ましろの最悪で最高の1日
コンコンコン!
「お〜い、ましろ。卵粥と野菜の味噌汁作って来たぞー?開けてもいいか?」
「……。い、いいけど……。」
ましろ(よしの)の部屋をノックして、声をかけると、部屋で寝ているであろう彼女から、小さい声で返答があった。
「おし、入るな?」
ガチャッ。
俺が部屋の中に入り、病人食載せたトレーを運び入れると、冷えピタシートをおでこに貼ったましろはベッドの上で、起き上がり、困ったような顔で、こちらを窺い見ていた。
「ねぇ……。義隆先輩、お粥は有難いんだけど、さっきからテキパキ家事をこなしていて元気そうじゃない……?やっぱり自分も体調悪いなんて嘘でしょ?」
「! おおっと! そ、そんな事はないぞ?」
ましろからの指摘に、碗にお粥を盛り付けていた俺は、危うく零しそうになりつつ作り笑いで答えた。
「怪しいわね……」
探るようなましろの視線に俺はダラダラと汗を流す。
そう。ましろが熱を出して学校を休む事になった時、俺も体に怠さがあるという理由で学校を休む事にした。
体調を崩していて、しかも今はよしのの姿になっているましろを一人、家に残していくのは不安があった為、やむを得ず使った仮病ではあるが、母には申し訳なさそうな顔をされて、「ごめんね?お兄ちゃん、明日は母さん休みとるから。」とこっそり耳打ちされたので、おそらくバレているだろう。
ましろにバレると、意地っ張りな彼女の事だから面倒臭い事になると思い、俺は笑顔で誤魔化した。
「あ、ああ……。朝は怠さがあったんだが、少し寝たら大分よくなったんだよ。家事を少ししたら、また休むよ。」
「そ、そうなの……?あんまり、無理しないでね?」
「あ、ああ……。心配するな…って、ん?」
自然に返答しかかり、ましろの言葉を反芻して、俺は眉を顰めた。
あれ?コイツ、今、俺を気遣ったのか?
今まで、された事のない反応に俺が戸惑っていると……。
「美味しそう……。あちっ!」
ガタン。
ましろは、お粥の入ったお碗に手を伸ばしたが、熱くなった部分を持ってしまったのか、慌てて手を離した。
「ああ、底の方持たないと熱いぞ?」
「ごめん……。ボーっとしちゃって……。フウッ。」
「大丈夫か?あんまり辛いなら俺が食べさせてやるが……?」
熱でかなり辛そうなましろに、俺は当然断られるだろうと思いつつ、提案してしてみたのだが……。
「うん。じゃあ、お願い」
「お、おう?」
あっさり許可されて、後には引けなくなってしまった。
✽
「じゃ、じゃあ……、ましろ、口開けてもらえるか?//」
「あ〜ん♡」
よしのの姿のましろは、鳥の雛のように大きな口を開けてきたので、俺はお粥を掬った匙をその中に恐る恐る入れてやった。
パクッ。
「あむっ。モシュモシュ……。ん。卵のお粥、おいしー。」
「そ、そうか…。それなら、よかった。」
ましろは粥を咀嚼しながら、頬を緩ませたので、味付けにあまり自信のなかった俺はホッとした。
「もっとちょうだい?」
「分かったよ。今、冷ますから待ってくれ。フーフー。ホラ、あ〜ん!」
「あ〜ん♡パクッ!」
それから、しばらく俺は匙に掬ったお粥や味噌汁を冷ますと、ましろの口に運んでやるという作業を休む間もなく続ける事となった。
ましろは、熱のせいか、すっかり夜Ver.(甘えん坊)ましろになっていて、まるで、懐いたペットにエサをあげている飼い主のような気分だった。
「それは、なぁに?」
お粥と味噌汁を食べ終わったましろが、トレーにフルーツの入ったお皿を見つけて、目を光らせた。
「ああ。デザートに桃缶をと思ってな。これは熱くないから、自分で食べられるぞ?」
と、お皿をましろに渡そうとすると……。
「ううっ。義隆先輩、あ〜んで食べさせてくれないの?」
「ええ?」
涙目になるましろに俺はたじろいだ。
「え〜ん!交流会の準備を始めようとした矢先に、体調崩した私なんて、使えなくて駄目な奴だと思ってるんだぁ!!」
「いや、思ってねーよ!そんな事!」
「でも、義隆先輩は、この体に入ってるから私に、よしのさんを重ねて優しくしてくれるだけだもん!」
「いや、最初の内はよしのを重ねてしまうところもあったけど、全然性格違うし、今はそんな事ないよ!」
「私《元カノ》の事なんかゴミ以下にしか思えないって事?」
「そんな事言ってないだろう!そうじゃなくて、今のお前は、よしのでもなく、ビデオレターを送り付けた元カノでもないような……そうだな、急に、ツンデレな性格のよしのの双子の妹が出来ちゃったみたいな……?」
「何よそれぇ!」
我ながらピッタリの表現を思い付いたと思ったが、ましろには不評だったようで、抗議するような声を上げられてしまった。
「まぁ、お前はビデオレターを送り付けて来る最悪の元カノだったけど、素直な時もあるし、意外と頑張り屋だし、妹としては悪くないって話だ。だから、無理に優しくしてるわけじゃない。桃缶あ〜んもしてやるから、今はゆっくり休め」
「義隆先輩……」
ましろは、目を潤ませて、コクリと頷いた。
✽
桃缶を食べさせてやった後、再びベッドに横になったましろにせがまれ、寝るまで側についててやる事にした。
「今日は、体調崩しちゃって、最悪の日だと思ってたけど……、義隆先輩にいっぱい甘えられるから、やっぱり最高の日かも……。ずっと、こんな日が続けばいいなぁ……。」
頬を上気させながらそんな事を呟くましろに、俺は思わず突っ込んだ。
「いや、ずっと風邪っ引きってのも困るだろうよ」
「はあーっ。そんなの私だって分かってるわよぅ……。本当にデリカシーのないしょうのない……お兄様……。すぅ……。すやすや……」
俺にダメ出しをすると、ましろはそのまま寝入ってしまった。
「………」
規則正しい寝息を聞きながら、俺は考えていた。
こんなちょっと看病したぐらいで「最悪の日」が「最高の日」になる程喜ぶのに、付き合っていた時に何で俺はましろに笑顔にしてやれなかったんだろう?
本当にましろが望んでいる事を俺はちっとも分かってやれていなかったんじゃないか?
微笑みの浮かぶ安らかな寝顔を俺は胸の痛む思いで見守っていたのだった……。
*あとがき*
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