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質問は全て、福友井店長も、僕も、そして途中から帰ってきた美笑ちゃん含め、全員の前で行われた。内容も内容で、正直事件とは関係ないものばかり――例えば好きな食べ物、例えば好きな女性のタイプ、例えばバイトに対する思い――で、一体記館さんが何をしたいのか、僕にはさっぱり分からなかった。
弩頭くんも最初はおどおどしていたが、そのうちいつも通りに戻ってしまい、記館さんによる質疑応答は、再び質疑応答ではなくなった。前回が質疑無答であるとすれば、今回は質疑異答と言ったところか。
「さて、終わりましたね」
そしてそのまま、そのふざけたやりとりは終わりを迎えてしまった。
結局、あの気迫はなんだったのだと思わせるほどに、無意味なものに思った。
「ふう、まじ疲れたっす」
「ええ、私もです」
多分、それは全員だろう。
見ているだけで疲れた。
「それで、この事件について少しでも、何か見えてきましたか?」
僕はあまりにも不安だったので、言葉を選んで聞いてみた。
「うーん……正直なところ、この中に犯人がいる可能性も否めないので、あまりそういうことは言えません」
記館さんは頭を深々と下げて、そう言った。
でもそれは、逆に何かを掴んだということだろうか?
でなければ、わざわざ極秘にする必要もない……のか? いや、自分は何も分かっていませんよということを、わざわざ犯人に言ってしまうのこそ、悪手だろう。
そういえばさっき、弩頭くんが起きたおかげで聞きそびれていた質問があった。
……けど、これを美笑ちゃんの前で言ってしまっていいものだろうか。というか、また記館さんに〈セクハラ〉と言われるに決まっている。
そんなのは御免だ。
今度は弩頭くんも起きている――弩頭くんにからかわれるのは勘弁願いたい。
「まあこのままじっとしていても、本当に進展はないので、先程、福友井さんが言っていた、ボディチェックをします」
「えー!?」
驚きの声を上げたのは、美笑ちゃん。まあ、女の子だからな。
「安心してください。五十嵐さんは私が細部に至るまで、全身隈なくしっかりと調べます」
「それなら良かったあ。ていうか、なんでボディチェック?」
美笑ちゃん! 離れろ! 記館さんから今すぐ離れるんだー!
……大丈夫だよな?
「じゃあ、俺らは三人でやるってことでおーけい?」
「はい、そうですね。では五十嵐さん、向こうへ」
言って、記館さんは控室の外へ、美笑ちゃんを連れて出ていった。
本当に、大丈夫だよな?
「おい、神梨。調べるぞ」
「はい。すいません」
まあ、もうこうなってしまったからには、美笑ちゃんの無事を祈るしかないだろう。
とりあえず話し合いの結果、まず弩頭くんを二人で調べることになった。
ボディチェックと言われたものだから、僕も福友井店長も、弩頭くんの体をぱんぱんと叩きながら調べていた――が。
「せんぱーい、てんちょー」
「なんだ、弩頭」
「つーか今、何調べてるんすか?」
「それも知らないのか……いや、弩頭は寝ていたからな。仕方ないか――まあ、チケットだ。実はあの後、一枚だけ消失してな」
そう言えば美笑ちゃんも知らないはずだな……記館さんが教えているか。
うむ、やっぱりちょっと不安だ。
「それ、まじで結構やばくないっすか?」
「それはそうだが、だから記館さんがいるんだよ」
僕は口を挟んだ。
記館さんはいないが、一応記館さんへの信頼感は出しておかないといけないような気がした。
「チケット探しているなら、そのボディチェックみたいな調べ方――無意味じゃないっすか?」
「あ」「あ」
確かに。
弩頭くん、たまにはいいこと言うじゃないか。見直したよ。
弩頭くんに言ってしまうと、彼の鼻は天を超えるほど伸びてしまうので、心の中だけで褒めておいた。
「じゃあ、どうします? 福友井店長」
「そうだなあ。神梨、記館さんのところはどうしているか見てきてくれ」
「ああ、はい、いいですよ」
好都合だ。
僕も一度、見ておこうと思っていたところだ。
というわけで、控室の扉を開いた。
本当に、何も考えずに――
「……………………………………………………………………………………………………」
裸デシタ。
美笑チャンノセナカガ丸見エデシタ。
「……ん――って、んぎゃああああああああああ!」
美笑チャンガ叫ンダ。
「セクハラです」
セクハラ? セクハラッテ、ナンダッケ?
「最低! 死ね! 死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね! 心臓刺されても脳天貫かれても死なずに、タンスの角に小指ぶつけて死ね!」
どんな死に方だ! そんなんで死んでたまるか!
と、ツッコミのおかげで、一応理性は取り戻したみたいだ。
僕は扉を閉じた。
ん、あれ? 僕何していたっけ? 記憶が消えた。
記館さんの能力みたいに、一部分だけすっぽりと抜けている気分。
何か、そう、ボディチェックの仕方だったけれど。
「あのー、やり方ですけど、あんまり分からない……」
「いや、僕は何となく分かった」
「あ、うん、俺も分かった」
二人が僕を見てくれない。
どうしてだろう。
僕は何か、悪いことしたかな。
まあ、分かったなら良しとしよう。
うん、良いことじゃないか。
「それじゃあ、全員脱ぐか」
福友井店長が言って、二人は裸になった。
僕はそういう方面に、これっぽっちも興味はないが、それでも弩頭くんの体は中々鍛えてあることに感心した。本当にどうでもいい……。
あれ? 裸って、僕何か、すごいものを見た気がするな。
うーん、どうやっても思い出せない。
まあ、とりあえず二人がやっているし、僕も脱いだ。
「これ、ズボンはどうするっすか?」
「ああ、確かに――」
省略。
中略。
割愛。
カット。
なんでもいい。とりあえず、ボディチェックによる結果は、誰もチケットを持っていないということだった。
そして福友井店長が外にいる記館さんと美笑ちゃんを呼ぶ(わざわざ中から大声で叫んだ。何故だろう)。
「はい、どうやらそちらも、何も見つからなかったようですね」
結局、進展なし――か。
記館さんが来てから、およそ三時間が経過した。
と、ここで彼女が言った。
「さて、もう、いいでしょう」と、言ったのだ。
それはどういう意味か――と、考える間もなく、彼女は続けた。
「犯人はこの中にいます」