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無忘探偵の偽物暴ーニセモノアバキー  作者: 厳原玄彦
3話 なりすましモンスター
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 探偵と言えば、犯人を追いつめて、逮捕までの手伝いをするというのが主流だ。無論記館さんにしても、そちらの方が本職ではあるだろうし、彼女の能力をもってすれば、犯人特定に役立つ探偵にはうってつけとも言える。

 記館さんから何度か聞いたのだが、どうやら警察から直々に依頼をされたことはないらしく、どうも警察は警察で、探偵も一般市民なのだから、巻き込むのはかなり遠慮されているらしい――推理小説のようにはいかないようだ。

 だから、依頼人は大概、被害者の家族だったり、あるいは現場を目撃していた通行人だったり、そもそも記館さんが事件に巻き込まれるケースが一番多いらしいが……まあ、そこはさすが探偵と言ったところだろう。

 そして今回の依頼人は、先程のケースでいくと二番目――現場で目撃していた通行人あたりの、僕だ。

 しかしその内容は、犯人逮捕ではなく、犯人解放だ。


「――というわけなんですが、いいですか?」

『ええ、勿論です。それにそれは、犯人解放という依頼でも構いませんが』と、記館さんは考えながら言った。『結局それは、真犯人を逮捕することが、兎々多さんの無実につながります』


 ああ、そうだ。真犯人――つまり壊破さんに罪を擦り付けた犯人さえ逮捕すれば、どうということはないのだ。


「それじゃあ、そういう方向でお願いします」

『ただの泥棒ですが、されど泥棒です。その泥棒の犯行は、やたらと計画的で、手の込んだものですから、少し時間がかかるかもしれません。少々、値の方もはります』

「いくらでも払いますよ。その人の無実を証明できるのならば」

『分かりました。それでは、今日のところはもう遅いので、明日の朝、九時頃にそちらに伺いましょう』


 そういうことで、電話は終わった。今日は遅いと言っていたが、まだ六時だ。まあ調査するという意味であれば、確かに夜にするのは非効率ではある。けれど僕はこれからすることがないので、気分転換がてら外に出掛けることにした。

 二万円程度を財布に入れて(別に買うものがあるわけではないが)、念のため携帯も持って、それから部屋を出ると、目の前に女の子がいた。

 びっくりした……幽霊かと思った。


「やっほー!」

「……なんだ、美笑ちゃんか」

「なんだとはなんだしっ!」


 君は幽霊とはあまりにかけ離れた存在だが、最近は六時でも外は暗いので、充分怖かったぞ。


「それで、こんな夜遅くに何の用?」


 六時とはいえ、女の子を一人で歩かせる時間帯ではないだろう。


「用がないと来ちゃ駄目なの?」めちゃくちゃ上目遣いで、さらに目が潤っている。

 なんだこれ。超可愛い。


「……ハッ! いや、いやいやっ!」


 よし、少し正気を取り戻したぞ。


「どうしたの?」

「どうしたの? は、こっちの台詞だよ。だから、どうして来たんだ?」

「……ねーくんに会いたかったから!」

「そっか」


 うん。お前はそういう子だ。

 こっちとしては、それどころじゃないんだけどな。自殺騒動に巻き込まれ、終わった十もったら次はその自殺未遂した人が無実の罪で捕まっているっていうんだから、笑わせるよな。

 真犯人。

 そう言えば、真犯人か。


「なあ、美笑ちゃん。美笑ちゃんは自分が犯人だと宣告されたとき、どう思った?」


 美笑ちゃんを見ると、もの凄く嫌そうな顏をしている。


「ねーくんって、人の傷口を平気で掘り返すよね。掘り返すならまだしも、さらに深く掘るもんね」と、美笑ちゃんは不満を言ったが、少し悩んでから、答えた。「どうもこうも……そのままかな。あ、ばれた――みたいな?」

「軽いなあ……」


 何の参考にもならないな、これじゃあ。

 まあ、参考にするつもりなど、最初からあるわけではなかったが。


「それがどうかしたの?」

「いや、今、僕の友達が――」


 と、ここで思い直して訂正する。


「隣人が、無実なのに捕まってしまってね。だから、それってどういう心境なのかなあって思ってさ」

「ふうん。どういう心境も何も、その人は無実かもしれないけど、うちは本当に犯人だったからなー」


 と、まるで他人事のように美笑ちゃんは笑って言った。

 まあ、言われてみればそうだ。

 ならば、弩頭くんに訊くべきだったか? いや、あのコンビニで一番疑われた人物と言えば、福友井店長だろうから、訊くなら彼だな。とはいえ、福友井店長にまでこの事情を説明するのは、少し面倒だし、迷惑はあまりかけたくない。

 そもそも、壊破さんの気持ちを理解したところで、どうにかなる問題ではないのだ。


「それじゃあ、上がっていくか?」

「へっ?」と、美笑ちゃんが固まった。「……………………いや」

 そして全身を大げさに使って慌てる。

「いやいやいやいやいやっ! いいよっ! ほんっとーにいいからっ! そ、そそそそそ、それじゃあね! ばははーいっ!」


 そのまま、美笑ちゃんはかつてないほどのスピードでマンションを降りていった。怪我していないことを祈ろう。

 何をそんなに慌てることがあるのか、僕にはさっぱり分からなかったが、まあいい――何の用もないのに家に来られても、困るからな。


「何か出掛ける気なくしたな……」


 そういえばまだ晩飯も食べていなかったし、とりあえずやることをやってから、色々と考えよう。

 記館さんが出る以上、僕に考えることがあるなんて、とても思えないが。

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