生徒会役員の協力
「俺ら、生徒会仲間じゃないですか?
会長。隠し事はなしにしましょうよ」
「黒崎くんの言う通り! 会長。何か困った事があるなら言って欲しいよ」
「そうそう。私達に出来る事は何でも協力するよ?」
「……!」
黒崎、空、海に真剣な顔に、その場限りの誤魔化しは利かないと悟った俺は、よしのとましろに向き直った。
「よし。生徒会メンバーには言っておいた方がいいかもしれないな。二人共、いいな?」
「ええ。お兄様。大丈夫です。黒崎くん、空さん、海さんは信用していますので…」
「ちょっ!待ちなさいよ!私を断罪しようとした奴らにこんな事知らせるなんて…!」
「「「……。」」」
素直に頷く(外見はましろの)よしのと、焦ったように抗議する(外見はよしのの)ましろをやはりおかしいと思っているのか、黒崎、空と海は訝しげに首を傾げている。
俺は、ましろに言い聞かせるように言ってやった。
「仕方ないだろう。これは、俺達だけで解決できる問題じゃない。この事態を相談し、協力してもらう仲間が必要だ。黒崎は学年一位の秀才で、知識量、思考力は凄まじいものがあるし、空や海は、顔が広く、学校中の情報通だ。これ以上心強い協力者をお前は見つけられるのか?」
「うぐっ…!」
性格のキツさ故に友達の少ないましろは他に適任の協力者を見つけられようもなく、俺の言葉に呻いたきり、黙り込んだ。
「では、話すからな。黒崎、空、海。おこれから話すことを絶対口外しないようにしてほしいんだが…」
俺は他の生徒会メンバーに、よしのとましろが入れ替わってしまった経緯を話したのだった。
「じゃあ、今は虎田さんが、よしのちゃんで…」
「ええ…」
海の言葉に、よしのは頷き…。
「よしのちゃんが、虎田さんなの…??」
「そうよ…。はぁっ。まったくとんでもない事に巻き込まれたものだわ!」
空の言葉にましろが頷き、憮然とした表情でそんな事を言うのに、俺はイラッとして突っ込んだ。
「被害者面するな! よしのに掴みかかって、階段から落ちる原因を作ったのは、ましろ、お前だからな!」
「それは、そこの妹が私の胸がAより小さいかもってバカにしてくるから…!」
「そんな…!私としては、親切心で言っただけなんですが…」
俺とましろとよしののやり取りを聞いていた黒崎は、苦笑しながら宥めて来た。
「まぁまぁ。三人共。言い争っている場合じゃないですよ。
しかし、階段から落ちて、頭をぶつけ合ったショックで、二人が入れ替わってしまうなんて事が本当に起こるなんて、信じ難いですねぇ。ふむ…」
黒崎は、顎に手をかけて少し考えると俺達に、人差し指を突き出して提案して来た。
「まずは、現実的に言ってあり得そうな可能性から行きましょう。
鷹宮さんが自分を虎田さんだと思い込んでいて、同時に虎田さんが自分を鷹宮さんと思い込んでいるという事はないんでしょうか」
「「「「!」」」」
衝撃を受ける一同だったが、近くで二人の変わりようを目の当たりにした俺は、疑問を挟まずにはいられなかった。
「いや、黒崎。思い込んだぐらいでこんなに性格がそっくり変わるものだろうか」
「けれど、中身の入れ替わりが起こっているよりはあり得そうな事ですよ?
