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無忘探偵の偽物暴ーニセモノアバキー  作者: 厳原玄彦
3話 なりすましモンスター
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 事情聴取というか、警察から連絡をもらったというべきか、ともかく、僕がその事件について知ったのは、先程のことだ――自殺騒動があり、それから二人で昼ごはんを食べて、そして帰ってきたのは二時ごろ。そこからさらに三時間経過した午後五時に、警察が僕の部屋に入ってきた。

 事件というのならば、無論、壊破さんの自殺未遂も大きな事件なわけで、僕はてっきりその事情について聴かれるのかと思ったが、そうではなく、別の、自殺とはこれっぽっちも関係しない事件のことだった。


 このマンションの近くにあるごく普通の一軒家で、泥棒が侵入して、一万円ほどの金が盗まれたのと(それが多いかどうかは別問題だ)、クローゼットの中身がめちゃくちゃに荒らされていたらしい。

 ここまで聞くと、ただの泥棒で、僕が聴取される理由が一つとしてないように思えた。

 だが、口髭をたくわえた中年の指差ゆびさし警部が言った。


「ばっちり、荒らされた衣類に指紋がありましてね――それが、お隣さんの兎々多壊破さんのものと一致しました」


 それは、あまりにも唐突すぎる宣告だった。


「ちょ、ちょっと待ってください……」


 あの人、指紋提供することがあったのか? 壊破さんなら、まさか軽犯罪すらも犯したことがないように思うが。


「彼にはひとまず、同意のもと、署の方へ同行してもらったのですが、彼いわく、君に聞けば無罪だと証明できるとか……」

「ぼ、僕?」


 どういうことだ――壊破さんに頼られるというのは、とても喜ばしい限りだが、しかしその期待に応えられる気がしないのだ。

 いや、待てよ? 今日……か。


「それって、何時頃起きたんですか?」

「本来ならば、一般市民にこういう事は伝えるべきではないのですが、仕方ありません――その家の住民がいなかったのは、午前十時から一時間だけだそうですから、犯行時刻はそこに限られます」


 やっぱり……なるほど、壊破さんが僕に頼った理由も、頷ける。


「その時間は、壊破さん、僕と話していたんですよ。そう――丁度十時頃から、午後二時くらいまでは、一緒にいました」


 自殺を止めていたとは、言わなかった。警察ならば知っていてもおかしくないが、それは僕の口から言うべきではないだろうと思ったからだ。


「なるほど、アリバイ証明ですか」


 アリバイ――それは容疑者に使う言葉だ。勿論、壊破さんは容疑者なわけだが、僕としてはその言葉は、少し気に入らなかった。だからと言って、どうすることもないが。


「ですが」と、指差警部は反論してきた。「指紋がある以上、いくらアリバイがとれようとも、どうしようもありません」


 あなたも所詮、人間ですから――と、指差警部は言った。

 人の言葉など、信用に足らない――信用すべきは、物的証拠というわけだ。いや、これは警察から見ると、確かに当然だ。壊破さんが頼み込んだ僕という、神梨ねんとという人物が嘘を言っていないという証拠など、あるわけもない。

 言葉に物的証拠なんてあるわけがないのだ。


「それでも、アリバイがあるなら犯行は不可能ですよ」

「だからこれから、兎々多さんの行動を調べるんですよ」

「じゃあ……壊破さんはどうなるんですか?」

「まあ、警察がこんなことを言うのもあれですが、ただの泥棒ですからね……、盗んだのも一万円くらいですから――二十万円前後の罰金、あるいは三、四カ月程度の懲役くらいが妥当でしょう」


 その後は大した話もなく、指差警部は帰っていった。一応新しい証拠や、無実が証明された場合のために連絡先を教えたが、警察から電話なんて、できることならば掛かってきてほしくはないと思うところもあった。

 懲役四カ月。

 それが重いかどうかはよく分からないが、一応そんなに長い間捕まっているというわけではなさそうだった。彼ならば二十万くらいなら払えるだろうし、問題ないだろう。

 いや、問題はある。壊破さんはどうしたって無実なのだ。無実なのに、どうして捕まらなければならない。確かに、僕のアリバイ証明だけでは、壊破さんの無実を主張するのは難しいだろう――その裏付けが必要なのだ。しかし、指差警部としても、僕の言葉を嘘だと断定するわけにもいかないだろうから、裏付けに関しては向こうがやってくれるはずだ。

 僕はひとまず、自分の連絡先に登録されている、彼女に電話を掛けた。

 僕はすっかり常連さんになってしまったな……。

 ともあれ、警察は警察で動いてくれているだろうから――ならば、こちらも邪魔にならない程度に手伝わせてもらおう。

 僕が今すべきことを。


「……ああ、もしもし、記館さん――」

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