ダイブ
学校を取り囲んでいたフェンスや校門の周りには大勢の人が集まりかけていた。学校関係者、近所の住民、生徒、警察────はまだ来ていないもののそのうち来るのだろう。しかし、どういう訳だかその中で誰も入ろうとするものはいない。
校門の前に群がる人々を退けながら僕と藍は突き進んだ。
「───定子さん!!」
藍が叫ぶ。
そう。今校長室兼文房具研究会の部屋に立っているのは定子だ。定子もこちらに気づいたようで、こちらに二、三歩踏み出したが部屋から出る手前で足を止めた。大勢の人が見ている中、僕と藍は定子に走り寄る。
「定子さん!一体・・・何が・・・!?」
僕は息絶え絶えに問う。
すると定子は困惑を隠せないと言った様子で
「私も今来たの。原因は分からない。何が起こっているのかしら。」
そう言って眉をひそめる。
「とりあえず一般人は危険だから“ルール”を即席で作って外に出しておいたけれど・・・」
そう長くは持たないわ、と言ってさらに続ける。
「文具協会に繋がらないの。クローゼットで何度も試したわ。周りから見たらクローゼットを何回も開け閉めしてるアホに見えたことでしょうね。」
「繋がらない・・・ってどういうことですか?」
藍が心配そうな顔で聞く。
定子はさらに眉をひそめ
「貴方たちにはあまり説明していなかったわね。実はあの空間は会長のチカラで次元を捻じ曲げて、ペーストのチカラで貼り付け、私のチカラでそれを安定させて作ってあるの。だから、それに繋げなくなったということは・・・あまり考えたく無いけれど、三人の中の私以外のどちらか、もしくはどちらもが死んだ可能性があるわ。」
「そんな・・・誰がそんな事・・・!!」
藍が半ば悲鳴のような声を上げる。
僕は考える。
文具協会にそんな事をして来そうなやつらは決まっている。
「・・・敵対勢力のやつらですね。」
定子はただ、わからない、と首を振るだけだった。
その時だ。
突然クローゼットが、大変弱々しくではあるが輝き出し、クローゼットの中から、同じく弱々しい声が響いた。
「定・・・子・・・!!」
「会長!!」
定子は素早くクローゼットに歩み寄る。。
僕も確信した。確かに、会長の声だ。
「・・・は・・・や・・・く・・・!!」
三文字に込められた切実な願いは僕たち三人の心に響いた。と、同時に僕にも次に僕らがどうするべきか分かった。
定子は素早く振り返りながら言った。
「二人とも!」
「はい!!」
『せーの!!』
三人同時にクローゼットの中へとダイブした。




