おぼろ(私が見た夢1)
こんな夢を見た。
私は貴族の姫だった。
屋敷は奈良の都にあった。
そこで私は庭師の若者と出逢った。
若者は手に怪我をしていた。
私は若者に声をかけた。
「こっちへ、薬をあげましょう」
若者は戸惑いながらも、御簾の中へ入ってきた。
私は丁寧に傷の手当をした。
若者は恐縮した様子で大人しい。
顔を下に向け、私を見ない。
私はその若者を好ましく思った。
「いつも庭を綺麗にしてくれてありがとう」
私がそう言い笑うと、若者は驚いて顔を上げた。
そうして私の顔を見て頬を赤らめた。
私はとても美しかった。
この都で評判だった。
貴族の若者がたくさん求婚に来る程に。
だから若者も私に恋をした。
私も若者に恋をした。
私達は密かに逢瀬を重ねた。
月の美しい夜。
私達は庭に出て寄り添い、月を眺めた。
やがて父が私達の逢瀬に気づいた。
父は認めようとしなかった。
身分が違う。
貴族の姫と庭師など添い遂げることは出来ない、と。
「こうしよう。
あの若者が百夜、神社に通うことが出来たら認めよう。
誰にも見られずに、百夜。
そこの願掛け神社は夜に札を配るという、変わった神社だ。
その札を姫の部屋の戸へ貼るのだ。
そうすれば、来たことが分かる。
百夜通うことが出来なければ、姫のことはあきらめろ。
良いな?」
父はそう条件を出した。
「わかりました。
百夜、姫の元に通いましょう」
百日会うことは出来ないけれど、二人夫婦になれるなら、と若者はがんばった。
そして、百夜目。
若者は来なかった。
「あの男のことなど忘れてしまえ。
約束の百夜はとうに過ぎた。
きっと怖気づいたのだろう。
お前にはきちんとした相手を探してやる」
父は勝ち誇ったように言い放った。
私は信じることが出来なかった。
来ないはずなどない。
絶対に来るはずだ、と。
だから私は待ち続けた。
そして、月が雲に隠れた夜。
若者は来た。
「姫様、どうかこの戸を開けて下さい」
か細い声が闇夜に響く。
私は急いで戸を開けた。
目の前には若者がいた。
愛しい待ち人が。
「ずっと信じていました。
きっと来てくれると」
私がそう言うと、若者は私を抱きしめた。
懐かしく、愛しいぬくもり。
もう離れたくはなかった。
若者は私を優しく抱き上げ、さらった。
屋敷から遠く離れ、二人になれる場所を探した。
どんなに暗くても、怖くなかった。
若者は廃屋をみつけ、中に入っていった。
月が雲から出てきた時、穴の開いた屋根から光が射し、私は見た。
変わり果てた若者の姿を。
鬼となった若者を。
百夜目の夜、若者は見知らぬ男に殺されたのだ。
父が雇った男に。
父は始めから若者を殺すつもりだったのだ。
若者は死にきれなかった。
悲しみと苦しみと悔しさで鬼となった。
「私が恐ろしいですか?」
若者が私に尋ねた。
「いいえ、恐ろしくなどありません。
あなたは私の愛しい人です」
そう言って私は若者に寄り添った。
二人、離れることがないように。
そうして私も鬼になった。