ワースト・ファースト
初投稿です
稚拙な作品でもバッチこいな忍耐強い方がいましたら生暖かい目で見てください
心や感情において一番って一つしかないと思う。
一番好きと一番嫌いが共有できないように優劣がハッキリしている。
好きも嫌いもひとくくりにして順位を決めている。
つまり、一番以外は扱いが粗末になったりあまり気にしなくなったりと日々は一番を基準、基本として進んでいると思う。
そう思うのは俺に好きな食べ物、嫌いな食べ物、苦手なこと、気になるもの……そして好きな人までもがかすむほど圧倒的に一番『嫌い』なヤツがいるからだ
そいつの名前は竹田という。
竹田と初めて会ったのは幼稚園に通っていたときのことでもう10年も前のことだ。当時の俺は幼稚園に行くのが楽しくてしょうがなかった。友達がいて絵本、ブランコなどの遊具がありウサギなどの小動物がいたりと6才の幼児からしたらまるでテーマパークのようだった。多分、今までの人生(といっても16年ぐらいだけど)で一番笑っていた時期に竹田に会った。
砂場で友達と遊んでいるとコロコロとボールが俺の目の前に転がってきたので拾い上げ誰が遊んでいたのだろうと辺りを見渡していると
「それあたしのー」
と後ろから聞こえてきたので振り返るとトコトコと女の子が走ってきた。それが竹田だった。
竹田は笑顔で走ってきたが俺の顔を見た瞬間笑顔がなくなり困ったような苦しいようなよくわからない表情をした。
そして俺も竹田の顔をハッキリと見たときから胸のあたりがモヤモヤした。
きっとそのときはお互いに同じ表情をしていたと思う。
しばらく見つめあっていたが竹田が気がついたように手を出し
「……ありがと」
とぶっきらぼうに言ってきた。だが俺は動けなかった。胸のモヤモヤがなんなのか分からず軽く混乱していた。
「はやく返してよ!!」
竹田はそんな俺にたいして業を煮やしたのか、強引にボールを取ろうとした。
だが俺はその手を思いきり払いのけた。なんか素直に返したくなかった。率直に言えば意地悪したくなったのだ。
「なにすんのよ!!」
竹田は一瞬あっけにとられたような顔をしたがみるみる顔を赤くしてつかみかかってきた。それから周りの友達が恐がるほどのケンカになった。しばらくして先生が止めにきたがそれでも掴み合いをやめなかった。
強引に引き剥がされてやっとケンカをやめた俺たちに先生はなぜケンカをしたのかと聞いてきた。
竹田がボールを返さなかったと主張し、その通りなので俺が怒られた。
罰として一日外で遊ぶのを禁止になった。
友達は皆外で遊ぶので一人きりなった。一人でやることがないので俺はなぜ急に意地悪したくなったのだろう、あのモヤモヤはなんなのだろうと考えた。しばらく考えてわかったことはあのモヤモヤはイライラで竹田のことが嫌いということだった。なぜ、と問われても答えられない。明確な理由はないのかもしれない。ただ嫌い。自分より優れている人を見ると劣等感を、劣っている人だと優越感を抱くように竹田を見ると嫌悪感を抱くのだ。
帰りの時間になり母親が迎えにきた。母親は先生から話を聞いたのか呆れ顔だった。
「謝りに行きましょう。」
家に帰ってから軽く怒られてから母親はそう言った。竹田相手に謝るなんてスゴく嫌だったけどこれ以上母親を困らせるのも嫌だったのでしぶしぶ謝りに行くことにした。竹田の家ってどこなのかなと思って母親の後を追いながら家を出るとそのまま車に乗らず道路に出た。車を使わずに行けるほど近いのかと驚いているとなんと隣の家のチャイムを鳴らした。竹田の家はなんの因果か隣だった。
チャイムを鳴らして数秒ドアを開けて女の人が出てきた。とても優しそうな人で竹田の母親だった。
母親があいさつをし俺のことで謝り竹田の母親もこちらも悪いんですよと頭を下げあった。
この二人相性が良いようですぐに談笑を始めた母親が長話をしているので辺りを見渡すと竹田家の二階から竹田がこっちを見ていて目があった。
顔を見ていると嫌いと自覚したせいかイライラではなくムカムカしてきた。
向こうも睨み付けていた。結局その日は竹田に会わずに帰った。会いたくないそうだ。明日こそ謝りなさいよと言われたがもう謝る気はさらさらなかった。
