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面会。
記館さんは気を利かせて、指差警部と雑談でもしながら待ってくれている。警察からも、特別にということで、この夜遅い時間帯から面会をさせてもらった。
一枚の窓を挟んで。
壊破さんの前には僕がいて、
僕の前には犯人がいた。
「驚いた? 私が犯人で」
犯人は言う。
僕は答えない。
「まさか、あの探偵があそこまで見抜いていたなんて、それこそ私が驚いた。……いやはや、女性というのは、勘が鋭いとは案外、本当のことかもしれないな」
僕は黙る。
「けれど、君に――ねんと君に犯人と宣告されるとは思ってもみなかった。裏切られた気分だったよ」
「壊破さん」僕は答える。「壊破さんはどうして、何のために、犯罪に手を染めたんですか?」
泥棒は笑った。
「動機ってやつかい? ……なら、少し話をしようか」
僕は頷いて、壊破さんを見る。
「私の異名を、知っているかい?」
「〈化物市民〉」
「その通りだ――誰も恨まず、誰にも恨まれず、皆に優しい人間。それが私……〈化物市民〉だ」
そんな人間はいない。
化物だ、そんなものは。
「でも、違う」壊破さんは否定した。「誰も恨まず、誰にも恨まれず――違うんだよ。私はそんな誇り高い人間……否、化物でもない」
「…………」
「私は、誰にも恨まれない兎々多壊破を恨んだ。そして私は、私に恨まれた。私が私を呪って、私は私に呪われて――私は壊れた。否否、壊れたかった」
自分で自分を恨み、恨まれ、恨み返し続ける。
そして壊す。壊して、破いて、破壊して――殺す。
自分を殺す。
自殺。
「誰かに恨まれていない自分を壊そうと思う度に、私は思った。〈誰か私を恨んでくれ〉とな。私は私を恨んだが、それでは満たされなかった。私は私を恨むしかなかったけど、私は人から恨まれたかった」
こんな化物ではなく――と、壊破さんは言った。
「泥棒で、そうなると思ったんですか?」
「……それは違う。少し遠回りになったが、結局のところ、私の動機というのは、そこにあった」
「そこって……」
「私は、彼女に恨まれていたんだ。私が、彼女の娘を殺したから――」
「ど、どういう……何を言ってるんだ?」
殺した?
そんな話は、一度も聞いたことがない。
「言っただろ? 私の指紋は、ある事件に巻き込まれたときに取られたって――その事件で、米野上さんの娘は亡くなったんだ。無論、僕は殺していないし、むしろ被害者だったかもしれない。けれど、米野上さんは私を恨んだ」
あなたがいたからあの子は――
そう、言われたそうだ。
僕は結局、最後までその事件を詳しく聞くことはできなかったけれど、僕が想像できないような、人が想像できないような真実がそこにはあったのだと、思った。
「本当に、くだらないよ……私は壊れていくうちに、無意識化で――いや、私は理解していたのだ。本当は、自分は誰にも恨まれたくないって、そう思っていることに――人を恨もうとしていることにね」
だから泥棒をした。
いや、だから無実の罪を被ろうとした。
壊破さんが無実となれば、当然、米野上さんは壊破さんから恨まれるだろう――壊破さんは恨むだろう。
そのためだけに、指紋をわざと残して。
そのためだけに、自殺未遂をして。
そのためだけに、僕を利用した。
「ねんと君には、本当に申し訳ないことをしたと思っている」
「許しませんよ。僕はあなたを、恨み続けます」
そして続ける。
「いつまでもそうやって恨まれていてください。恨まれて、恨まれ続けてください。そうすれば、生きていける。恨まれてるから、生きていける」
「何処かで聞いた台詞だな……」壊破さんは笑う。
「自殺なんて、するものじゃないですよ」
「……だから、あれは――」
僕は壊破さんの言葉を待たずして、続けた。
「前から死にたいと思っていたなんて、言わないでください。あんなの、卑怯ですよ。恨むに恨めないじゃないですか」
僕は言った。
彼は笑った。
「誰かを恨みたいなら――誰かに恨まれてください。僕にでも、誰にでも」
「ああ。だったら、約束だ。私がいない間、私の部屋を掃除しておいてくれ――とても汚いから、きっと、私を恨めるさ」
彼は笑った。
僕は笑った。




