幸福な不幸、不幸な幸福
さやかの突然の告白。潤はさやかに振り回されすぎ
「もしかしたら、私たちって運命の出会いなのかもしれない」
真剣な顔でさやかがいう。
「へぇ?!!」
想像だにしない言葉に奇妙な声を上げ、驚く潤。こ、これは結婚ルートなのか...一人で照れ、うへへへと、はしなたく笑う。
そんな潤のことはおかまいなしにさやかは続ける。
「前から思ってたんだけどさ、わたしがああ幸せって思ってるの時間と、潤がうすら笑いを浮かべて困ってる時間ってだいたい比例してる気がするんだよね。こう思うのっておかしい?」
そんなことをさやかが言ってくれるのはうれしかったが、そうはいってもおかしいだろうと思い、
「さすがにそうは思えないよ。風が吹くとおけ屋がもうかるって話とか、南米の蝶がはばたくと北米で嵐が起きるって話の類と同じ気がする。もし僕が不幸を感じてるときに、君が幸福を感じてるならば」
「何?わたしの人生がどれだけ幸せなのかって?」
「ええ?......いや、まあそう。そうだね」
「もう幸せも幸せよ。人生楽勝楽勝。ライフイズベリーベリーイージー。こんなゲームがあったら何週でもやっちゃうわ」
潤は絶望を感じた。人生がベリーイージーだって?冗談じゃない。今この瞬間さやかといられることには幸せを感じられるが、いままで二十年間生きてきて幸せだった時間なんて、一週間にも満たない気がする。楽しそうにけらけらと笑っているさやかを見て、潤はため息をつきた。...確かにこの瞬間、さやかはとても幸せそうだ。
「どんなゲームだよ。...マリオで出てくる最初のクリボーがピーチ姫とか?くそげーだな」
「ああ、そういうことをいってるわけじゃないの。なんていうのかな」
ちょっと思案してさやかが答える。
「まさにゲームそのものなのかもね。要所要所の難しさが自分にちょうど良く設定されてるって言うか。あきらめそうな時も、まだがんばれるって思えるのよね。」
そこで潤は彼女がけっして苦労していないというわけではないことを思い出す。たしか...彼女が中学校の頃空手で全国大会に出たって言ってたような...潤はバスケをやっていたが、県大会出場するのを夢見、それでも出られなかったのを思い出す。そういう意味でも彼女はすごい。
「僕の人生はベリーハードだよ...神様、なんとかしてくれよ」
「まあね、自分がそう思うんだったら、そうなんじゃないの?私は、知らないけど」
人としても彼女はすごい。自分がみじめに見えてくる。
「でもさあ、そこまでイージーな人生を送ってて、なんで、そのぼくと運命を感じれちゃったの?それはすごくうれしいことだけど、疑問すぎるよ。かりに、ほんとにかりにの話だよ。僕とさおりが出会っていなかったら、」
「出会わずしてそれは運命とは言えない」
「...うん。でも、そしたら、僕は僕でつまらない人生を嘆き、君は君で運命など感じずに幸せを謳歌してたんじゃないの?そこに僕の不幸と君の幸せはつながるものはないよね」
さやかはちょっと肩をすくめて
「ちょっと難しいこと言わないでよ。わけわかんなくなってきちゃったじゃん。...いい?わたしはコーヒー、潤はミルクと砂糖」
ああ、そういうことか。
潤は彼女の屁理屈度合いにあきれながらもうすら笑いを浮かべる。
さやかは満足げにうなずき、
「私はミルクと砂糖をどばどば入れる派!」
「僕は砂糖が入ってないのかもね」
「何いってるの?」
彼女はそう言ってにっこり笑い、ショルダーバッグを持ち、立ちあがった。
「あなたは十分私に甘いわ」
そういって先に玄関へと向かう。
「散財、太陽、ここにいてます、的な...」
潤はため息一つついてレシートを持ち、レジへと向かった。