幸福な不幸、不幸な幸福
午前零時を少し回ったころ、コンビニに客はほとんど来なくなる。
潤は次の日の品出しが始まるまでの時間、いつものことながら暇を持て余すのだった。携帯ゲームにも飽き、こそこそとレジから抜け出す。...やましいことは別にない、そこにいるのはただの人間、そう自分に言い聞かせ、そろそろと雑誌コーナーへと行く。そして、一番端まで来ると、周囲をうかがい、おもむろに手を伸ばす。そう、青年雑誌へと。
潤の心には多少の罪悪感があったが、自分ではそれが罪悪感とは気付かず、風邪だろうかと思う。
目の前に広がる天女のような裸体に潤はいささか興奮していた。
まるで天女のようだ...天女ではいささかきれいすぎか、いや、元来女性はきれいなものだ、そうとも女性の裸体はきれいなのだ。きれいに決まっている。...いかんいかん、自分を見失うな...
潤はそういう色恋に関してはうぶ、というかまじめすぎた。今晩、このようなことをしようとしたのは一種の気の迷いだったに違いない。バイトをさぼって、しかもこんなに堂々と公の場で青年雑誌を広げて観るのは初挑戦で、それがよりいっそうの興奮を潤にもたらした。それゆえに窓を隔てて彼を見ている人の存在には気付けなかった。
突然、客の来店する電子音が鳴る。潤はその瞬間、いま自分の置かれている状況を瞬時に把握することになった。一気に体中から汗がふきでるのがわかる。潤は客のほうには目を向けず、来客に何気なさを予想追うためにゆっくりと本を閉じる。
...落ち着け、まだ何も終わってなどいない。いまが始まりだ。そうだ落ち着くんだ...
動物である人間にとって、異性の裸に興味を抱くのはえてして普通のことではないか。そう日常なのだ。なにをまどうことがあろうか。このまま全裸になったって、それは日常、日常だ。
潤は混乱する頭を必死に動かし、その場で何気ない様子を気取って背伸びをするそして、レジのほうへ歩き出す。いや、正確には歩き出そうと一歩を踏み出した。が、そこで止まる。いや止まらざるを得なかった、というほうが正しい。
う、うそだろ..
隣に人がいた。潤の目にはサングラスをかけた背丈が同じくらいでそこらへんで売ってそうなジャージをした人がいる。マスクをしているがおそらく男性だろう。サングラスの奥の瞳は全裸になることを絶対に許可してくれそうもない色をしていた。
客はショルダーバックをごそごそとあさる。潤はさりげなく客の隣を通り過ぎようとした。
左足を踏み出す。伏せた眼に週刊誌が目に入る。今週は正義の話だったっけ。重心を地に着いた左足に入れる。軽くなった右足を地面から離す。目をあげる。レジを直視した。
その矢先だった。首に重い衝撃が走った。ドォーンっという音が頭の中でする。あ、視界が真っ白だ。世界が平和になったのかも。平和って何もないことなんだね。
薄れゆく視界。潤は倒れた。
深夜のコンビニにはサングラスをかけたお客さんだけが立っていた。




