頼れる参謀
『あんっ…。ああんっ…。』
『はっ。んっ。お前の彼氏よりもすごいだろうっ。』
『うんっ…。すっごいぃっ…。義隆先輩なんかより、拓郎くんの方が大っきくて、激気持ちいいっ…!』
「「「「「「「……。」」」」」」」
「や、やめろぉっ…!!見るなよぉっ!!」
「い、いやぁっ…!!見ないでぇっ!!」
視聴覚室のスクリーンいっぱいに映し出された、NTRビデオレターを、風紀委員の方々が能面のような表情で見守る中、間男の寝取と、浮気女のましろは涙を流して手で映像を覆い隠そうとしていた。
「見て欲しいから送って来たろうにおかしな奴らだな…。では、黒崎、解説頼む。」
「了解です。会長にNTRを仕掛けた事もですが、個人的にも彼らを許し難い事がありますので、容赦なくやらせて頂きます。」
俺は首を捻って苦笑し、副会長の黒崎直也の肩を叩くと、彼は丸メガネを怪しく光らせて悪い笑みを浮かべた。
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時は遡って、昨日の夕方ー。
俺は副会長にして、あらゆる分野の知識が豊富で軍略に長けている頼れる後輩、黒崎直也にロイン電話で、NTRビデオレターについて相談を持ちかける事にした。
『はい。黒崎です。会長、何かご用ですか?』
「ああ、黒崎。急にすまないが、これから少し時間をもらえないか?プライベート半分、公務半分で相談したい事があるんだが…。」
『ほぅ…、プライベート半分…!会長からそういう相談珍しいですね?今日は趣味の動画鑑賞をするぐらいしか予定がなかったので、問題ないですよ?
どちらにお伺いすればよろしいですか?』
「ああ。では、悪いが自宅まで来てもらえるか?
とびっきりの動画を鑑賞出来るかもしれないぜ?」
『おおっ!それは願うべくもないですねぇ!✧✧』
俺が苦笑して言うと、直也は俄然興味を引かれた様子だった。
✽
『はっはっ。お前のおっぱい最高だぜっ!!』
『あっ、あんっ。あんっ。』
「これは…ひどい動画ですねっ…。」
事情を話し、客用のソファ席で件のNTRを見てもらうと、黒崎は、口元を押さえ、不快そうに眉間に皺を寄せた。
「黒崎さん、ミルクセーキどうぞ。本当にひどいですよねっ…。私、お兄様が可哀想でっ。」
「おおっ。このタイミングで白いトロリとした飲み物ありがとうございます。鷹宮さん。
相変わらず天然ですねっ?」
「え??」
お客に飲み物を出してくれるのは、ありがたいのだが、こんな動画を見ている時にミルクセーキを給仕してしまったよしのは、黒崎に親指をたてられ、キョトンとしていた。
「よしの…。」
俺は苦笑いで額を押さえた。
妹よ…。純真なのはいい事なのだが、男性陣を煽るような言動はしないように
後で言い聞かせねばならないな…。
ただでさえ、年の割に発育のよい体形の妹が兄は心配だった。
「あ〜、甘くて美味しい!で、さっきのひどいって言ったのは、会長に対して裏切りだっていう事だけでなくて、この動画の作り自体がとても粗くて見られたもんじゃないっていう意味だったんですよ?」
「…!」
「え…?画質とかカメラワークが粗いっていう事ですか?」
戸惑った様にそう言うよしのに、黒崎は人差し指を振って否定した。
「うーん。まぁ、それもありますが、もっと根本的なところで、この動画は不自然な点が多過ぎますよ。」
「やっぱり、黒崎もそう思うか?」
勢い込んで俺が黒崎に詰め寄ると、黒崎は笑顔で頷いた。
「ええ。例えばですね…。」
『あんっ…。あんっ…。』
『はぁっ…。はぁっ…。』
『………カクカクッ。ギシギシッ。ッ………カクカクッギシギシッ。』
「ホラ、ここ!動画の動きと音声が合ってないじゃないですか。」
「はっ。そう言われてみれば…!」
よしのは、黒崎に指摘されて、始めてその事に気付いたのか、息を飲んだ。
「それに、会長の前でコレ言っていいか分からないんですが、虎田さん、ちょっと…違いますよね。」
「黒崎。気遣わなくていい。俺もそれは思っていた。」
「??」
困ったようにこちらを見てきた黒崎に、俺は神妙な顔で頷き、よしのは不可解な顔で目を瞬かせた。
「とにかく、これは元になるAV動画を加工した質の悪い紛い物の可能性が高いですね。」
「…!!じゃあ、虎田さんは本当は寝取さんにNTRされていないって事ですか?」
驚くよしのに、俺は首を捻った。
「それは分からないな。俺に愛想を尽かして、寝取に靡いたのは本当かもしれない。ただ、この動画はNTR及び不純異性交遊の証拠とはなり得ない可能性が高いという事だな。」
「そうですね。俺、ちょっとこの元の動画にも心当たりがあるんで、この動画、お借りして調べさせてもらっていいですか?」
「ああ。ぜひともお願いする。それが判明次第連絡もらってよいか?」
「はい!僕の予想が正しければ、これは、《《許し難い行為》》です。
会長。例えNTR未遂だとしても、こんな悪質なイタズラをする彼らには、目にものを見せてやりましょう!!」
「ああ。そうだな…。力になってくれてありがとう。黒崎。」
義憤に燃える黒崎に、俺は大きく頷き礼を言い…。
「私も精一杯お手伝いさせて頂きます!顔が広くて事情通の空さん(生徒会 会計)、海さん(生徒会 会計監査)にも虎田さんや、寝取さんの情報を聞いてみますね?お兄様…!」
「ああ。よしのもありがとう。では、俺も、風紀委員に連絡をとってみるよ。」
そして、よしのや、他の生徒会役員、風紀委員にも協力してもらい、NTRビデオレターに対する寝取&ましろへの訊問会をする運びになったのだった。
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そして今…。
「このように、動きと音声があっていない、顔の形が時々バグるなど、この動画には不自然な点が多々見られます。」
「「っ……!||||」」
黒崎は教壇に立ち、寝取とましろが大量の汗を流す中、NTR動画の不自然性を指摘していた。
「そして、この動画の最大の違和感、それはっ…!!」
黒崎は、くわっと目を見開いてめぐりに指を突き付けた。
「虎田さん。君の胸、こんなに大っきくないでしょうがっっ…!!!」
「「「「「「「…!!!!」」」」」」」
「はぎゅうっっ…!!」
動画であらわになっている豊満な胸からかけ離れた、虎田ましろの平らな胸部に全員の視線は釘付けとなり、彼女は涙目で、それを両手で隠したのだった…。