幸福な不幸、不幸な幸福
気絶した男二人を前にさやかはさすがにどうすればいいのか分からなかった。とりあえず、警察に電話しようと思ったが、なぜ潤が倒れているのか説明するのはとてもややこしいことだったので、とりあえず、泥棒は気絶しているし、電話するのは後回しにすることにした。
考えた挙句、さやかは二人をトイレの中に引きずって入れた。ビニール袋を細長くたたみ、それを縄として、泥棒の手と足を縛り、動けなくする。潤は潤で身体から制服を脱がし、それをさやかが借りる。若干、大きかったが、気にするほどでもない。かわりにパーカーを着させてあげる。ズボンはどうしようか迷ったが、とりあえず、脱がす。罰的な意味も込めて。それも着ていたズボンの上に重ねて着用しておいた。
さやかは潤が起きるまで、店員として動くことに決めた。
さやかが店員に扮しておよそ、十五分が立ったころだった。さきほど倒した男とほぼ同じような格好の女性が、来店する。
これは、あやしい。
さやかが思った通り、その女はきょろきょろとあたりを見渡し、誰かを探しているようだった。
が、それほど困った様子でもなく、ぱたぱたとサンダルの足音を立て、レジに近づいてくる。
「仲間にするなら?」
女は先ほどの男と同じ質問をさやかにぶつけた。さやかもどうように
「キティちゃん」
と答えた。
一瞬の沈黙。女が右腕をズボンのポケットに突っ込む。次の瞬間、さやかの首直前にスタンガンが突きつけられていた。さやかはうまくその手をつかんで降り、間一髪のところだった。警戒していたのが幸いだった。さやかは相手の奇襲にうまく対応できた。
なおも女は、スタンガンを持つ手に力を入れる。負けじと、押し返す。
女は舌打ちをする。ふいにスタンガンに入っていた力が抜けた。押し返していたさやかは前方に重心が傾く。女はくるりとその場で小さく回転した。回し蹴りの体勢に入る。さやかは、自分が負けることがその瞬間、わかった。舌をかまないよう、歯を食いしばる。そして目をつぶった。
ところが、いくら衝撃に耐えようとしていても、衝撃自体が来なかった。さやかはうっすらと目をあけた。目の前で、女性が倒れていた。いや、押し倒されていた。誰に?潤だ。
「大丈夫か、さやか!!」これぞ主人公、という台詞を口にし、潤はさやかのほうを見た。あと一歩タックルするのが遅れていたら、さやかが倒されていたのかもしれない。そう思うと潤はぞっとする。だが、もう大丈夫だ。
潤はさやかに向かって笑いかけた。が、さやかは冷たく言い放つ。
「潤、いまあなたどうゆう状況か分かってる?」
え? 潤は周囲を見渡す。さやかを襲っていた女性を倒した。...パンツ一丁で...
もう一度、潤がさやかに笑いかけようと彼女のほうを向いたとき、すでに彼の意識はなかったという。
「やれやれ、彼も不幸な男だ」
トイレのほうから男が歩いてきた。
さきほど頑丈に縛り付けておいた紐は?さやかは不審に思ったが、男も察したようで、
「あんな結び方をほどくのは泥棒にとって、朝飯前ですよ」
と肩をすくませる。
確かに深夜は朝飯前だが、そう下らないことを考えたが、となりから殺気を感じて、そちらを向くと、さきほどの女が体勢を立て直し、いつでも襲ってきそうだった。




