二人
そのとき、僕らがそこにいたのは偶然だったのだろうか。
ドン!という音が協会の外から聞こえた。
今閉めたばかりのドアから会長が飛び出す。
「何事だ!」
「わかりません」
「外に出よう」
シュナイダーの提案に僕らは頷き、出口へと走る。
「まさか・・・あいつらか」
会長がいつになく慌てている。
「あいつら」。多分、文具同盟の事だ。僕もそんな予感がしていた。
出口を勢いよく開け、外へ飛び出すとそこには─────白髪の男。
「か・・・神威・・・!!!」
僕は思わず歯軋りをした。
と、肩をぐいっと引かれ、協会の中へ戻される。
「アレックス・・・!?」
アレックスはドアを閉めて僕の肩をつかむ。
「お前はダメだ。・・・いいか、まだ詳細は話せないが─────お前は絶対に顔を覚えられちゃいけない。」
「でも・・・」
僕はアレックスに何かを言い返そうとしたがドンドン!という爆音で掻き消される。爆発物でもあるのだろうか。かすかに火薬くさい。
ドアの向こうから神威の声が聞こえてくる。
「さぁて、早速だが──────うちのメンバーがお世話になっているようだな。」
「・・・お前、どうやって入って来た!?セキュリティーシステムは定子に作り直させたのに・・・!」
会長の声には怒りと戸惑いが混じっている。
「定子・・・」
神威は何かを考えているらしい。と、突然大笑いを始めた。
「ふっ・・・はははははは!!」
「なにが可笑しい・・・?」
「くっくっくっ・・・だって、定子・・・くっはっはっはっ!・・・定規だから、定子って・・・くっくっ・・・あー、面白い」
「・・・?」
「昔っから柳瀬のネーミングセンスには笑わされるぜ!」
ん?柳瀬って誰?
「何故・・・お前がそれを知っている・・・?」
会長の声が震えている。
「────そんな事はどうでもいい。"イレイザー"はどこだ」
「はは・・・知りたければ俺らを倒していけ!」
矢代の声だ。なんだ?どういう事だ?
「会長、ここは俺たちに任せて下がっててください!」
いつになく真剣な声。僕の中での矢代が、ただの委員長でしかなかった頃に聞いていた声。
「一般隊員!総員構え!俺の合図で射撃しろっ!!」
一般隊員?一体外でなにが起こっているんだ!?
アレックスがすっと顔を寄せる。
「お前は知らなかっただろうが、蛍光戦隊側から警備のために武装兵が配備してあったんだ。さっきの爆音は、銃声だろう。」
そんな・・・!
そのとき神威のイライラとした声が聞こえてきた。
「ちっ・・・飛び道具持ち込みやがって・・・腕怪我しちまったぜ」
あ、当たったのか。
「お前ら・・・確か蛍光戦隊とかいったな?フン、いいだろう。俺が消してやる」
僕はすごい寒気を感じた。鳥肌がたった。
「殺気・・・?」
アレックスは顔を真っ青にする。
「やばい、矢代ってヤツ、死ぬぞ」
「──────は?」
死ぬ?誰が?矢代?なんで?
「っ!」
アレックスがドアノブに手をかけ、開け放った。
そこには今にも矢代に襲いかかろうとする神威がいた。
「やめろおおおおおおおお!!!」
アレックスは叫んだ。ぶわっと白い羽が舞う。
ピタッ、と神威が動きを止めた。
僕は驚きに目を見張る。
「・・・震えてる・・・?」
そのとき突然、遠目からみても分かるほどに白髪の男は震えだした。汗が粒になって彼の顔をつたい落ちて行く。
「・・・ば・・・ばかな・・・そ、そんなハズは─────」
「もうやめろよ、ヒロキ。そいつを殺したってなんにもならない。罪を重ねるな。お前が本当にやらなきゃならないのはそんな事じゃないだろ」
アレックスが神威を諭している・・・?
「そ、そんなハズはないんだ!だって!お、おおお、お前は─────うわあああああああああああ!!」
神威が逃げ出した。
「・・・?」
矢代をはじめとするそこにいるアレックス以外の全ての人間は、口を開けて眺めている事しかできなかった。
アレックスがポツリとこぼす。
「償いだろ・・・馬鹿野郎。」
叫びながら10メートルほど走ったところで、神威はあのときと同じように、突然姿を消したのだった。




