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無忘探偵の偽物暴ーニセモノアバキー  作者: 厳原玄彦
1話 てんさいスティール
8/32

 結論から言えば、例の作品は世間的には失敗作として、この世から永遠に姿を消した。天心先生が土下座までして頼んできたのだから、どうにも断れなかった。そのかわり条件として、と言っても最終的にはそうなっていたかもしれないが、天心先生は美術界から姿を消すことになった。

 これは世間では色々と考察されているが、明確な答えは出ていないようだ。

 どうやら天心先生は、一度も自分で絵を描いたことがないらしく、全作品がそれぞれ別のゴーストペインターがいたらしい。考えると恐ろしい話だが、そうであれば、〈全創全作〉という異名も、なるべくしてなったとも言えるだろう。


 とりあえず記館さんには予定通り、その記憶は消してもらうことになり、僕には口止め料として五百万ほど頂いてしまった。きっとそれだけではないと思うが、まあ、報いとしてその金をもらえるならば、よしとした。


 西園寺遠志さんに関して言えば、一度だけ連絡をとり、二度と盗作をしないと誓ってもらったので、今回はとりあえず信じておくしかない。

 どうして盗作したのかを聞くと、


「こういう埋もれている素晴らしい作品を、皆に知ってもらいたかったから」


 だそうだ。

 一体どこまで本気なのか。僕と話しているから建前で言ったのか。というのは、もう今となっては分かりようもないが、それなりの理由があったのは間違いないだろう。

 本名が出るというのに評価したのは、本当に素晴らしい作品だと思ったらしく、それでいて、まさかあれからばれるとは思わなかったようだ。

 確かにそれこそが、無忘探偵の恐ろしさとも言える。


 最強の万屋は、別に天心先生だけが依頼人ではないので、全く困っていないらしい。結局、記館さん五百万は彼のものとなったが、彼からしてみてもあれは、はした金もいいところだったのかもしれない。


 あの後、記館さんにより、細かい追加説明がいくつかされた。

 天心先生は、どうも僕の絵の評価をくれている西園寺遠志の名前には、全く気付かなかったらしく、そのせいで、あの部屋に証拠があるなんて思いもしなかったらしい。

 それにしたって少し迂闊すぎる気はするが、まあ、僕は気付かなかったし、記館さんが来ることだって、向こうからしてみれば想定外すぎる想定外だっただろう。

 幸い、最強の万屋がその証拠に気付き、咄嗟の判断で隠蔽工作に出たが、不幸なことに、記館さんはその上をいってしまった。

 記館さんは天心先生に質問をするところから、ゴーストペインターの線を疑っていたらしく、万丈目さんが消した記憶の中に、ゴーストペインターに関することはなかったので、その疑いが残り続けたのも、推理のいいヒントになったらしい。


 ちなみに万丈目さん曰く、消したのは――

 質問内容とその回答。

 部屋の探索とそれに関する記憶。

 と、実に簡易的なものだったようだ。しかし、この二つを瞬時に思いつき、さらに瞬時に行動に移したというあたりが、最強の万屋らしい手際だった。


 まあ、こんな感じで、この一連の問題は解決したわけだけれど、記館さんへの依頼金は、なんと五百二十万円要求されてしまった。どうやらあの出費は、やはり思わぬ出費だったらしく、しかしそれを僕に請求するのは些か間違っているような気もする。

 が、記館さんはその後に、


「では五百二十万円分、あなたの作品を頂きます」


 と言った。

 せこいというかなんというか、少なくとも感謝はした。僕の作品はネット公開を中止し、プロに頼んで紙にしてから、記館さんにプレゼントする手筈になった。

 直接渡すことになり、喫茶店で待ち合わせたのだが、その作品を渡すさいに記館さんは満面の笑みで僕に言った。


「今は何円の価値かは知りませんが、これの値打ちが五百二十万円を超えるまでは、絵のほう、やめないでくださいね」


 色々な趣味をやって、何でもすぐにやめてしまう僕だったけれど、どうやらこの絵を描く趣味は、しばらくやめられそうになかった。

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