会長。鷹宮さんしか知り得ない事、虎田さんしか知り得ない事を今それぞれに聞いて、本人かどうか確認してもらえますか?」
「……! わ、分かった。」
黒崎の勧めに従い、俺はまず、よしのに向き合った。
「よしの。親戚で、今年の正月に一番多くお年玉をくれたのは誰だ?」
「ええと…。母方の正蔵叔父さんですよね?とっても有難いのですが、私の受験の前に10万もらった時はちょっとプレッシャーでした」
困ったように笑うよしのに俺は頷いた。
「ああ。叔父さん、投資で一儲けしたって言って、奮発してくれたんだよな。俺達の事を気にかけてくれるのはいいんだけど、そろそろ母さんにいい人見つけろって言われてたよな」
「ええ。叔父さんもう30過ぎてるし急がなきゃって、お母さんお祖母ちゃんと画策して、結婚相談所に登録させようとしてましたよね」
クスクス笑いながらそう言うよしのは、外見はましろだが、15年間一緒に暮らして来た実の妹として何の違和感もなかった。
俺は皆に向き合って、伝えた。
「今の話は、ましろにはもちろん、学校で他の奴に話題に出したこともない。」
「そうなんですね。僕も初めて聞きました。正蔵叔父さんという方、投資についてぜひお話をお伺いしてみたいですね。」
「「僕(私)も初めて聞いた〜。お年玉沢山くれる叔父さんいいなぁ。僕(私)達の親戚、お正月の時期は逃げる人ばかりだよね?」」
黒崎は頷いてにっこり笑い、空と海も声を揃えて言い、お互いに顔を見合わせてけらけら笑った。
「わ、私も知らなかったわ。けど、別に親戚の情報なんて知らなくても悔しくなんてないんだからっ!」
ましろは、肯定しながらも、何故か、プクッと頬を膨らましていた。
今度はそんな彼女に向き合って、俺は質問をした。
「ましろ。初めてのデートで行った場所覚えているか?」
「な、何よ。急に…。//水族館でしょ?」
動揺する彼女に、更に質問を重ねる。
「そこで見たペンギンの散歩、可愛かったよな…」
「何言ってるのよ、義隆先輩!」
俺が言い終わらない内にましろは顔を顰めて怒り出した。
「あの時は、ペンギンのお散歩の時間に間に合わなかったじゃない!」
そう。ましろの言う通り、初めてのデートの時、彼女が希望していたイルカショーと、ベルーガの解説、ペンギンのお散歩の内、ペンギンのお散歩だけは時間配分を間違えて見られなかったのだ。俺もはっきり覚えていたが、わざとらしくポンと手を叩いた。
「ああ。そうだった。イルカショーの時間と被っていて、そっちに行ってしまったんだっけ」
「そうよ! 私、ペンギンのペタペタ歩く見たかったのにぃ!」
「だから、お詫びにお土産屋さんで、ペンギン型のペンケース買ってやったろう?」
「そうだけどっ…」
まだその時の事を根に持っているのか、涙目で口を噤むましろは、よしのの外見をしているものの、自己主張が強く、昨日まで数ヶ月間付き合っていた元カノのましろと違和感がなかった。
「もちろん、今の話もよしのにはもちろん、学校で他の奴に話題に出したこともない。」
「そうですね。会長、虎田さんと付き合い始めてからも、惚気話ってあんまりしませんでしたよね。」
「「私(僕)達、会長の恋バナ聞きたかったのに、うまくかわされたよね〜。」」
俺の言葉に、黒崎、空と海はウンウン頷き…。
「知らなかった。ましろさん、お兄様と水族館デートでイルカショー見て、プレゼントももらったんですね。いいなぁ〜!」
よしのは、ギュッと目をつぶり頬に手を当てて、羨ましがっていた。
「よしのとは何度も行ってるだろ。」
「小学生の頃、お父さんお母さんと一緒にじゃないですか。二人きりとは違います…」
唇を尖らせるよしのに、それなら、今度二人で行くか?と言おうとして、今はよしのはましろの姿で、そんな場合ではないとフルフルと首を振った。
「と、とにかく。どうだ?黒崎。それぞれしか知り得ない事実も確認したぞ?」
俺が黒崎に念を押すと、彼はほうっと感心したように息をついた。
「はい。確かにそうですね。虎田さんの姿をしている彼女は鷹宮さんそっくりの言動で鷹宮さんしか知り得ない情報を知っていて、鷹宮さんの姿をしている彼女は虎田さんそっくりの言動で虎田さんしか知り得ない情報を知っていた。
現時点では、二人が入れ替わったと判断するしかないでしょうね」
黒崎はそう結論付けると、メガネの奥の瞳を好奇心に輝かせた。
「中身が入れ替わるなんて、こんな創作でしか起こり得ないような事が実際に起こるとは…!
ここからは、二人が元に戻る方法を手探りで考察していきましょうか?」
「「「……!」」」
「おおっ。」
「黒崎くん、気合い入ってる!」
俺、よしの、ましろ、空、海は固唾を呑んでその後の黒崎の考察に聞き入ったのだった。