入れ替わり 妹→元カノ《鷹宮よしの視点》
小さい頃から人見知りで、仕事で忙しい両親に代わり、優秀な兄にいつも面倒を見てもらっていた私=鷹宮よしの(15)
兄と同じ聖夜高校へ通いたい一心で必死に受験勉強をし、やっとの事で補欠入学を果たしたものの、優秀なお兄様に比べて、勉強も運動も人並み以下の私は、高校入学当初、周りの皆から、「鷹宮妹はバカ」「胸と顔だけしか取り柄のない女」と陰口を叩かれ、度々落ち込む事がありました。
「よしの…!やっぱりここだったのか…。」
「お、お兄様…!ぐすっ。」
北階段の地下へ続く階段という、人の通りにくい場所で、泣いていた私をお兄様は見つけてくれ、隣に座り、こう言いました。
「どしたん?話聞こかー?」
「お、お兄様…??」
いつものお兄様の口調らしからぬくだけた口調に戸惑っていると、お兄様はゴホンと咳払いをしました。
「いや、最近、空からよくネットミームを聞かされるもので、雰囲気が解れると思って使ってみたんだが……。俺には合わないし、不謹慎だったな……。すまん……。」
気まずそうに頭を擦っているお兄様がちょっと可愛くて、落ち込んでいたにも関わらず、私は笑ってしまいました。
「ふふっ。いいえ。気持ちが充分解れましたよ。」
いつも真面目なお兄様なのに、この時期はよくお茶目な事を言ってくれていたのですが、やはり、落ち込みがちだった私に気遣ってくれてたんでしょうね。
この日は、定期テストで悲惨な点数を取ってしまった私は、先生に呼び出され、お兄さんを見習って、もっと真面目に頑張りなさいと叱責されました。
お兄様の妹だからと、先生は私に高い能力値を見込んでいたのかもしれませんが、私としては、真面目に精一杯頑張ったつもりでした。頑張っても結果が出ない悔しさに、私は泣いていたのです。
お兄様は、そんな私の頭を撫でながら言うのでした。
「よしのがいつも頑張っているの、俺は知っているよ。よしのには俺もとても敵わないと思う事がいっぱいあるんだぞ?」
「嘘です。お兄様は、何でも完璧に出来るじゃありませんか」
唇を尖らせて言うと、お兄様は、笑顔で否定しました。
「そんな事はない。俺は落ち着きがないから、ゆっくり一つの事に取り組むのが苦手なんだ。だから、よしのと一緒に習っていた書道も、途中でやめてしまったろう?」
「ああ、そう言えばそんな事もありましたね…。」
小学生低学年の頃から、お兄様と共に書道を習い始めたのですが、中学年になるとお兄様は辞めてしまった事を思い出しました。
あの時は、サッカー、テニス、英会話など、他の習い事が忙しいせいだと思っていたのですが……。
「すぐに上手くならないと挫折して辞めてしまったけれど、あれからよしのがコツコツ努力を重ねて、どんどん字が上手くなっていくのを羨ましく思っていたんだよ。」
「お兄様…。」
悔しそうな表情を浮かべるレアなお兄様見て、私が目をパチクリさせていると…。
「よしの。俺は近々、生徒会選挙に立候補しようと思っている。俺が生徒会長になった暁には、お前のその字の綺麗さを見込んで書記になって欲しい。お願い出来るか?」
「お、お兄様…!喜んで…!」
お兄様に真剣な表情で頼まれ、私は驚きながらも、差し出されたその手を取ったのです。
それから間もなくお兄様は生徒会選挙で見事勝利して、この学校の生徒会長になり、そしてこの時の約束通り私は書記になりました。
副会長の黒崎くん、会計、会計監査の海さん&空さん(お二人は先輩ですが、先輩呼びはしないでよいと言われました。)もとてもいい人で、忙しくも楽しい生徒会活動に勤しむうち、クラスに優しいお友達も出来ました。
何もかもが順風満帆でしたが、ある日、いつものようにお兄様と一緒に帰る為、待ち合わせのベンチに向かうと…。
「私、あんたと、つ、付き合ってあげても、いいわよ?」
「???」
!!!
ツインテールの美少女に告白され、目を丸くするお兄様の姿をー。
「ハハッ。君はいつも本当に唐突だな。分かったよ。お試しで付き合ってみようか。」
「ほ、本当っ……!?////あ、いや、私が付き合ってあげるのよ!」
!!!!
