幸福な不幸、不幸な幸福 林
彼が情報屋であるホームレスの寝床に向かったのは、それから二日後のことだった。
晴れた昼間、林は近くの公園へ向かった。日の当るところでは子供たちが遊戯で遊び、母親たちがその姿を見ながら雑談をしている。が、一歩離れた陽の当らないほうへ向かうと、たちまちブルーシートの集落につく。
林はブルーシートの村を横断し、一番奥へと向かう。
「情報やのおじさーん」
猫がたくさん集まっているブルーシートがおじさんの家だ。数は二十匹は下らない。遠慮なくブルーシートをめくると、はたしてそこにおじさんはいた。
おじさんはパソコンをいじっていた。林は彼がなんとはなしに好きだった。おじさんは異常な猫好きでいて、またきれい好きだった。ブルーシートの中はいつもきれいに整頓され、さらにどうやって学んだのか風力発電が稼動されており、自宅に現代文明が存在することを可能にしている。眼光が鋭く、鼻が高い。若いころにはきっともてたのだろう。いつもジャンパーを背負っていたが、老いて、なおプロボクサーといったような印象を受ける。そして、あのオンラインゲームのシステムを教えてくれたのもおじさんだった。
彼はちらりと林のほうを向き、机の上のある整頓された無数の封筒から一つを取り出し、無言で林に渡す。きっとあの一緒にオンラインゲームをした相手からの情報であろう。
「ありがとうございます」
そういって林はその封筒を受け取ると、その場でびりびりと開き、中身をさっと読む。その後、内容に満足すると自分のバックにしまい、別の封筒と万札一枚を取り出し、丁寧におじさんに渡す。封筒の中には今度襲うコンビニの場所と、時間、その他の襲撃の詳細を書いてある。
林がその場でいちれいし、立ち去ろうとすると、めずらしくおじさんが喋った。。
「...いま、あそこの美術館で印象派の展示会をしてるのを知ってるか?」
林は尊敬する上司に話しかけられたような感じがし、胸がドキドキする。
「いや、知らなかったっす。」
「ぜひ行ってみることをおすすめする。...人間とはどういう存在なのか考えさせてくれる」
おじさんはパソコンから目を離さずに言う。鷲のようにするどいめつきだ。
「わかりましたっ」
感無量、という気分になりながら、林はブルーシートの幕を下ろす。中から「リーチ!」と小さく言うのが聞こえた。どうやら麻雀をしていたようだ。だが、林ははなしかけてもらっただけでうれしかった。そのまま歩いて美術館にむかってもよかったが、やめにする。できるだけ、うれしさを持続していたかった。
...美術館は仕事の前に行こう。そうしたほうがおじさんの言葉の力が仕事に影響して、より満足いく成果画出るかもしれない。初めて上司に褒められた新入社員のような気持ちのまま、林は鼻歌を歌いながら来た道を戻っていった。