砂漠の夜 【月夜譚No.376】
夜空と比べると、砂漠には何もない。上は星々が煌めいて綺麗に見えるのに、下はただただ暗闇ばかりが広がっている。
これが月夜なら砂漠の砂の陰影が見渡せるのだろうが、今夜のような新月の夜は空気すらないみたいに黒が凝る。まるで上下で世界が違うようだ。
ぼんやりとそんなことを考えながら、青年は巨石の壁に寄りかかって、自身に巻いた毛布を更にきつく引き寄せた。
砂漠の夜は極寒である。昼は皮膚を焼くような暑さだったのに、日が落ちると同時に冷気が辺りを支配する。
闇の中から、夜空を見上げる。手を伸ばしても、それは宙を掻くだけで届きはしない。
このまま先へ進んでも、それと同じように何もできないかもしれない。ただ見ているだけで、悔しい思いだけを味わうかもしれない。
けれど、それでも――青年は行くと決めたから、今ここにいる。
一枚の毛布に縋るように顔を埋めて、青年は目を閉じる。
夜の砂漠は、静かに横たわるばかりだった。