そして、今まで女の子から告白されても、公務に差し支えるからと全て断っていたお兄様が、屈託のない笑顔で初めてその告白を受け入れる瞬間を見てしまい、私の胸はズキズキと耐え難い程の痛みを訴えました。
お兄様のハートを射止めたのは、私と同学年で才色兼備と名高い虎田ましろさんでした。
分かっていたことですが、私はお兄様の実の妹。結ばれてずっと一緒にいる事は出来ません。
辛い気持ちを押し込めて、お兄様が幸せになるならと、私は二人を笑顔で祝福する事にしました。
付き合って数ヶ月も経たない内に、家ののテレビ(50インチ 8K放送対応)に、ましろさんが他の男性と裸で絡むNTRビデオレターが映し出され、辛そうに顔を歪めるお兄様を見ることになろうとは、その時は思いも寄らない事でした。
それから…。それから、どうしたんでしたっけ?
色々な事があったような気がするんですが思い出せません…。
そして、何故だか頭がずきずき痛みます。
頭を押さえながら、私は考えました。
とにかく私は、ましろさんにNTRビデオレターの件と胸のサイズについて一言言ってやりたいと思っていたような気がします。
ん?でもそれについては、何故か心すっきりしているような……?
もう言ってしまったのでしょうか……?
そうそう。お客様のおもてなしには、どんな飲み物がいいか気になっていたような……。
ミルクセーキは微妙みたいでしたよね?白色が駄目なら、果肉の丸ごと入ったバナナ牛乳やイチゴ牛乳なら、多少色がつきますでしょうか?
いいえ。そんな事よりもっと気になっている事がありました……。
私は、お兄様にーー。
「よしのっ!よしのっ!大丈夫かっ!?」
「うう…ん…。あっ…??」
「よしの…!」
??
夢でしょうか?どこか遠くでお兄様の呼びかけられ、私が目覚めたような気配がしました。
「義隆先輩…!! こんな時まで『よしの、よしの』って…!! 触らないでよ!! 大嫌いっ!!」
ドンッ!
「わっ! よ、よしの…。い、一体、どうしたんだ…!?」
??!
何だか変ですね……。夢の中の私はお兄様を「義隆先輩」なんて呼んで、ましろさんのようにツンケンした態度で「大嫌い」なんて言っています。
まだぼんやりとしか思い出せませんが、私がお兄様に伝えたかった事は「大嫌い」では決してありません。
夢の中の私、これ以上お兄様を傷つけないで欲しいです…!
「う、ううん…」
夢の中の私への怒りにより、意識が現実に引き戻されました。
「ましろ…!」
近くにましろさんもいるのでしょうか。彼女を呼ぶお兄様の声が聞こえます。
私は、ゆっくりと起き上がって、間近に心配そうなお兄様を見るとパチパチと瞬きをして頬を紅潮させました。
「ハッ。お兄様…!! 」
思い出しました。
私は例え気味悪がられたとしても、私はお兄様に自分の想いを伝えたい。
私はそう強く思っていたのです。
「私、お兄様の事が大好きですっ!! ずっとずっと、男性として好きでしたぁっ!!」
「は、はぁっ?! ま、ましろっ…!?」
一世一代の告白をする私にお兄様は、当然泡を食っていました。
でも、ましろって??
そして、何か自分の声が変です。
「ひっ!!ど、どうして、私がもう一人いるの!?」
??!
その叫び声に振り向くと、青い髪青い目の女の子が、信じられないという表情を浮かべていて、私も悲鳴を上げました。
「きゃっ!!ど、どうして私がもう一人いるんでしょうか!?」
どう見てもその子は私でした。
私達は人差し指をお互いに向け、まじまじと相手の姿を見て固まっていました。
「????」
近くにいるお兄様は、カオスな私達の状況を見て、ただ目をパチクリするばかり。
思考がゆっくりな私が、訊問会→ましろさんを追いかける→余計な事を言ってしまい、掴みかかられ、ましろさんと共に階段を落下というこれまでの流れを思い出し、私達の中身がどうやら、入れ替わってしまったようだと結論付けているお兄様とましろさんの思考に本当に追いついたのは、その10分後の事でした…。
✽あとがき✽
ここまで読んで下さり、ブックマーク、ご評価下さりありがとうございました!
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本当にありがとうございました!
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