二人の男
「!?」
僕は同じ能力を持った二人と戦っているらしい。
それにしても分が悪い。
相手の突進してくるのが見え、それを受け止めようとシャープペンを前に突き出す。だがもう一人の敵が左から鉛筆を振りかざす。
僕は肩を強打され、雑草だらけの地面を削りながら吹き飛んだ。
傷だらけになった背中を抑えながら立ち上がる。
考えろ。考えるんだ。
まずは現状把握。
腕につけている、定子にもらったメーターを確認する。ほぼ満タン。シャープペン一本ではたいしてエネルギーを消費していないらしい。
そして、周りを見回す。
中庭中央までの距離、10メートルくらいか。
敵は僕の右方からジリジリと距離を詰めてきている。ダッシュで行けば池までは僕の方が早く着くだろう。
「・・・よし。」
僕は思いついたばかりの作戦を実行するべく走り出す。
二人も僕の向かう場所に気づいたのか、池に向かって走り出したと思うと、一人にすぐに追いつかれた。
───めっちゃ速いヤツおるやん。
左方からの低めの攻撃をジャンプしてかわし、そのまま池へ飛びこむ。
とはいってもそんなに深い池ではないので膝下くらいまで浸かった状態でザバザバと水の中を歩き、銅像の後ろに回り込んだ。
速い方の敵は一瞬躊躇ったが、池の中へ入ってくる。遅い方も池の淵に来た。
(かかった!)
僕は池の中に入ってきた敵の足下、つまり水中に数十本のシャープペンを出現させ、突き上げた。
敵は顔をガードするように手をクロスさせたが僕の狙い通り、水面からすごい勢いで飛び出したシャープペンは敵を削った。
衣服の破片が飛び散る。
僕は小さくガッツポーズを────と、次の瞬間敵の目が怒りに燃えた。すごい形相で睨んでいるのが、薄暗い中でも分かるほどだ。
相手は先ほどよりも大きな鉛筆を出現させ、振りかぶる。
それはまさに、一本足打法。
僕は銅像の陰で屈んだ。
そして相手の上げていた足が水面を叩くのと同時に敵の全体重をかけた重い一撃は
初代校長(銅像)の頭を吹き飛ばした。
────ホームラン。王さんもびっくりさ。
だがここで引くわけにはいかない!
銅像から陰が飛び出す。
それを相手はすかさずホームランにする─────が、それは大きなシャープペン。
敵が息を呑むのがわかった。
刹那僕は最初に出現させたシャープペンを太い物に変え、敵の傍に入り込みフルスイングした。
敵は「く」の字になって飛んでいき、校舎の壁に体をぶつけ、どうやら気絶したようだ。
やった!初戦初勝利!!
その時視界の隅に走り出す黒い影。
あ、もう一人のヤツ、逃げ出しやがった!
「・・・逃げ足は速いんだな」
これが漫画なら「ピュー」などという表現がお似合いだ。
僕はすぐに走り出す。
あっれぇ。おかしいなぁ、全然追いつけん。
だがスピード負けはしていない。
僕が体力勝負を覚悟したその時、向こう側から創と矢代がやってきた。
「創!矢代!そいつを捕まえろ!!」
「おう!任せとけ!!」
矢代は叫び、何かよくわからないポーズをとった。
「────我が溢れる魅力よ!今こそ具現化せよ!・・・はあああああぁぁぁああ!!」
すると矢代の身体をピンク色の帯状の光がシュルシュルと包みこんだ。
そしてパァッと閃光が放たれ、僕が次に目を開けたとき、そこには全身蛍光ピンクのタイツで頭にも蛍光ピンクのヘルメットを被った妖怪がいた。
あ、妖怪じゃなかった。矢代だった。
────目が痛い。
「うわぉ!すっごい!!特撮ヒーローみたいだぁ!!!」
何故か創は大喜びだ。純粋な瞳をキラキラさせてやがる。矢代は変身後のポーズを決めたままドヤ顔を保っていた。
そしてその二人の横を、駆け抜けていく一つの影。
「なにやっとんねん!!!」
僕は走るのも忘れて突っ込んだ。
「大丈夫だ、問題ナシ!」
ぐっ、と親指を立てる矢代。
あれ?胸に不安しか残らないのは何故だろう。
矢代が両手を胸の前でクロスさせ
「必殺!!インク・ジェットぉぉお!」
と叫ぶとクロスさせた部分に光が収束して─────何も起こらなかった。
矢代は吐血しながらその場に倒れこみ、弱い光を放って変身が解けた。
「・・・インク・・・切れ・・・ゴフッ」
まだ何もしてないじゃん!!
痛い変身しかしてないじゃん!!
ああもう、文具協会はこんな組織と組んで良かったのか!?
「創!!」
僕は創に追いかけるように指示した。だが創はとてつもなく遅かった。今から僕が走ってもすぐに追い抜けそうだ。
「本当に何がやりたいのお前らー!」
僕の悲痛な叫びは夜の校舎に虚しく反響している。
くそ、逃がしてたまるか。
他の三人と合流されると厄介だ。
その時、敵の動きがピタリと止まった。
僕が近づいていくとその理由が分かった。
「おいおい、オマエらもうちょい頑張れよ~」
と肩を上げ、やれやれ、といったポーズで立っている男がいた。黒い帽子に黒いスーツ。赤いシャツを中に着ているように見える。よく見るとその後ろにももう一人。
もしかしてあの三人組の敵か、と思ったが、次の瞬間逃走していた敵が倒れこんだ。見えない速さで今現れた男に後ろに回り込まれ、手刀をくらったらしい。
男は軽く踵でくるりとこちらを向いたかと思うと被っていた黒い帽子をとってお辞儀した。
「へろー、えぶりわん。マイネームいず、
アレックス・サイクロティア。よろしゅう」
にかっ、と金髪の男は白い歯を見せて笑った。