その日から竹田のことがなにをしていても頭から離れなくなった。
いつもイライラムカムカしていて眉間にシワがよって常時不機嫌顔になってしまった。幼稚園で会うたびにケンカになりそのせいで友達が離れてしまった。絵本を読んでいても動物と遊んでいても竹田のことを考えてしまい集中できなくなってしまった。
楽しかった幼稚園が一気につまらなくなってしまって行くのがイヤになってしまった。
小学校に入学してからも竹田とはケンカをしていた。低学年のときは手が出るようなケンカをしていたが高学年のときには流石に掴み合いはしなかった。その代わりけっこう酷いことを言い合っていた。ケンカが口喧嘩に変わっただけだった。
確か小5ぐらいだったと思う。久々に大事になるような喧嘩をした。何が大事かというと殴りあいになった。些細なことで殴りあいにまで発展した騒動は凄かった。教室がメチャクチャになった。まだ小学生なので男女の体格差がなくむしろ竹田のほうが大きく殴りあいといっても俺が一方的に殴られていた。誰かが呼んだのか複数の先生が急いで止めにきて正直助かったと思った。竹田と俺は互いに押さえられ一定の距離でにらみあう形になった。その状態で竹田はヒステリックに叫んだ。
「あぁぁぁっ!!なんなのよあんたは!!いつも私の前に現れて目障りなのよ!!嫌い嫌い嫌いっっ大っっ嫌い!!初めてあったときから嫌いだった!!どうして!?どうしてあんたが頭から離れないの!?なにをしていてもあんたのことを考えてしまう!起きているときも寝ているときも食べているときでも友達と遊んでいるときも!!ずっと!!ずっと!!頭の中であんたにイラついてムカついている!!…………誰よりも………どんなことよりもあんたが一番嫌いだぁぁー!!」
竹田の絶叫を聞いて驚いた。俺と一緒だった。
今まで俺が一方的に嫌っていて俺が悪口言ったりかまったりしたから竹田は俺を嫌いになりいつもケンカになったと思っていたが竹田は俺と初めて会ったときから嫌いだったそうだ。
お互いに一目惚れならぬ一目嫌いだった。
まったく嫌な両思いだ。
中学生にっても相変わらず不機嫌顔で友達もやはりできなくて竹田のことばかり考える日々を送っていた。部活をしてみようかなと思ったが文化系の部活では作業中竹田の顔を思い浮かべてしまいムカついて集中できなくて運動系では試合中竹田の顔がよぎりイラついて試合できなかった。
竹田も同じだったらしいが。
ただ、勉強は集中してできた。竹田のことがよぎってもアイツに負けてたまるかと熱心に勉強できる。
そのため成績は学年トップクラスだった。竹田も同じだった。
高校進学を機会に竹田から距離をとろうと思った。
今までは家が隣学校が同じと会う機会が多くそのたびケンカをしてきたが、竹田と離れればもしかしたら竹田のことを忘れられるかもしれないからだ。
だから電車で通うような距離なおかつあまりレベルの高くない学校に進学しようと思った。
竹田はきっと俺と張り合って偏差値が高い学校に行くだろうからそれを見越してのことだった。だったのだが結果的にいうと失敗に終わった。
竹田と一緒の高校になってしまった。
どうやら同じことを考えていたらしい。きっと俺と竹田は似ているのだろう。嫌いという感情は同族嫌悪からもきているのかもしれない。
高校に進学してからは友達ができた。こんな俺でも仲良く接してくれるいいやつだ。だがそれでも竹田のことで頭がいっぱいだった。今までと同じように顔を会わせるたびにイライラし罵り合うごとにムカムカするのがこれからも続いていくのだろうと思っていた。
高校進学から半年いつものように目の前に竹田がいたので悪口を言った。
これまでだったら竹田は即座に反撃し言い合いなっていたがこのときは
「あっそ」
と流された。
なんだかとても違和感が会った。まるで気にされてないのだ。後に友達に聞いたがどうやら竹田に彼氏ができたようだった。つまり竹田にとっての一番が俺ではなくなったということだ。
これはいい傾向ではないだろうか。お互いに嫌い嫌われていたからこんなにも酷い仲になった。ということは片一方が関心をなくしたらもしかしたらこの関係も終わるかも知れない。
