
腰にぶら下げた剣を握り、ルシフェルは目を閉じ集中をした…これが彼なりの集中力のやり方だ。
ーー呑気に弟と訓練ごっこカ?天使長殿の名を聞いて呆れるナ…?
突然自分に語りかけて声にルシフェルは直ぐに目を開け辺りを見回した。ルシフェルの行為に周囲は驚きを隠せなかった。ミカエルもそうだった。
「…兄さん?どうしたの?」
「いや…さっき私を呼ぶ『声』が聞こえて…」
「『声』?一体どういう事…?」
「いや…その…っぅ!」
次の瞬間ルシフェルの手から剣が抜け落ち、彼は跪いた。
「……兄さん⁉︎」
大勢の天使たちがざわつき始めた。様子を見ていたガブリエルも直ぐ様ルシフェルの方へ向かった。
「兄さん大丈夫⁉︎一体どうしちゃったの⁉︎」
「ルシフェル様…!」
ミカエルやガブリエルが呼びかけてもルシフェルは反応しない。ただ身体が震えているばかりだ。
ーー貴様には、こんな生ぬルい場所は似合わなイ…私がお前の行クべきところへ案内してやろウ…!ーー
「一体なんなんだ…この『声』は⁉︎お前は一体何者なんだ…⁉︎」
耳を塞いでもルシフェルの耳にその『声』は話し続ける。
ーーさア、貴様ヲ貴様の行くべき場所へ連れて行ってやル…!!ーー
その『声』が終わると同時に、ルシフェルは倒れてしまった…。
暗く、蝋燭の炎が1本だけ灯る部屋。そこで二つの『声』が話していた。
「…奴が倒れたか…」
「はい☆きっと『アレ』が聞こえたのでしょう♢」
両方とも男の声だが、最初の声は低い声、2番目に聞こえた声は最初の声よりも高い声だった。
「ならば時間の問題だ…奴は時期に大きな戦争を巻き起こす…用意を万全にしておけよ、メフィスト」
「はい…兄上♡」
蝋燭の炎は消され、部屋は本当の暗闇となった……。