と思ったがそんなことなかった。むしろ今まで以上にムカついていた。
竹田が彼氏と歩いているのを前に見たことがある。竹田は笑っていた。しかめっ面しか見たことなかったから最初誰だか分からなかった。
心底楽しそうに彼氏と会話している竹田。隣をモロに通っても気づきもしなかった。
そのときに今までに味わったことがないような強烈な不快感に襲われた。胃に穴が空くんじゃないかと思うほどのストレスを感じるようになった。
どうしてなのだろう。
もう竹田から嫌味を言われることも軽蔑の視線を浴びることもないのにこんなに辛いのだろうか。
そんな状態が約2週間続いた。もう限界だった。なんとかしないと気が狂ってしまう。
考えたくなかったがしょうがない。俺はなぜこんなになってしまったか考えることにした。
答えは簡単だった。単純なことだった。
俺はこんなに苦しんでいるのに竹田は幸せそうにしている。俺は竹田にムカつき不快なのに竹田は俺なんか眼中になく楽しんでいる。
それが気にくわないのだ。我ながら自己中だと思う。最低だと思う。
でも、これが原因だ。
ということは竹田には俺のせいで不快になってもらえばいいのだ。
また俺のことで頭をいっぱいにさせればいいんだ。
また俺を一番嫌いにさせればいいんだ。
さっそく俺は行動に移すことにした。
彼氏と二人で歩いている竹田の前にたちふさぐ。
「……なによ」
不機嫌そうに竹田は睨み付けてきた。どうやら竹田は俺が一番ではないが嫌いなままらしい。
そんな表情の竹田を見ると少し……ほんの少し楽になった。
俺の考えは正しかったようだ。彼氏は困惑気味だった。
なんだかこれからすることを考えると彼氏に悪い気がしたが実行することにした。
「いったいなんな――むぐっ」
なにか言おうとした竹田の口を俺の口で強引にふさぐ。いわゆるキスというやつだ。
竹田は突然の出来事に大きく目を見開く。
数秒、時が止まった。
「てめえっ!!」
彼氏に突き飛ばされ無様に転がる。
勝手にキスしておいてなんだが凄く気持ち悪かった。ああ、口を洗いたい。
竹田はどんな顔をしているのだろうと転んだまま竹田を見上げようとしたら顔面に衝撃がはしり視覚が暗くなり火花が散ったような気がした。
口の中で鉄の味が溢れる。激痛が口から全身に広がった。と目の前に赤い液体に濡れた白い物体が転がっている。……俺の歯だ。
竹田に思いきり顔面を蹴られたんだと少し遅れて理解する。竹田は嫌悪感に顔を歪ませ頭をかきむしりながら久々にヒステリックにわめいた。
「何てことをしてくれたのよ!!せっかくあんたのこと考えられないようになったのに!!一番じゃなくなったのに!!イラつかずムカつかず晴れ晴れとしていたのに!!またあんたが頭から離れなくなってしまった!!どうしてくれんのよ!!……またあんたが一番になっちゃった……!!」
言い終わるや走ってどっかに行ってしまった。
彼氏はドン引きしていた。
後日俺は竹田に会いに家を訪ねた。
竹田は思いっきり顔歪めたが家に上げてくれた。
その日は竹田しかいなかった。
「で、なによ。私はあんたの顔なんかを見たくないんだけど………」
それは俺も同じだがとりあえずなぜ昨日あんなことをしたのか話した。
「はっ、そんな理由であんな酷いことしたんだ。別れることになったのよあのせいで……あの事は一生忘れない、一生根に持ってやる。一生恨んでやる」
まあ、恨まれてもしょうがないか。竹田が幸せになれるかもしれない可能性を俺は潰したのだから
「でも、凄く遺憾だけど気持ちは分かる」
竹田は一呼吸おいてから
「私も立場が逆なら同じようなことをすると思う」
と言った。
その日からまた元通りになった。一番嫌い合うようになった。
俺はこれからも竹田を一番嫌いだろう。
これからも竹田のせいでイライラしムカムカするのだろう。
それは竹田も一緒だと思う。
この不毛な関係を終わらすには同時期にお互い以上の一番を見つけなければいけない。
そんなことあるんだろうか。
そんな日が来ることを願って俺は今日も竹田と喧嘩をするのだった。
読みきってくれたことに感謝感激です
本当にありがとうございました。
ところでコレのジャンルってなんなんですかね……?
作った本人もイマイチわかりません